Yahoo!ニュース

サムライブルーのユニフォーム製作のアディダスはなぜ世界75カ所のオフィスでペットボトル禁止にしたのか

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

サッカー、ワールドカップ(W杯)から日本代表チームが帰国した。通称「サムライブルー」が着用していたユニフォームは、ドイツに本社を持つアディダスが製作した。そのアディダスは、ドイツ本社はじめ、世界75ヶ所のオフィスで、ペットボトルなどプラスティック製のボトルを使用禁止にしているという。2018年7月6日付の日経ビジネスオンラインの記事で、アディダス社ブランディング統括エグゼクティブ・ボードメンバーのエリック・リッキー氏が語っている。

 アディダスではオフィスでのペットボトルなどプラスチック製ボトルの使用を禁止しました。ドイツ本社を手始めに、現在世界75カ所のオフィスで禁止にしています。日本オフィスでも禁止にしています。従業員の反応もよく、活動が勢いづいてきました。

出典:日経ビジネスオンライン 2018年7月6日付 アディダス幹部「職場でペットボトルは禁止」 サムライブルー・ユニフォームを製作した独アディダス経営層が語る深刻な海洋ゴミ問題

なぜだろうか。

記事によれば、アディダスの信念は「スポーツを通して人生を変えること」。その中で、サステナビリティ(持続可能性)は重要な柱となっている。地球環境保全の取り組みにも積極的で、水を使わずに染色する製品を開発して水資源の使用量を大幅に削減したり、海洋プラスティックゴミで作ったシューズを販売したりしており、アディダス社は2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「世界で最もサステナブルな企業100社(グローバル100)」に選ばれた。ただ、消費者にもっとそれを伝える必要性を感じ、海洋プラスティックゴミを減らす活動に着目したのだという。

リッキー氏は

社会的な問題と個人的な感情が組み合わされると、活動は加速するものです。

出典:日経ビジネスオンライン 2018年7月6日付 アディダス幹部「職場でペットボトルは禁止」

と語っている。これは社会的課題を解決する上で、とても大切なポイントだ。声高に「これがいけないんです!」「やめましょう!」と語っても、人は動かない。頭ではわかっていても、感情が動かないと、人の意識は変わらないし、行動に結びつかない。

国連広報センター所長も「ペットボトルはやめた」

2018年7月4日から6日にかけて、品川プリンスホテルで開催されているエシカルサミット「エシカル2018」で、国連広報センター所長の根本かおるさんも、「ペットボトル(の使用)はやめた」として、こう語っていた。

今のままのライフスタイルを続けていくと、地球が3つ必要になると言われている。2050年には世界人口95億人になる。プラスティックゴミは年に800万トン発生。3.6億トンもの蓄積。2050年には、海の魚の重量とプラスティックの重量とが同じになると言われている。レジ袋は年間5兆枚使われている。ペットボトル、日本は分別して回収しているが、リサイクルされてペットボトルになっているわけではない。そのほとんど燃やされている。モルジブに行ってプラスティックゴミの現状を見てから、自分(根本氏)は、ペットボトルを使わず、水筒を持ち歩くようにしている。こういう会議でもぜひそうしていただきたい。

プラスティック、丈夫だから便利で、丈夫だから恐ろしい。3億トン以上もが蓄積している。

死んだミズサギドリを解剖すると、中から234個のプラスティックが出てきた。体重の15パーセントに相当するプラスティックを飲み込んでいた。これを人間に例えると、6キロから8キロの重量のプラスティックを飲み込んでいたことになる。

プラスティックが細かくなったマイクロプラスティックは有害物質を付着しやすい。それを魚が食べて、魚を人が食べることになる。

出典:エシカルサミット「エシカル2018」品川で開催 SDGsを自分事化して消費を通じて世界を変革する 

エシカルサミットで講演する国連広報センター所長、根本かおる氏(筆者撮影)
エシカルサミットで講演する国連広報センター所長、根本かおる氏(筆者撮影)

