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旅館や飲食店の料理を捨てないために 一対一のコミュニケーションの次に社会への問題提起が始まるのでは?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

泊まった旅館の料理が多過ぎて食べきれなかったと、旅館の料理の写真つきでにtwitterに投稿した男性が、一時期、twitterのトレンドになっていた。

参考:「廃棄前提」騒動で注目 「旅館の料理が多め」はなぜ?日本旅館協会に聞いた(J-Castニュース)

事後に書かれたブログを読むと、食品を廃棄するのはもったいない、とは思っており、今回の件は旅館の料理が食べきれないほど多いことに対する「問題提起」だと書いているものの、事前に旅館に連絡したり、料理が出た時点で旅館の方に減らすことをお願いしようとはしなかったそうだ。

国は、飲食店などでの食べ残しを防ぐため、2017年5月に飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項という通知を出しており、食べ残さないためには、事業者側だけでなく、消費者側も留意すべきだと述べている。

旅館や飲食店で、できる限り食べ残しを出したくない場合、われわれ消費者側は、次のようなことはできるのではないだろうか。

1、旅館や飲食店を選ぶ / 宿泊は素泊まりにする

今回トレンドになった方は、日頃は旅館を使わず、今回は「Go To」のキャンペーンがあり、割引になるから泊まったとのこと。夕食時に生ビールをジョッキで頼んでいるようだった。生ビールを飲み、好きな食べ物を好きな量だけつまみたいのであれば、一泊二食つきではなく、素泊まりにすればよかったかもしれない。ブログによれば、今回の宿泊施設で素泊まりを選ぶと、往復2,140円の有料道路を使って飲食店まで行かなければならないため、素泊まりはしにくかったとのこと(Go Toで安くなった分で2,140円の有料道路代は捻出できるのでは?とは思うが、移動するのが面倒だったということだろう)。

筆者は出張や旅行でホテルを予約するとき、たいがい素泊まりにする。その近くに飲食店がない場合、チェックインしてから食べに行く。あるいは食べてから宿へチェックインする。高齢者と一緒に泊まるのなら、泊まったところからあまり動かないほうがいいので食事つきにするが、そうでなければ、自分で食べるものや量を選べるようにした方が、食べ残しはしないで済む。

飲食店であれば、明らかに量が多いとわかっている店には行かない。大盛りで知られるラーメン屋があるが、行く前から「おそらく食べきれない」と思い、長いこと行かなかった(先日、初めて行ったことは後述する)。

2、予約時に「少なくして」という

この方は、子どもの食事は子どもに適した分量が出てくると思っていたら、予想外に、大人と同じ分量が出てきたそうだ。確かに、小学生に対し、大人と同じ分量では多いだろう。

旅館の場合、公式サイトや予約プランに、食事の写真や品目を載せている。今回の旅館も、予約するときに、だいたいの量はわかるので、「夫婦と小学生が二人なので、料金はそのままで構わないから、食事は大人3人分くらいにして」など、お願いしておけば減らしてくれる。ただ、インターネットでの予約では、食事を少なくする選択肢はなかったようだ。

3、旅館や店に来てからお願いする

旅館の場合、大広間で、他の部屋の人たちと一緒にとる場合がある。その場に来れば、食事の量や品数がわかるので、そこで、食事の量の調整をお願いする。

飲食店の場合も、注文するときに「ちらし寿司のご飯を少なめに」などと頼めば、少なめに盛り付けてくれる。前述の、大盛りで知られるラーメン屋も長らく行くことはなかったが、たまたまセミナー会場の近くにあって昨年末初めて入った。店員さんが、注文時、「初めてですか?」「うちのは多いから、女性だったらこのくらいでちょうどいい」など、客が食べ残さないような情報の提示を何度も何度もしてくれていた。おそらく、食べ残しが頻繁に発生しているのだと思われた。

4、食事が来てから頼む

この方は、食事が来てから旅館の方に「下げてください」と言っても、コロナ対応のために廃棄になってしまうのがわかっていたため、あえて伝えなかったとブログで書いている。だが、下げたものを100%捨てるとは決めつけられず、どうするかは旅館の関係者でないとわからないのではないだろうか。手をつける前に「これは食べきらないから下げてください」といえば、働いている人のまかないとして食べていただけると、今回、ツイートで関係者が書いている。

