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「本気で減らそうと思って書いていますか」朝日新聞社説『食品ロス「捨てる」を抜けだそう』に伝えたいこと

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:Masato Ishibashi/アフロ)

2018年9月25日付の朝日新聞朝刊に『食品ロス「捨てる」を抜けだそう』と題して社説が掲載されている。多くの人が目にする社説で、このように食品ロス問題を取り上げて頂いて、とてもありがたい。10年前と比べると、「食品ロス」という語句がメディアに登場する回数は増えている。

先日、2018年9月22日付の朝日新聞夕刊には、(2030 SDGsで変える)食品ロスゼロ、ネットなら 作りすぎ・規格外…お菓子人気という記事が掲載され、取材を受けた筆者のコメントも末尾に載せて頂いた。

食品ロス問題にくわしい井出留美さんは「食品廃棄の費用は結局、代金や税金で消費者が負担している。世界では食料の約3分の1が捨てられている。大量消費を前提にした作りすぎをやめることが大切」と話す。

出典:2018年9月22日付 朝日新聞夕刊

過去30年間分の主要150紙誌が検索できる、日本最大級のビジネスデータベースサービスG-Search(ジーサーチ)で検索してみると、主要全国紙5紙のうち、日本経済新聞をのぞく4紙で、「食品ロス」の記事を載せた回数が最も多いのが朝日新聞で、328回。次いで読売新聞(316回)、毎日新聞(301回)、産経新聞(94回)。

筆者は2011年3月の東日本大震災を機に食品メーカーから独立し、その後2011年から2014年までの3年間はフードバンクの広報を務めた。それまでの間は、比較的、どの全国紙の取材も受けていたが、2015年以降になってからは、特に朝日新聞から取材の依頼を受けることが多い。他のメディアからの取材や出演もあるが、5大全国紙に関してのみ言うと、朝日新聞が最も多い。恵方巻やうなぎなど、季節食品のロスに関しても斬り込んでいる。

食品ロス問題を研究する井出留美さんは、恵方巻きの廃棄や販売方法が問題となる背景には「足りないと販売する機会を逃すため、小売りは多めに発注し、工場は余ることを見越して製造せざるを得ない」という構図があると指摘する。「作り過ぎの姿勢を見直す時ではないか」と語った。

出典:2018年2月6日付 朝日新聞(ニュースQ3)恵方巻き、定着の裏で大量廃棄

「欠品NGの前提」についても書いて欲しかった

ここ何年間も、その熱心さを見てきたからこそ、9月25日付の社説には、現場の記者たちがこれまで何年もかけて獲得し発信して来た、食品ロス削減への熱意と、具体的な発生源や削減方法の「エキス」を、キーワードだけでもふんだんに盛り込んで欲しかった。

事業者系の食品ロスに関しては、もちろん書いてあるとおり、「3分の1ルール」の見直しは急務だ。知人の食品メーカー勤務者や取材先のメーカーから、「3分の1ルールをどうにかして欲しい」と言う声は多く聞いてきている。

でもそれだけではない。「欠品許さない」の風潮も蔓延しており、これは深刻だ。欠品しないためには「作り過ぎる」必要があるからだ。

消費者は、普段さほど使わない食料品であれば「スーパーやコンビニの棚になくても(欠品してても)いいよね」という寛容さを持たなければならない。

そもそも、自然なものから生まれるのが「食べ物」なのだから、自然の現象によって、とれない時もある。自然災害があれば、品薄や欠品になるが、それも受け入れなければならない。だが、多くの小売りは「せっかく買いに来たお客様に迷惑をかけるから」(裏の声:他の店に客を取られて売り逃し、売上落ちるから)と言って、メーカーに対し、欠品を許さない。取引停止の罰も食らうかもしれないとなれば、メーカーは、なんとしても欠品だけは避けなければならない。見込みより多く製造することになる。

賞味期限の年月表示化も遅々としている

3ヶ月以上の賞味期間があれば日にち表示が省略できる「賞味期限の年月表示化」も、大手小売りや食品メーカーは「一年以上の賞味期限のもの」で、日にちを省略する手続きを終えて来ている。だが、日頃、スーパーやコンビニで購入する食品を見ても、まだまだ道のりは遠い。3年間の賞味期間がある缶詰の底にも日にちはご丁寧に入っているし、1〜2年間の賞味期間がある乾麺や、1年以上のレトルト食品やペットボトル飲料も同様だ。進めている企業とそうでない企業の落差が大きい。

