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シリアルで作るビール!英ケロッグ規格外「ココポップス」「ライスクリスピー」で作るエールビールって?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
英ケロッグのシリアルとシリアルで作ったセブンブラザーズのビール(英ケロッグ提供)

イギリスを視察した際、食品ロス問題に取り組むジャーナリスト、トリストラム・スチュアート氏が、余ったパンでビールを作る取り組みをしていると伺った。

トリストラム・スチュアート氏(左)と筆者(イギリスで、関係者撮影)
トリストラム・スチュアート氏(左)と筆者(イギリスで、関係者撮影)

ビールの名前は「トースト・エール(Toast Ale)」

イギリスだけでなく、世界各国で、余ったビールを活用し、ビールを製造するプロジェクトが進行している。

と思っていたら、今度は、シリアルで作られたビールがあると伺った。

2019年7月5日付のニューヨークタイムズに掲載された英文記事が、2019年8月30日付の朝日新聞「Globe」で編集されて掲載されている。

もともとビールは穀物から作られるので、食品ロスになりそうな余剰のパンやシリアルから作られても、不思議ではないのかもしれない。

ケロッグ・コーンフレークから作られたセブン・ブラザーズのエールビール「Throw Away IPA」(英ケロッグ社提供)
ケロッグ・コーンフレークから作られたセブン・ブラザーズのエールビール「Throw Away IPA」(英ケロッグ社提供)

規格外シリアルを活用したIPA(エールビール)

イギリスのケロッグの「ライスクリスピー」は、米をパフ状に加工したシリアル。「ココポップス」は、ライスクリスピーをココア味にしたものだ。

セブン・ブラザーズが作っているビールのうち、「ライスクリスピー」を使ったものはペールエール、「ココポップス」を使ったものはダークスタウトへと製造されている。

筆者が1997年から2011年まで勤めていた日本ケロッグでは、イギリスの「ココポップス」にあたる商品は、「チョコクリスピー」という商品名で販売している。海外からの輸入ではなく、国内で製造している。「ライスクリスピー」は、日本人より外国人の方に人気なので、外国籍の方が多く住んでいる東京エリアの店舗で販売している。

在籍中、英国・マンチェスターにある英国ケロッグには2度ほど出張した。

これまでは、英国ケロッグでは、規格外シリアルは、家畜のエサにしていたそうだ。(人間が飲むための)ビールに加工されたことで、環境配慮のキーワード「3R(スリーアール)」の3番目の優先順位である「リサイクル(再生利用)」から、2番目の「リユース(再利用)」、あるいは「アップサイクル」(元のものより付加価値が高いものに作り変える)にレベルアップしたとも言える。

規格外のコーンフレークを使ったエールビール「Throw Away IPA」(英ケロッグ社提供)
規格外のコーンフレークを使ったエールビール「Throw Away IPA」(英ケロッグ社提供)

「規格とは何か」を見直す時期では

食品を工業生産すると、食品ロスをゼロにすることは非常に難しい。

たとえば自然災害で停電したら、それまで製造ラインに載っていたものは、製造段階の中途となり、すべて廃棄せざるを得なくなる。

自動計量器(オートチェッカー)で計量し、表示された量を下回るものは「計量法違反」となるので、ラインからはじかれ、「規格外」となる。

箱や容器包装に破れなどが生じたものも「規格外」。

食品メーカーにとって、販売することのできない規格外はリサイクルするしかないので、この「シリアルビール」の事例のように、別の製品に加工して販売することができるのは、廃棄コストを減らし、かつ、新たなビジネスチャンスとなり得る場合もある。

規格外コーンフレークで作ったIPA(エールビール)を注ぐ男性(英ケロッグ社提供)
規格外コーンフレークで作ったIPA(エールビール)を注ぐ男性(英ケロッグ社提供)

規格外が出てしまうのは加工食品だけではない。

野菜や果物、魚、肉も「規格外」で出荷も流通もできないものがたくさんある。

トマトは少しでも傷が入ると規格外、梨は黒点(黒いつぶつぶ)があるとB級品になる場合もある(筆者撮影)
トマトは少しでも傷が入ると規格外、梨は黒点(黒いつぶつぶ)があるとB級品になる場合もある(筆者撮影)

そして、これら規格外は、今の日本では「食品ロス」として政府(農林水産省・環境省)の統計値にはカウントされてはいない。

味は変わらないのに、厳格な規格から少しはずれてしまった、という理由だけで出荷できず、廃棄される。

懸命に作った生産者の方は泣いている。

幸いなことに、規格外の農畜水産物や加工食品を生かした取り組みが、世界中で登場してきている。

それでも、規格外で廃棄されるものは大量に発生している。

その規格は本当に必要なのか。

「規格とは何か」について見直す時期だと思う。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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