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賞味期限切れスーパーの元祖 ヒュッゲの国デンマークの食品ロス年70万トン削減目指すwefood

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
デンマーク・コペンハーゲンの賞味期限切れ食品スーパーwefood(筆者撮影)

日本にも、賞味期限切れ食品を破格の値段で売る「賞味期限切れスーパー」が少しずつ増えてきた。その草分け的存在が、2016年に開店した、デンマークの賞味期限切れ食品スーパー、wefood(ウィーフード)だ。

食品ロス削減と、貧困・飢餓の支援が目的

wefoodは、世界の食料生産量の3分の1(13億トン)が食品ロスとして捨てられることを改善し、8億人が飢餓と貧困に苦しむ現状を変える目的でスタートした。開業資金は、世界の貧困者支援を目的としたデンマークのNGO、Dan Church Aid(DCA:ダン・チャーチ・エイド)と緊急支援団体が、3週間のクラウドファンディングで集めた。得られた資金は、およそ100万DKK(DKK=デンマーククローネ、およそ1,575万円、2019年9月現在)。

2016年2月22日、wefoodは、アマー(Amager)島のコペンハーゲン空港そばに、第1号店を開いた。最初の2ヶ月で1万人の顧客が来店し、25万DKK(およそ393万7500円)を売り上げた。次いでコペンハーゲンに2号店、オーフス市に3号店をオープン。2018年9月にはフィンランドのヘルシンキにも開店した。

日本の、いわゆる「賞味期限切れスーパー」との違いはあるのだろうか。デンマークのコペンハーゲンにあるwefood2号店を訪問し、プロジェクトマネジャーのマーティンさんを取材した。

ーはじめまして。

Jan-Martin Mikkelsen(以下、マーティン):はじめまして。wefood のプロジェクトマネジャー、マーティンです。

ーよろしくお願いします。

マーティン:デンマークには、wefoodが3店舗あります。アマー島にあるコペンハーゲン空港のそばに1号店。コペンハーゲンのこの店が2号店。オーフス(Aarhus)市に3号店。

オーフス(Aarhus)市にある3号店(wefood提供)
オーフス(Aarhus)市にある3号店(wefood提供)

マーティン:2019年に、もう1店舗開店予定です。2020年からは、毎年2店舗ずつオープンしていきたいと考えています。ただ、開店するにはお金がかかります。

新店オープンするときは、「取りあえず」ではなく、きちんとやる。店をオープンするときは、ポール・デュー・イエンセンファンドのような基金から資金を得ます。基金側は、食品ロスの問題に携わることができます。そこで得た収益を使って他国での支援活動もできます。

wefoodは、ファンドからサポートを得て開店し、その後は自分たちで自立する。販売をきちんとして、財政的に自分たちの足で立っていられるようにする。さらにはwefoodの母体であるNGOの支援活動、貧困や飢餓の支援もできることを見据えて事業を広げていきます。

デンマークには非常に大きな食品ロスのシンクタンクがあります。私たちの団体のトップが、そのシンクタンクの役員に選ばれました。「食品ロス問題に精通している」ということで選ばれたことを誇りに思っています。

wefoodの目的として、年間70万トンあるデンマークの食品ロスの削減に努めることは大事です。その一方で、今お話したように、貧困や飢餓の支援事業もまかなっていかなければなりません。wefoodの母体はNGO、「国民教会の緊急支援事業」なんです。

wefoodの収入は、南スーダンやエチオピア、バングラディシュのような最貧国で、飢餓と闘う人のために活動する組織の資金にもなっている。

粒が欠けてしまったお米を半額で販売

取材前に調べたところ、wefoodは、賞味期限切れ食品や賞味期限間近の食品のほかに、形の悪い野菜、パッケージに傷のあるものなどを販売している、という。たとえば、へこんだ缶詰、色が黒くなったバナナ、賞味期限が接近したオリーブオイル、柑橘類、ナッツなど。

ーここの店ではどんな食品を売っていますか?