食品業界には「日付後退品」という商慣習があり、前日納品したものより一日でも賞味期限が古いと納品を受け付けない。このような厳格なルールがあると、いくら賞味期間が長い食料品でも、たった一日のために、食品を運ぶトラックが右往左往することになる。労働力やエネルギーの無駄になるばかりでなく、スムーズな交通アクセスの邪魔になる。

大手食品企業社員も「国の削減目標?知らない」

大手食品関連企業の社内研修をすると、農林水産省が平成26年から設定している、食品関連企業の削減目標も、把握していないことが多い。新入社員ではなく、経営陣が、だ。

農林水産省 食品産業 発生抑制目標値(農林水産省の情報をもとに筆者パワポ作成)
農林水産省 食品産業 発生抑制目標値(農林水産省の情報をもとに筆者パワポ作成)

自分が所属している企業や業界の数値目標を聞いても「知らない」「把握していない」。

環境配慮の「3R(スリーアール)」の中で、食品リサイクル法が最も重視しているのが「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」だ。日本の食品リサイクル法だけではない。世界の最優先が「Reduce(リデュース)」である。

災害備蓄品の廃棄や生産調整の農産物は日本の「食品ロス」に含まれていない

これだけ災害が多いと、家庭だけでなく事業者でも備蓄は必須だが、毎年、大量に廃棄されている備蓄の廃棄は、日本の年間の食品ロス646万トンにはカウントされていない。ヨーロッパではカウントされる、畑での農産物の廃棄も含まれない。畑だけでなく、港の魚も、規格を超えた肉も同様だ。

時間単位で管理するシステムがロスを産む

スーパーやコンビニで販売される弁当やサンドウイッチは、時間単位で消費期限が印字されており、そのさらに2〜3時間前の「販売期限」が切れればレジを通らなくなる。

先日、「サマータイムやめて」スーパーとコンビニの悲鳴の裏側という記事を書いたが、このような時間単位の厳格な制度があると国の要職者が知っていれば、サマータイムなどという実現可能性の低い案は最初から出てこないだろう。

そして、そのような時間単位で動き、一日に多いと6便も運ばれてくるコンビニの食料品が捨てられているという現実。

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新商品が多過ぎることも食品ロスの課題

1000出して3つしか生き残らない、と称される、「新製品」が多過ぎるのも問題だ。とりあえず、メーカーは「新製品」みたいのを出さないと、商談に通らない。棚に並ばない。消費者が手を伸ばさない。

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「余ったから使う」前に「余らせない」努力が先

社説では、フードバンクなど、「余ったものをどうする」といったように、余る前提で書かれていたが、前述の通り、「3R」の最優先が「Reduce(リデュース)」なので、まずはReduceの重要性を、家庭のロス削減についても主張すべきだ。

なぜなら、日本政府は2018年6月に、「家庭の食品ロスを2030年までに半減させる」と、初めて数値目標を公表したからだ。何より、これは全国紙の中でも朝日新聞が熱心に取り組んでいる「SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)」を受けての目標設定だ。社説では、この重要なことにも触れていない。

「Reduce(リデュース)」の次が、フードバンクなどのReuse(リユース:再利用)、そしてRecycle(リサイクル:再生利用)と続く。

「本気でロスを減らそうと思って書いていますか」

朝日新聞には、これまで328件もの食品ロス関連の記事がある。それらは現場の記者が足で稼いで来た貴重な生の情報だ。なのに、社内にある宝が「社説」に活かされなかったのが、とても、残念に思う。前述の、ロス削減のための最優先のキーワードが一つも入っていない。

筆者も、時間がない時、そのテーマに対する知識が薄い時、とりあえず文字数を埋めるだけ、借りて来た情報だけで書いてしまうことがある。でも、その本気の無さ、上っ面の書きっぷりは、そのテーマに真摯に取り組んでいる読み手には伝わってしまう。

文章は、読み手の時間を奪う。時間を奪うことは、相手の命の時間を削ること。書き手も命を削って書いている。本気で、思いを持って、書いていきたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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