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南アフリカで余剰農産物のフードバンク 農産物の50%が廃棄される中、食品ロスを活かして1400万人へ

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
南アフリカ共和国(写真:アフロ)

南アフリカ共和国にフードバンク発足

南アフリカ共和国の現地NGOである、FoodForward SAが、新たに、余剰農産物を活用するフードバンクプログラムを発足させた。

FoodForward SAは、2009年に設立され、これまでにも、サプライチェーン(原料から製品・サービスとして消費者に至るまでの流れ)から、余った食品を回収し、必要なところへ分配する活動を続けてきた。

フードバンクとは

フードバンクとは、まだ食べられるにもかかわらず、様々な理由で捨てられる食品を引き取り、食べ物を必要とする組織や人へと分配する活動もしくはその活動をする団体を指す。

フードバンクの概念図(農林水産省HP)
フードバンクの概念図(農林水産省HP)

ネルソン・マンデラデーの7月18日にはフードドライブを実施

南アフリカでは、反アパルトヘイト運動を主導した元大統領、ネルソン・マンデラが生まれた(1918年)7月18日を記念し、この日を「ネルソン・マンデラデー」に指定している。彼がアパルトヘイトと闘った「67年」を記念して、誰かのために67分間の時間を提供しよう、としている。

2018年7月18日、FoodForward SAはフードドライブを実施した。全部で130トンの食料が集められた。

FoodFoward SAの公式ツイッターアカウントでは、集まった食料を詰める様子が映像で投稿されている。

フードドライブが、かなり大規模に行われた様子が伝わってくる。

企業の社員も「67分間」のボランティアを行なったようだ。

南アフリカ共和国では1,400万人分の食料が不足している

2015年9月の国連サミットでは、2030年までに達成すべき17の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)が採択された。

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)

1番目に「貧困」、2番目に「飢餓」が、それぞれ課題解決すべき目標として掲げられている。

世界銀行(World Bank)が定める絶対的貧困の定義は、一日あたりUS$1.90 未満で暮らしていることだ。全体の数は10年前、20年前より減ったとはいえ、まだ7億6,000万人存在し、世界人口の10.7%に相当する。

2018年7月2日付で、南アフリカ共和国でのフードバンク発足を報じたBizcommunityによれば、南アフリカ共和国では1,400万人の食料が不足している。

南アフリカ共和国では農産物の50%が廃棄されている

その一方で、規格外や、加工が十分でないこと、コールドチェーン技術の不足、市場へアクセスできないなどの理由により、農産物の50%が廃棄されている。この農産物の廃棄は、南アフリカだけでなく、世界中で発生している社会的課題だ。

FAO(国連食糧農業機関)は、農産物(りんご)を育てるまでに70リットルの水が必要で、それを捨てると、費やされた資源までが無駄になる、とツイートしている。

FoodForward SAは600団体に配分し、毎日25万人に食事を提供する

FoodFoward SAは、2009年からネットワークを構築してきた。このネットワークに所属している農家から、余った野菜や果物を集め、子供向けの施設や保育所、保護施設や介護施設など、600団体に配分する。

一食あたり、0.06USドルに相当する食事が、毎日25万人に提供されるという。

農産物だけでなく、パンも提供されるようだ。毎日700斤の食パンが提供され、1,100名以上に配分される。

FoodForward SAは、「12万人以上の小売業者や卸売業者、製造業者から集めた食品を配分できる可能性がある」と投稿している。

悲壮感のない、楽しみながらの社会貢献

筆者はアフリカ大陸に渡航したことがあり、前職では南アフリカの同僚とも毎月、電話会議で話していた。だが、この南アフリカでのフードバンク活動は、恥ずかしながら、知らなかった。FoodForward SAの公式サイトで、協賛企業のリストを見たところ、勤めていた会社のロゴが掲載されていた。

南アフリカの活動報告から伝わってくるのは、楽しさや、ある種のポップな感じだ。そこに悲壮感は感じられない。実際には深刻な社会的課題が横たわっているからこそ、明るく取り組もうと心がけているのかもしれない。

<参考資料>

2018年7月2日付 Bizcommunity "FoodForward SA's Second Harvest an agri outreach to feed more people"

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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