マーティン:たとえば、このお米は、wefoodのオリジナルブランドです。お米は、インドから籾(もみ)が付いた状態で輸入されてくるんですね。それを、ユトランド半島の北にある、デンマーク唯一の精米所で精米し、米の粒が欠けて半粒になってしまったものを集めた商品なんです。

 取材に応じてくれたプロジェクトマネジャー、Jan-Martin Mikkelsen(マーティン)さんが左手で指差している紫色の袋に、粒の欠けたお米が集められて入っている(筆者撮影)
取材に応じてくれたプロジェクトマネジャー、Jan-Martin Mikkelsen(マーティン)さんが左手で指差している紫色の袋に、粒の欠けたお米が集められて入っている(筆者撮影)

マーティン:普通のお米と形は違うかもしれません。でも、味は同じです。通常のスーパーで22(デンマーク)クローネ(およそ346円)ぐらいで売っているお米が、その半額の12クローネ(およそ189円)で売ることができるわけなんですね。

賞味期限残り3ヶ月未満のもの 大手スーパーマーケットチェーンでは売らない

マーティン:これは、ベジタリアン(菜食主義者)や、ビーガン(絶対菜食主義者)の方が好んで飲む、麦のミルク(抽出液)でつくったアイスコーヒーです。牛乳ではないので冷蔵保存しなくてよいものです。

常温保存の加工食品の場合、大手スーパーマーケットチェーンは、3ヶ月未満しか賞味期限が残っていないものは置きたがりません。全国に配送して、倉庫で待機して、1カ月半経って、お店の棚に置ける期間が短くなって、結局、商品棚から撤去して・・・という作業は、非常にコストがかかるからです。

ー日本と同じですね。日本も賞味期限のずっと手前の販売期限で撤去します。そのもっと手前の納品期限を超えると納品すらできません。

マーティン:大手スーパーマーケットチェーンは、要冷蔵ではない商品であっても、「新鮮な印象になるから冷蔵品の棚に置いてくれ」と指示を出すこともあります。

牛乳ではなく、麦から抽出した液体で作ったアイスコーヒー。ベジタリアンやビーガンに好まれる製品だという(筆者撮影)
牛乳ではなく、麦から抽出した液体で作ったアイスコーヒー。ベジタリアンやビーガンに好まれる製品だという(筆者撮影)

コオロギのチョコも

マーティン:これは、昆虫のミントチョコです。デンマークで製造されたものです。タンパク質の含有量がかなり高いので、タンパク質が足りない、途上国の方にも向いています。

ーなんの昆虫ですか?

マーティン:コオロギです。

昆虫(コオロギ)のミントチョコ(筆者撮影)
昆虫(コオロギ)のミントチョコ(筆者撮影)

ー私は日本でコオロギを食べてみました。

マーティン:そうでしたか。このコオロギチョコは、ある大手のジムのPB(プライベートブランド)です。賞味期限が1年過ぎているんですけど、原材料は基本的に水と砂糖なので、実際には長く持ちます。通常、1袋23〜24クローネ(約362〜378円)で売っているのを、2袋で15クローネ(約236円)で売っています。

コオロギのミントチョコ(筆者撮影)
コオロギのミントチョコ(筆者撮影)

タイ製のビール、賞味期限切れてから1年はOK

マーティン:これはタイで作ったビールです。2019年4月で賞味期限が切れているんですが、ビールですのであと1年は大丈夫です。

2019年4月賞味期限のタイ製ビール(2019年7月、筆者撮影)
2019年4月賞味期限のタイ製ビール(2019年7月、筆者撮影)

業務用3kgのパパイヤ缶詰

マーティン:これは、レストランなどで使う業務用の缶詰で、パパイヤが3kg入っています。1号店のアマーのお店では、このパパイヤの缶詰でケーキをつくり、お客さんに試食してもらってレシピを配り、「この商品はこんなふうに使ってください」と提案しました。