厨房で残ったものは、従業員の食事(まかない)にして食べる場合が多い。食品ロスを減らそうと努力している旅館やホテル、飲食店は、今や全国に多くある。何しろ、2019年には「食品ロス削減推進法」が成立・施行され、世界ではSDGsで「2030年までに小売・消費レベルで食料廃棄を半減」と数値目標が立てられているので、意識の高い人や組織は、当然、実行している。

筆者が西日本の宿に泊まったとき(朝食だけは全員についていた)、全体の量を見て、自分のお腹や体調と相談し、「これは確実に食べきることができない」と思ったので、一部の料理は下げてもらった。客の膳として出される前に下げてしまえば、無駄になることはない。

5、食事を済ませてから折詰を頼む

どうしても食べきれなかった場合、刺身などのなま物を除けば、折詰に詰めてくれる場合もある。飲食店の場合なら、ドギーバッグを使うことができる。

まず、目の前の人と一対一のコミュニケーション、そのあと社会への問題提起が始まるのでは?

以上のように、本気で食べ残しを出したくないと思えば、旅館や店を選ぶ時点から始まって、予約の時、旅館や店に来たとき、食事が届く前後で、お客である自分ができることは、どのタイミングでもある。それをしなかったということは、「廃棄したくない」と思いつつも、自発的にロスを減らそうとは思っていないということではないだろうか。

実際、ご本人のブログには、「予約時に、食事はほとんど気にしておらず、正直な話、熱心に見てはいないのが事実」と書かれている。食事に興味がなく、予約時に食事の内容を熱心に見ようとせず、食事を目の前にしても減らすようお願いしなかった人が、食事の量について "問題提起" をした、ということだ。

まずは当事者(旅館)に対して言うことを言い、やることをやってこそ、初めて社会への問題提起が始まるのではないだろうか。(旅館との)一対一のコミュニケーションをすっ飛ばし、SNSで不特定多数に「大失敗だった」と写真をさらしたことが、大切なこと(コロナ禍で大変な思いをしている中、おもてなししてくださった旅館に対する敬意)が抜け落ちているように感じてしまう。社会的課題の解決とは、まず、目の前の足元から始まるのでは?

たとえば、飲食店で持ち帰りを頼んだら、「保健所がうるさいから」と断られてしまった。別の店にいったら「衛生上の理由で一律禁止」とまた断られてしまった。一対一のコミュニケーションを繰り返しても、らちがあかない。そこで、「飲食店では、生ものを持ち帰らないことや、季節、○○などに気をつければ、持ち帰りを許可してよいのではないだろうか」と、社会に対して呼びかけ、問題提起をする。

食べ残したことを「もったいない」とは思いつつも、それは自分のせい(自責)ではなく「旅館が廃棄前提で多く出したせいだ」と旅館側を責める(他責)ように(少なくとも最初は)読み取れてしまったことが、多くの人の感情を逆なでしたのではないだろうか。

旅館の関係者だけではなく、これまでに、この観光地の旅館で心のこもったおもてなしを受け、家族や友人との旅の思い出を作ってきた人は、たくさんいるだろう。旅は行って帰ってきた瞬間に終わるが、旅の思い出は、生きている間じゅう、心の中で大切に持ち続けていく。

大人も子どもも食べる量を事前に調整するスキルは重要

筆者は、出されたものを何がなんでも食べきるように、とは思わない。たとえば機内食などは、量の調整をお願いすることは不可能だ。飛行機の中で長時間過ごし、食欲がないのに、出てきた食事の量が多過ぎれば、必然的に残すことになる。それを、「食べきらねば」と義務感から吐くまで食べたら、乗り物酔いはするし、体調も崩してしまうだろう。

海外だと、飲食店のメニューに料理の写真はない。よくわからない料理を頼み、いざ出されたら、どうしても食べられない、ということもある。それを、具合が悪くなってまで食べきろうとするなんて本末転倒だから、しなくていい。

無理なときは仕方ないが、食べ物を無駄にしないために、できることがある時はしたほうがいいとは思っている。

ある小学校の5・6年生を対象とした調査では、「体調が悪いとき、学校給食をどうしますか?」と聞いたら、「頑張って食べる」という子が90%近かったという。

参考:

