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スープがまるで「飲める焼き魚」? 廃棄予定「もったいない魚」を丸ごといかす中華そば

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
炭火焼濃厚中華そば(株式会社MUGEN提供)

2021年5月15日、東京・神田に開店した「炭火焼濃厚中華そば 海富道(しーふーどう)」は、コロナ禍でますます深刻になった、廃棄される運命にある魚を仕入れ、頭から尻尾まで丸ごと炭火で焼いてスープにした中華そばを提供する店だ。5月14日のメディア向け試食会に参加した。

東京・JR神田駅から徒歩2分、銀座線神田駅から徒歩1分のところに開店した海富道(しーふーどう)
東京・JR神田駅から徒歩2分、銀座線神田駅から徒歩1分のところに開店した海富道(しーふーどう)

コロナ前にも増してあふれる「もったいない魚」を活用

海で獲れる魚は、すべてが販売できるわけではない。数がそろわない、名前が知られていなくて出回らない、底引き網でたまたま一緒に獲れてしまう、大きさが標準より外れている、輸送中にうろこが擦れてしまう、カニの足が一本だけもげてしまう・・・など、さまざまな理由で廃棄される魚は多い。2021年2月23日、テレビ東京系列で放映された「ガイアの夜明け」に登場した静岡県・駿河湾の地域おこし協力隊は、獲った魚の半分が廃棄されると話していた。

そのような状況に加え、コロナ禍での緊急事態宣言がたび重なる中、飲食店の休業や時短営業により魚介類が在庫過多となった。生産者や卸売業者は、冷凍するなどして、なんとか在庫の調整をはかってきた。ただ、たとえ冷凍しても、長期保管中に品質は劣化していくので、使える期間にも限度がある。

「海富道(しーふーどう)」は、そのような「未利用魚(みりようぎょ)」と言われる魚の活用を、魚市場や生産者、仲卸業者から相談されたことからスタートした。

店の内観(株式会社MUGEN提供)
店の内観(株式会社MUGEN提供)

スープは5種類から選択:サバ・イワシ・シャケ・甘エビ・スルメイカ

スープは鯖(サバ)・鰯(イワシ)・鮭(シャケ)・海老(あまえび)・烏賊(スルメイカ)の5種類から選ぶ。どれも、頭から尻尾までを丸ごと炭火焼きにし、特殊ペーストにして特製だしと合わせてスープを作る。筆者は、海富道のスタンダードの「鯖(サバ)」を選んだ。鯖を炭火で丸ごと焼いてスープを作っているので、香ばしい。

鯖を丸ごと炭火焼きにしてスープにした中華そばに、あぶったネギ・チャーシューなどがつく。単品なら850円、ごはんつきの定食で1,000円(筆者撮影)
鯖を丸ごと炭火焼きにしてスープにした中華そばに、あぶったネギ・チャーシューなどがつく。単品なら850円、ごはんつきの定食で1,000円(筆者撮影)

麺の上には、一切、具がのっていない。店長の仲里佑介さんによれば、その理由は「麺を熱々のまま出すため」だそうだ。冷めている具をのせると、その分だけ、麺が冷めてしまう。

店長の仲里佑介さん(筆者撮影)
店長の仲里佑介さん(筆者撮影)

麺の特徴を伺ったところ、濃いスープが絡みやすい形状の麺を使っているそうだ。

鯖(サバ)の麺(筆者撮影)
鯖(サバ)の麺(筆者撮影)

カウンターで左隣に座った記者の方は海老を注文していた。こちらは海老のお頭(かしら)部分に入っている味噌の旨味が十分に感じられるスープだと、メニューに説明されている。

海老(あまえび)の中華そばの定食(株式会社MUGEN提供)
海老(あまえび)の中華そばの定食(株式会社MUGEN提供)

「もったいないプロジェクト」の一環

「海富道」を展開する株式会社MUGENは、以前から、未利用魚を活かした飲食店を展開してきた。その一つが、東京・有楽町駅から徒歩圏内にある「魚治(うおはる)」である。セリで残ってしまう魚をその日のうちに仕入れてメニューにし、夕方17時から展開してきた。2019年には東京・中目黒の高架下に「魚治(うおはる)」を開店、飲食だけでなく、一般消費者へ魚を売る小売も行ってきた。そのような流れから、今回、生産者や卸売業者から相談を受けたのだ。