業務用、3kgのパパイヤの缶詰を持って説明するマーティンさん(筆者撮影)
業務用、3kgのパパイヤの缶詰を持って説明するマーティンさん(筆者撮影)

デンマーク語の表示がないため通常の店では売れなかったアイスクリーム

マーティン:このアイスクリームにはデンマーク語の表示がないため売れなかったそうです。それで、こちらに頂いたんです。wefoodにはドイツ人のボランティアがたくさんいるので、ドイツ語からデンマーク語に訳してもらい、ラベルを貼って販売することができたんです。このアイスはクリスマス用のもので、時期外れなので、とても安く手に入りました。

大量のリンゴ、ケースのうち1つでも悪いのが混ざっていると通常のスーパーでは売れない

野菜の倉庫から連絡を受けることもあります。たとえば、スペインのリンゴが、ヨーロッパサイズの大きなパレット(荷物を載せる四角い台)に載って、デンマークにたくさん運ばれて来ます。その中の、たった1つだけリンゴが悪くなっていることがあります。他のはいいけど、1つか2つ悪いのがあるから買いたくない。というときに「持ち帰ってくれ」と言われても、船会社やスペインの売り主は、またスペインに輸送して戻すのも、非常にお金がかかるので困ってしまう。それでwefoodに「引き取ってくれないか」ということで連絡があって。大量のリンゴをボランティアが仕分けをして、いいものを見つくろって売ります。他のお店で25クローネ(393円)ぐらいするリンゴが、半額近い15クローネ(236円)で売れたりします。

取材した日はリンゴやパンが多めに入っていた(筆者撮影)
取材した日はリンゴやパンが多めに入っていた(筆者撮影)

賞味期限切れの業務用ポテトチップス

マーティン:これは、普通の小売店では並ばない、レストランなど業務用のポテトチップスです。2019年3月に賞味期限が切れたものです。

2019年3月に賞味期限が切れたポテトチップス(筆者撮影)
2019年3月に賞味期限が切れたポテトチップス(筆者撮影)

自分たちで確認し、疑わしいものは売らない

ー日本で賞味期限切れを扱う店は増えてきたんですけど、何か食品事故が起こったときに責任を問われてしまう。免責制度がない。デンマークではどうですか?

マーティン:デンマークには非常に厳しい食品安全基準があります。要冷蔵のものは冷蔵車で運ばなくてはいけない、賞味期限を過ぎたものは、におい、感触や手触り、味などに関して独自の検査をして、売れるか売れないかを判断する「自主検査基準」があります。

wefoodで販売しようとする食品は、自分たちで確認して、「これは問題があるかもしれない」と思ったものは、すぐ廃棄します。なぜなら、1つの商品のせいで、wefoodの評判が非常に落ちたり、病気の方が出てしまったりするのは望ましくないからです。検査をして、少しでも疑いを持ったものは売りません。

私は20年以上、小売業界に携わっていますが、こういう商品で気持ちが悪くなったとか、体調を崩したという例は聞いたことがありません。wefoodでも、独自の基準に基づき検査し、実際食べてみて味やにおい、感触を確認しているので、問題が出る可能性は非常に低いと思います。

一方、食べられるのに捨てるということも防がなければなりません。こちらは「食べられるかどうか、自分で確かめましょう」というキャンペーンのチャートです。

食べていいのかいけないのか、消費者が自分で判断するためのチャート(筆者撮影)
食べていいのかいけないのか、消費者が自分で判断するためのチャート(筆者撮影)

デンマークの消費者保護法(消費者法)に基づいて、日付のどこを見て、食べていいのか、それとも食べてはいけないのかを、消費者が自分自身で判断するチャートになっています。

クリスマスのホットワイン用ドライフルーツ&ナッツ

マーティン:これは、グルック(glogg)と呼ばれるホットワインに使う、ナッツやスパイス、レーズンをブレンドした「グルックミックス」というものです。クリスマス前しか売れないんですど、クリスマスでない時期でも、これをバッグに入れておいて、健康的なスナックとして食べる人も多いです。

