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冷蔵庫なしでも食いつなぐためには?食品ロス専門家が考えた柔軟な対処法

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

震度7を記録した北海道地震で、地元の焼肉店やスーパーが、「腐らせるぐらいなら」と焼肉を無料で提供したり、「どうせ溶けるから」とアイスクリームを無償で配布したりする支援が続いている。

一方、家庭では、「冷蔵庫を開けなければ食料が保存できる」「いや、だめになる」といった情報が飛び交っている。はたして、どの情報が正しいのだろうか。今回のように長期間にわたり停電した場合、冷蔵庫や冷凍庫を開けるタイミングは、何を基準に判断すればいいのか。冷蔵できなくても食べられるものはあるのだろうか。

冷蔵庫は停電してから開けなければどれくらい持つのか?

冷蔵庫は、停電してから開けないでいれば、はたして食べ物はどれくらい持つのだろうか。

これについては、冷蔵庫の機種やサイズ、中にどれくらい食べ物を入れているかなど、家庭によって条件が様々なので、一概に断定はできないだろう。

冷蔵庫収納家の福田かずみさんは、東日本大震災で被災した方の体験談をブログに書いている。

東日本大震災の時に綴ったあるライターさんの記事から紹介します。

『停電して7時間、アイスクリームが溶けていなかった!!』

冷凍庫に入れていた、棒状のアイスが無事だったそうです。そして、粒氷も溶けることがなかった。これは、わたしも驚きました。

出典:災害時の冷蔵庫の使い方と備え。停電したら、食材はどのくらいもつの?

冷蔵庫は、扉の開閉によって温度が上がるので、やたらに開け閉めしなければ、7時間といったかなりの長時間、冷凍食品でも持つようだ。

新潟県の、災害食に関するサイト「災害時の食の備えは大丈夫?」でも、冷蔵庫をしばらく開けなければ、庫内の温度が保たれ、食材が持つと書いてある。

新潟県の「災害時の食の備えは大丈夫?」のサイトより
新潟県の「災害時の食の備えは大丈夫?」のサイトより

冷凍食品は6時間から8時間で自然解凍する

食品の保存に関する専門家、元東京農業大学教授、徳江千代子先生が監修した書籍『もっとおいしく、ながーく安心 食品の保存』(朝日新聞出版)によれば、冷凍食品を自然解凍するのにかかる時間は6時間から8時間とのこと。

小泉武夫さんは『賢者の非常食』で乾物を挙げている

発酵食品に詳しい小泉武夫さんは、著書『賢者の非常食』の中で、災害に適した非常食として「餅、高野豆腐、湯葉、麩、納豆、干し芋、切り干し大根、干物、鰹節、梅干、味噌、漬物、佃煮」といった、乾物類や保存食を挙げている。

無印食品「非常食を考える」

冷蔵庫に依存し過ぎず、日頃から、常温保存でき、非常時に不足しやすいタンパク質を摂取できるこれらの食品を保存しておくのも必要だろう。

卵は10度以下なら57日間、生で食べることができる

卵は、冷蔵しておかないとダメと誤解されているが、気温が10度以下であれば、産卵から57日間、生で食べることができる(日本卵業協会による)。

最近では、カップ麺も、水に浸しておくと食べることができるとの情報が流れているし、レトルトカレーやレトルトシチューも、常温で食べられるものが出てきている。

缶詰は、3年間と、長期間持つ。

缶詰のイワシカレーとサバカレー(筆者撮影)
缶詰のイワシカレーとサバカレー(筆者撮影)

電気が止まっていても、ガスを使う手もある。

命が棄てられていく

日本で初めての、北海道産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」は、Facebookページで、停電のために棄てられていく生乳と、そのせつなさを訴えている。

チーズのこえ 2018年9月6日 Facebook投稿

こんな時こそ五感を働かせて食べ物を無駄にしないで

「賞味期限は美味しさの目安。五感で判断して」とはよく言われるが、災害時の食品が不足しているこんな時こそ、五感を働かせて、食べられるものは最後まで消費したい。

札幌市で焼き肉の無料炊き出し

札幌市では、「肉を腐らせるぐらいなら」と、焼き肉店が、無償で炊き出しを始めた。

店の人は「(どんな思いで始められたんですか?)ちょっと店が心配で、店を見に来たんですよ。そしたら、ちょうどこの間使っていたコンロがあって、冷蔵庫も止まってるので、肉を腐らせるぐらいならと思って、焼いちゃって振る舞おうということです。(相当な量を焼いていますね?)そうですね、結構、焼いています。(無償で提供しているということですけど?)気持ちでお金を置いていってくれる方も。それは一応、断らないでいただいていますが」と話した。

出典:北海道地震発生から15時間 札幌市で焼き肉の無料炊き出しも フジテレビ系 FNN

北海道地震発生から15時間 札幌市で焼き肉の無料炊き出しも(フジテレビ系 FNN)

セイコーマートは車のバッテリーを使って営業

北海道内が長期間停電する中、セイコーマートは、車のバッテリーを使ってまで営業していると報道された。

“神対応”停電でも営業続けた地元コンビニに賞賛の声【北海道地震】

ただ、賞賛される反面、実際にセイコーマートで働いている人からは、「寝込んだり、倒れたりしているパートがいる」という状況がツイートされている。

現地のコンビニ従業員も被災者。無理に営業するより販売期限の延長を

関西空港で食品が配られたり、セイコーマートでバッテリーを駆使して営業したりする姿勢を褒め称えるのはいいが、その裏では、従業員の人が飲まず食わずで過ごしていたり、体調を悪化させたりしている。それは、本当に褒め称えることなのだろうか。

7月に発生した西日本豪雨では、消費期限や賞味期限の手前に設定されている「販売期限」ギリギリにトラックが到着し、結局、ほとんど売る時間無しに捨てる現状をコンビニオーナーさんから聞いている。

「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由

災害時の「自助」「共助」「公助」のうち、最も求められる姿勢は、自らが自分を助ける「自助」である。コンビニに頼るのではなく、同じ被災者を働かせるのではなく、自分の分は日頃から自分で蓄えておくのが「自助」ではないか。

自助、共助、公助で備える(茨城県つくば市)

そして、法律でもなんでもない業界の「3分の1ルール」の「販売期限」も、災害時こそ融通をきかせて緩和させたらどうか。災害のたびに提言しているが、いつになったら臨機応変にできるのか。毎月、全国の何処かで災害が起きる日本だからこそ、いますぐにでも行動したい。国のトップを司る人たちも、今やるべきは災害支援だろう。こういうところにこそ斬り込んだらいかがか。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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