9割が「体調が悪くても給食を頑張って全部食べる」のは大人が心身の健康を壊して働く姿を表してはいないか

調査を担当した先生は、「自分の体調をわかって、盛る前に、今日は少なめにしてくださいと言える子にならないといけない」と話している。

これは5~6年生に取った調査の結果です。

「体調が悪いときに給食をどうしますか」という質問をしたときに、頑張って食べるという子どもが、「よくする」と「時々する」を合わせると90%近いんですね。

自分の体調をちゃんと分かって、そのとき「今日は少なめにしてください」とか、そういうのが言える子どもにならないと、本当はいけないかな、と思っています。

これはこのまま放っておくと、将来のメタボ(メタボリックシンドローム)になってしまう。「もったいないから食べてしまう」になってしまうんですね。

血圧やコレステロールを注意されているのにもかかわらず食べてしまう、というのが、私たちが教育した結果だと思うと、ちょっと悲しいです。

自分自身の体の状態を考えて食べる量を調整するというスキルというのも、(小学校)高学年あたりになってくると必要かな、と思っています。

出典:赤松理恵先生の言葉

今回の問題とは別の件ではあるが、2020年8月4日、舞田敏彦さんは「データえっせい」で、授業で生徒に対し批判的思考を促しているかという48か国の調査で、日本が48か国中、最下位である(つまりそういう教育をしていない)ことを述べている。日本では、自分の意思を主張せず、「嫌でも、気に入らなくても、提示されたことには黙って従う」姿勢が透けて見える。

今回の場合、食べきれない料理を「廃棄前提」で出す旅館についての問題提起だと当事者は書いている。だが、料理が食べきれないと手をつける前にわかっていたならば、食べ残してからSNSに書き込むのではなく、食べる前に、目の前にいる旅館に伝えてもよかったのではないだろうか。それが、食べ物や料理を作った人への敬意を持ちながらの問題提起ではないか。無駄にしない選択肢はあったのに、手をつけた後で「多過ぎた」と言っても、もう捨てるしかない。「覆水盆に返らず」。

中学校で習う「消費者としての責任」

1982年に国際消費者機構が提言した「消費者の8つの権利と5つの責任」は、中学校で履修する。

YouTubeで、食べ切れないとわかっている量を飲食店で注文し、「こっちが金払っているんだから、残そうが何しようが客の勝手」とうそぶいている人を見ることがある。

消費者は、お金さえ払えば何をしてもいいか、というと、そうではない。5つの責任の中には「社会的責任を持つ」ことや「環境への配慮」もある。自分が消費行動を行うことで、環境や社会にどういう影響をおよぼすかを考えてから行動する責任がある。

消費者の権利と責任(ながさき消費生活館公式サイト)

農林水産省がまとめた飲食店やホテルの食品ロス削減「好事例集」

冒頭に述べた通り、2017年5月、4つの省庁(消費者庁・農林水産省・環境省・厚生労働省)は、飲食店での食べ残しを防ぐための留意事項、という通知を出した。この通知には、飲食店側だけでなく、消費者への啓発も明記されている。食べ残さないための責任は、料理を出す側だけでなく、消費者側にもある、というものだ。

飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項

農林水産省は、飲食店等の食品ロス削減の好事例集(2019年10月、農林水産省)と題し、ホテルや飲食店の食品ロス削減事例をまとめている。

軽井沢にあるホテルブレストンコートは、披露宴の参列客に対しても、量や食事の嗜好などを当日聞き、ロスが出ないような工夫をしている。1つのテーブルごとに1人の給仕を割り振って、客の食事の進み方に目配りしたり、ビュフェの場合、一気に食事を出してしまうのではなく、客の食べ具合に応じて少しずつ出していくようにしたりしている。残ったものは堆肥にし、それで野菜を育て、その野菜を食事として出す、というサイクルを創っている。

2019年5月に成立し、10月に施行された「食品ロス削減推進法」は、事業者だけでなく、消費者も生産者もすべて、食品ロスを減らす責任がある、ということを明示している。そこが、事業者のみを対象とした「食品リサイクル法」と違うところだ。

相手から提示されたものに対して不満があるのなら、そこで多少波風は立てたとしても、その場の一対一のコミュニケーションで自分の意思をはっきり伝えるほうが、あとで不満をSNSで不特定多数にさらすよりも、結果的には、自分と相手の両方を敬うことになるのではないだろうか。食事の場合、それは、食べ物と、それを用意するのに関わったすべての人に対する敬意でもある。自戒を込めて…。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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