グルック(glogg)は、12月のクリスマス前に、シナモンやレーズンや砂糖を入れて飲むワインです。たいてい、賞味期限は、翌年の10月までとか。次の年のクリスマスには飲めないように賞味期限が設定されているんですね。でも、10月まで持つものが、あと2カ月、12月まで持たないわけがない。でも、次の年に、前の年のものを飲まれては困ってしまう。次の年に売れなくなってしまう。だから、企業は賞味期限は必ず、次の年の行事より前に設定しているわけなんです。

ホットワインに使うグルックミックス(筆者撮影)
ホットワインに使うグルックミックス(筆者撮影)

色とりどりの砂糖、カラースプレー

マーティン:これはいろんな色のお砂糖、カラースプレー(シュガー)。2018年11月に賞味期限が切れていますが、砂糖です。デンマークでは、非常に高価なんですね。ですので、すごく売れ行きがいいです。

2018年11月賞味期限のカラースプレー(シュガー)(2019年7月、筆者撮影)
2018年11月賞味期限のカラースプレー(シュガー)(2019年7月、筆者撮影)

同じ商品なのに、P店とQ店で値段が格段に違う・・・メーカーはそれでもOK?

ー日本では、正規の価格と同じ商品を、別の店で安い価格で販売することを、食品メーカーが嫌うことがあります。たとえば自社のブランドの食品が、Pというスーパーでは正規の料金の100円で売っています。一方、Qという安売りスーパーでは、その10分の1の値段、10円で売っています。破格の値段で安売りすると、自分たちの会社のブランド価値が落ちてしまう、ブランドイメージが毀損してしまうと考えがちです。そういうことは、デンマークではないでしょうか?

マーティン:答えはイエスとノーの両方ですね。そういうことも経験したことがあります。ホームレスの支援施設に提供して、売らない選択をする企業もあります。

私たちも、ただ単に値段を安くすることが目的ではないんです。たとえば、賞味期限過ぎてもまだ食べられる食品を「20%割引」や「25%割引」など、ちょっとだけ安くして提供して、そして、ちゃんと利益も得る。その利益を支援活動に使うのが私たちの目的ですので。

wefoodは、54万ユーロ以上の売上高を出している。得られた収益は、貧困国の難民キャンプで食べるためのコオロギの飼育や、家庭菜園と野菜の提供、太陽電池ランプの設置、地雷の撤去、DCA(Dan Church Aid)による緊急援助や社会保護計画、農産物生産促進プロジェクトなど、さまざまな目的に使われている。

マーティン:なかなか売れないようなら、25%割引だったものを30%割引にして、さらに40%割引にして、売り切る努力をします。

繰り返しますが、ただ単に、値段を安くして売るだけが私たちの目的ではないんです。

株を売って店舗設立の資金として活用

マーティン:これはwefoodの株式です。

wefoodの株について説明するマーティンさん(筆者撮影)
wefoodの株について説明するマーティンさん(筆者撮影)

写真なので小さいですが、実際にはA4の大きさです。新しいお店を開店するときは、100クローネ(およそ1,575円)で販売します。100クローネで、だいたい1,500から2,000株が売れます。それを、店舗の設立資金に使うわけです。

フルタイムで働くのが難しい人へ、ゆったりと働ける場を提供

マーティン:3号店にあたるオーフス市のお店を開店したときには、ポール・デュー・イエンセン(Poul Due Jensen)という基金から、100万クローネ頂いたんですね。オーフスの店舗は、キャッシャー(レジ、会計場所)のテーブルを上下させて車いすの高さまで調整できるんです。だから、車いすのお客様にも自由に入って頂くことができます。

オーフス市の店舗(wefood提供)
オーフス市の店舗(wefood提供)