筆者もペットボトル購入をやめた

筆者も、根本氏の講演を聴いた7月4日の夕方、炭酸水を作る機械を購入した。ペットボトルの炭酸水を買わないで済むようにするためだ。

炭酸水を作る機械(手前、黒い方)(筆者撮影)
炭酸水を作る機械(手前、黒い方)(筆者撮影)

根本氏の講演を聴いたのも購入の決め手の一つだが、前の週に、ゼロウェイスト(ゴミゼロ)の運動を進める人たちとお会いしたのもきっかけになった。食品ロスを減らすことは、ゴミを減らすことでもあり、ゴミを減らすことは、食品ロスを減らすことでもある。

以前、聞いた話だ。PTAで「食事は毎日3食、必ず手作りにしましょう!」と熱弁をふるった女性の保護者が、自分の子どもにはコンビニ弁当を食べさせていたという。もちろん、忙しい時には市販のもので済ませていいだろう。そうであれば、「忙しい時は市販のものを活用しましょう」と、正直に言えばいいと思う。語る言葉と実際の行動との間に、あまりの乖離があると、説得力がない。自分は、できるだけ、言葉と行動に齟齬(そご)のないようにしたい。とはいえ、冷蔵庫で野菜を腐らせて食品ロスを出すこともあるし、飛行機の中で機内食を食べ残すこともあるし、全くゼロにはできないけれど・・・。

炭酸水を作る機械を使ってみた感想は・・

実際に、炭酸水を作る機械を買って、使ってみた感想は、「清々しい(すがすがしい)」(きよきよしい、ではない)。

ゴミを出すことに加担していない、という、スッキリ感がある。

炭酸も、自分でボタンを押して、その強度を調整できるので、強過ぎず、ちょうどよい、優しい感じの味になる。

飲むだけでなく、コメを炊いても美味しくなるというのでやってみた。少しだけ、モチモチした食感が味わえた。

炭酸水を作る機械に付属している2種類のボトル(筆者撮影)
炭酸水を作る機械に付属している2種類のボトル(筆者撮影)

シンポジウムや大学院、出張など外出時には水筒(マイボトル)持参で

2018年7月3日には、新宿区と新宿区の3Rの団体との共同開催による食品ロスのシンポジウムで基調講演し、パネルディスカッションでも登壇した。ペットボトルを出して頂いたのだが、水筒を持ってきていたので、それを飲んだ。

普段、持ち歩いている水筒(筆者撮影)
普段、持ち歩いている水筒(筆者撮影)

これは数年前から始めている。カフェでは、マイボトル(水筒やタンブラー)を持参すると、20円から50円引きになる。外出時間の多い出張や、大学院の研究室にこもる時などは、2本持って行く。

沖縄県・宮古島の海(筆者撮影)
沖縄県・宮古島の海(筆者撮影)

「自分の体に有害物質が入る」「先進国の急務」という危機感を持つ

プラスティックが5mm以下に小さくなった「マイクロプラスティック」は、海水中の有害物質を吸着しやすい。それを魚や貝が食べれば、食物連鎖で我々の体内に入り、悪影響を及ぼす可能性がある。

カナダで開催されたG7サミット(主要7カ国首脳会議)では「海洋プラスティック憲章」がまとまった。主要7カ国のうち、日本と米国は署名に加わらなかった。署名した欧州では、使い捨てのプラスティック製ストローを禁ずるなど動きが加速している。

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)ですら「周回遅れ」と評されている日本。世界が評価したサムライブルーの活躍やロッカールームでの振る舞いを、後手後手の対応で無碍にしないようにしたい。

参考記事:

日経ビジネスオンライン 2018年7月6日付 アディダス幹部「職場でペットボトルは禁止」 サムライブルー・ユニフォームを製作した独アディダス経営層が語る深刻な海洋ゴミ問題

毎日新聞東京版朝刊 2018年6月18日付 社説 海のプラスチックごみ 危機感持って対策促進を

エシカルサミット「エシカル2018」品川で開催 SDGsを自分事化して消費を通じて世界を変革する 

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事