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恵方巻と一緒 10月が世界食料月間で食品ロス削減月間だからといって食のイベントを10月に集中させる件

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

食関係のイベントが10月に集中し過ぎ

10月16日は、国連が定めた世界食料デーだ。日本では、2008年から、10月の1ヶ月間を世界食料月間としている。10月16日の「世界食料デー」に合わせて、さまざまな食のイベントが開催される。

さらに日本政府は、10月30日を「食品ロス削減の日」とした。宴会の食べ残しをなくすため、宴会の最初の30分間と最後の10分間は席について食べよう、とする「30・10(さんまる・いちまる)運動」の数字をひっくり返して「10・30」としたものである。これまた2017年から、食関係のイベントが10月に開催されるようになってきた。

おまけに2019年は、10月1日に食品ロス削減推進法という、日本で初めてとなる食品ロスを減らすための法律が施行された。そのため、食のイベントが、例年にも増して、ますます10月に集中している。

主催者ごとに全部違う・・・

筆者も、例年、10月は予定が多いことを覚悟している。食品ロス問題の啓発のチャンスを頂けることに深く感謝している。

だが、2019年の講演は、尋常でない予定の入り方である。

依頼される講演の持ち時間も内容も、主催者によって違う。

新聞社主催のシンポジウムでは「5分」。

省庁主催の会では「10分」。

G-20の国際ワークショップでは英語で「15分」。

省庁と新聞社主催の会では「20分」。

また別の会では「30分」。

企業経営者向けでは「120分」。

当日、会場で投影するパワーポイントも、ただ単純に枚数をカットすれば済む、というわけにはいかない。対象者もテーマも異なるため、いちいち作り変える。

それに加えて、新聞やテレビ、ラジオの取材や出演もある。翌月11月や12月、2020年1月や2月の講演依頼まで飛び込んできて、今月10月から資料の提出を求められる。

なんでもかんでも10月開催でないといけないの?

どうしても10月開催でないとならない国際的な行事などもあるだろう。だが、多くの食関連イベントを、一年=12ヶ月あるうちの10月だけに集中させることで、食関係の組織や個人、講師は、疲弊してしまう。

筆者の場合、講演やイベント登壇の依頼は、例年8月には、ほとんど1件もない。

食のイベントが集中するのは、「食欲の秋」ということもあるだろう。10月が気候的にも適していることもあると思う。だが、ここ頻繁に台風が日本列島を襲うことを考えると、10月が一年間の中で最も適しているとも言い難い。

なぜ、食のイベントは「10月開催」でないといけないのだろう?

「2月3日」の恵方巻と同じ図式

恵方巻も、「2月3日に、その年の恵方(縁起の良い方向)を向いて、黙って食べると福が来る」ということで、その日に集中させて、資源が少なくなっている海苔や、海産物や、コメや、卵などを大量に入手して、調理する。そして、売れ残ったものや、工場で待機しておいて出荷されなかったものを、廃棄する。

2019年2月3日夜、コンビニエンスストアの棚(筆者撮影)
2019年2月3日夜、コンビニエンスストアの棚(筆者撮影)

2月3日に黙って海苔巻きを食べれば福が来るくらいなら誰も苦労しない。

2019年2月3日夜、百貨店の閉店5分前に272本残っていた、半額値引きの恵方巻(筆者撮影)
2019年2月3日夜、百貨店の閉店5分前に272本残っていた、半額値引きの恵方巻(筆者撮影)

2019年は、1月に、農林水産省が小売業界に対し、「需要に見合った数を販売するように」と通知を出した。にもかかわらず、経済学者の試算で10億円分以上の恵方巻を廃棄しているのだから、福が来るどころか罰(ばち)当たりだ。

処分される大量の恵方巻(日本フードエコロジーセンター提供)
処分される大量の恵方巻(日本フードエコロジーセンター提供)

恵方巻も、10月に連日開催される食のイベントも、似たような図式ではないだろうか。

どこもかしこも横並びで隣と同じことをやる。

命ある、限りある資源や生き物(食資源や人材)を一点集中で消耗し、疲弊させ、枯渇させる。

これは、持続可能なやり方とは言えない。

SDGs(最新の改訂前のもの。国連広報センターHP)
SDGs(最新の改訂前のもの。国連広報センターHP)

講演者も「しゃべるマシーン」や「スイッチ押せば自動的に話してくれるテープ」ではないのだから、毎回、同じ内容を、同じ時間、話すわけにもいかない。

食に関する知識を、広く社会や人々に啓発する機会だって、本当は10月だけでなく、一年を通してあるべきだろう。

2020年に期待

2020年には、世界食料月間や食品ロス削減月間の関連イベントの主催者となる組織の方は、考え直して頂けるとありがたい。本当に、どうしても、10月でないといけないのか。それは義務なのか。違うだろう。

国際的な絡みで動かせない行事以外は、日程をずらして開催したらどうだろうか。

このような意見を口にしているのは筆者だけではない。2019年10月の食イベントでご一緒した何人もの人が同じことを言っていた(だいたい呼ばれる人は決まっているので)。

啓発の機会に呼んで頂ける機会は、冒頭に書いた通り、もちろん、ありがたい。少しでも食品ロスのことを知ってもらい、人々の意識や行動が変わるチャンスだと思って、できる限り、お引き受けしている。でも、機械じゃないので限界がある。

「世界食料月間のイベント」や「食品ロス削減月間」と銘打ったものを、少しだけずらして、9月や11月に開催したって、誰も何も不満は言わないと思う。

食は、一年365日を通してすべての人が関わるものだ。10月だけじゃない。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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