マーティン:wefoodで働いているボランティアの中には、社会的に厳しい状況にある方もいらっしゃいます。

病気から回復された方が、社会復帰をする職業トレーニングやプログラム研修の場として、wefoodで働くこともあります。あるいは、普通学校ではなく、特殊教育を受けている若い学生が、先生と一緒に来ることもあります。

倉庫に保管してあるクリスマスグッズは、失業保険をもらっている2人のボランティアが、自分たちのペースで、ストレスを感じない働き方で、仕分けしてくれています。

倉庫にしまってあったクリスマス関連グッズ(筆者撮影)
倉庫にしまってあったクリスマス関連グッズ(筆者撮影)

マーティン:「ゆるい」という表現は使いたくないんですが、wefoodは、市場経済で動いている職場より、競争が激しくなく、少しゆったりしていて、どんな方でも受け入れる土壌がある、ということなんですね。働く場を作っていることが、ある種、社会貢献になっている側面もあります。これをもっと拡充したいとも思っているんです。

取材した日もボランティアの方が働いていた(筆者撮影)
取材した日もボランティアの方が働いていた(筆者撮影)

2018年に173トン以上の食品を販売

マーティン:1店舗あたり、だいたい350人くらいのお客さんが毎日来てくれています。

3店舗目のオーフス市のお店は2018年の5月に開店しましたので(1年間に1店舗、半年に)0.5店と数えるとすると、2018年の1年間に、2.5店舗で173トンの食品を販売したことになります。2019年には250トンの食品を売る見込みです。

wefoodには全部で200名のボランティアがいて、2つのチームがいます。1つは商品供給チーム。食品を提供してくれるfotex(フォーテックス)というスーパーなど、いろんな店から商品を供給してもらっています。もう1つはソーシャルメディアチーム(ソーミーチーム)。ソーシャルメディア(SNS)にwefoodの関連情報をアップします。商品供給チームもソーシャルメディアチームも全員ボランティアです。

wefoodの有給スタッフは、私と、もう1人だけですね。二人とも小売業界から転職して来ました。私はお店の管理をしていて、もう1人はロジスティクス(物流)を担当しています。供給チームが商品を仕入れられるように、車両がちゃんと動いているかなど確認する仕事などです。私たち二人とも、ここの母体となるNGOの職員で、wefoodの担当者です。

オーフス市のwefood(wefood提供)
オーフス市のwefood(wefood提供)

ボランティアへの感謝や食品企業への感謝を賞状に

wefoodの各店舗では、その年の成果をこのような賞状にして、ボランティアの方への感謝の気持ちを示しています。

ボランティアへの感謝を賞状にして示している(筆者撮影)
ボランティアへの感謝を賞状にして示している(筆者撮影)

一番上に書いてあるのが売り上げです。その下に書いてある「75.24トン」が、一年間に削減できた食品ロスの量です。最後に書いてあるのが、賃料や管理費を抜いた後の最終的な利益です。支援活動に使われたお金の金額も書かれています。ボランティアで働いている方は、食品ロスに関心がある方、外国での支援活動に関心がある方、いろいろな目的で来て下さっています。その方々に向けて成果を発表しています。

店内の壁に掲げられた「TAK(ありがとう)」の白抜きの文字の中には貢献者の名前がびっしり書かれている(筆者撮影)
店内の壁に掲げられた「TAK(ありがとう)」の白抜きの文字の中には貢献者の名前がびっしり書かれている(筆者撮影)

日本でwefoodをやりたい場合はどうしたらいい?

ーフィンランドでwefoodが立ち上がったということなんですけど、日本でwefoodをやりたいとなったら、どんなふうに許可してもらえるんでしょう?