(左)規格外の魚と、冷凍倉庫内で賞味期限を迎える在庫(右)捨てられる甘海老のお頭(株式会社MIUGENプレスリリースより)
(左)規格外の魚と、冷凍倉庫内で賞味期限を迎える在庫(右)捨てられる甘海老のお頭(株式会社MIUGENプレスリリースより)

生産者から消費者が直接買うシステムは、コロナ禍で急成長している。たとえばポケットマルシェ食べチョクなどのサービスだ。大地を守る会の「もったいナイシリーズ」もある。このようなサービスを通して、通常の流通には乗せることのできない魚介類や野菜・果物などが販売されるようになってきている。

厨房では互いに声を掛け合い、熱々のタイミングですぐに麺が提供される(筆者撮影)
厨房では互いに声を掛け合い、熱々のタイミングですぐに麺が提供される(筆者撮影)

フランス風「海老のビスク」などスープ単体もあり?

今回、試食させていただいて、気になったのは、中華そばのスープの塩分や油分だ。通常、ラーメンのエネルギー(キロカロリー)量は、麺よりスープの方が多い傾向にある。すべてを飲み干すと、塩分や脂質の摂り過ぎになってしまうので、栄養士や管理栄養士の方なら、「ラーメンはスープを残して」と食事指導することもある。試食当日、胃腸が本調子でなかったこともあり、通常ついてくるご飯も無しにしてもらい、麺も少なめにしていただいた。

そこで思い起こしたのが、4月にイベントで登壇した際にご一緒したスープストックトーキョーの「オマール海老のビスク」だ。カナダでは、海老のお頭(かしら)の部分は使われないため、カナダからそれをいただいて調理しているという。いわゆる食品ロスの活用だ。「ビスク」とはフランスのスープで、海老やカニなどのうち、市場に出せない足などの部分から旨味を抽出している。海老やカニなどを殻のまま焼いて、その後、ほかの原材料と一緒に煮込み、それを濾してからクリームを加える。二度焼くという意味の「ビスキュイ」という言葉が「ビスク」の由来だそうだ。まさに今回の「海富道」のスープの作り方は、フランスのビスクのようだ。メニューの魚としても「海老」はある。中華そば向けのスープのほかに、塩分や脂質を調整し、単体のスープとしても製品化できるのでは・・・と、素人考えながら思った。

カウンターのテーブルに置かれている海富道の説明書き(筆者撮影)
カウンターのテーブルに置かれている海富道の説明書き(筆者撮影)

環境に負荷をかけないスープの処理

これは「海富道」に限らず、すべての中華そば(ラーメン)店に検討いただきたいのが、環境に負荷をかけないスープの処理である。スープは油脂が多く、そのまま流すと環境に負荷をかける。「海富道」では、スープを余さず食べてもらうことを目的に、定食メニューとしてご飯をつけている。

農林水産省関連の事業で毎年行っている「食品産業もったいない大賞」の第二回で食品産業もったいない大賞審査委員会委員長賞を受賞した、宮城県仙台市の株式会社こむらさきは、「ラーメン店厨房内で行う 節水・省エネと排水量及び汚濁負荷の削減」を実施している。「海富道」でもSDGsを考えているとのことなので、調理した後、顧客が食べた後のことまで考えていただけると、よりSDGsの精神に近づくと感じた。

店舗情報

店舗名:炭火焼濃厚中華そば 海富道 (しーふーどう)

住所:〒104-0061 東京都千代田区神田 鍛冶町3丁目3番2号 床屋3ビル

アクセス:JR(山手線、京浜東北線、中央線)神田駅北口より徒歩2分 東京メトロ (銀座線)神田駅4番出口より徒歩1分

電話:03‐6260‐8558

営業時間:月〜土 11時~23時 ラストオーダー(※要請により順次変動)

定休日:日曜日

席数:14席

公式サイト

公式Instagram

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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