マーティン:wefoodの権利は、ここの母体であるNGOにあります。私たちが長年かけて築いてきた方法(ノウハウ)がありますので、頂かなければならない経費はあります。ご希望の場合、NGOの役員(統括運営側)に話をして頂くことになります。実際に立ち上げるとなったら、もちろん、私も同僚もお手伝いします。

協力企業が得られるメリットとは

マーティン:wefoodには50の協力会社があります。デンマークの法律で、無料で食品をもらってはいけないので、少額を支払っています。私たちは、協力して下さっている食品の供給先企業に、四半期ごとなど、定期的に報告をしっかりしています。

食品を提供してくださっている協力企業にも、先ほどお見せしたような賞状をお渡しします。協力企業は、wefoodに商品を納入することによって、廃棄コストを削減できます。消費税25%のうち、20%を税金支払いの際に引くことができます。税制優遇です。食品を提供して下さっている企業にとっても、経済的なメリットがあるんです。

経済的メリット以外にも、たくさん得るものがあります。たとえば各国の大臣や、デンマークの大臣がwefoodの店舗を訪れるときに一緒に参加できたり、私たちのロゴマークを広報として使って頂いたり、wefoodの車両に協力企業のロゴマークを載せて宣伝することもしています。

取材を終えて

マーティンさんは、小売業として20年以上のキャリアを誇る人だった。2018年にwefoodに加わる前は、デンマークの大手スーパーチェーンであるネット(Netto)やフォーテックス(Fotex)などをたばねる「セリンググループ」の地域販売活性マネジャー(district manager)を5年間、担当していた。その前には15年間、自営業で小売業を営んでいた。2018年、wefoodの担当者として採用されたのは、「デンマークの小売業界の法整備に精通している人材だから」という理由だったそうだ。

マーティンさんが繰り返して強調していた「ただ単に値段を安くして売るだけが私たちの目的ではない」という言葉が印象的だった。得られた利益を、最貧国の飢餓問題を解決するために使ったり、社会的に困難な状態にある人に働く場を提供したりするなど、単に食品ロスを安く売っておしまいではなく、社会貢献の役割を強く意識に留めていた。

デンマーク語の“HYGEE”(ヒュッゲ)という言葉が、ここ数年、日本でも注目を浴びている。書店によっては関連書籍コーナーも設置されているくらいだ。ピタッと当てはまる表現はないようだが、世界幸福度調査で何度も1位をとっているデンマークの人の、気持ちの持ち方や時間の過ごし方などを指して言うことが多い。物を大切にする、気取らない、余分な物を持たない姿勢もその一つだ。たとえ賞味期限が過ぎていても、食べられるものは売り、消費者は買って食べきる。デンマークで賞味期限切れスーパーが誕生したのも自然の流れかもしれない。

とことんまで「売り切る努力をする」という言葉も、食べ物を売る立場の姿勢として好感を持てた。ターゲット(顧客)としても、低所得の人だけではなく、食品ロス問題に関心を持つ人や、NGOの活動を支援したい人、学生や年配者など、幅広くとらえていた。

マーティンさんは、店舗内の電気系統をLEDに変えたことで消費電力が大幅に減り、たった一年で元が取れたとも話した。

「どこかに支援を頼らないと運営ができないというのでなく、wefoodとして自立しなければならない。支援団体へのサポートも必要なので、エネルギー消費にも気を使いたい」

出典:マーティンさんの言葉

寄付に頼らない自立の姿勢を清々しく感じた。日本の「賞味期限切れスーパー」は、場合によっては90%以上も割引して売っている。wefoodとは、割引率も含め、様々な面での違いを感じた。国ごとに合うやり方はあると思うが、互いによい面を見習っていきたい。

マーティンさん(Jan-Martin Mikkelsen、右)と筆者(ウィンザー庸子氏撮影)
マーティンさん(Jan-Martin Mikkelsen、右)と筆者(ウィンザー庸子氏撮影)

注:デンマーク語で使われる文字が、仕様上、入力できないため、グルック(glogg)など、一部「O(オー)」などのアルファベットで代替表記しています。

謝辞

取材に際し、デンマーク語を日本語へ通訳して下さった、ウィンザー庸子氏と、団体の概要を調べて下さった本多将大氏に深く感謝申し上げます。 

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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