パルムドール受賞映画『万引き家族』や目黒・虐待事件から考える 日本人の飢えへの鈍さ

(写真:ロイター/アフロ)

第71回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した、是枝裕和(これえだ・ひろかず)監督の映画『万引き家族』。先行上映で観てきた。これまでの是枝監督作品に描かれてきた要素が詰まっていた。中でも貧困や飢えに喘ぐ人が食べ物を求める様子は、食品ロスを活用し必要な人へと繋ぐフードバンクや人々を描き、第69回のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』と共通点があった。貧困や食の社会的課題を提言した映画が最高賞の評価を受けるのは、さすがヨーロッパで開催される映画祭だと感じた。

映画館MOVIX(ムービックス)に掲示されたポスターを接写(筆者撮影)
映画館MOVIX(ムービックス)に掲示されたポスターを接写(筆者撮影)

映画の評価は人それぞれで、観るも観ないも個人の選択なのだが、タイトルだけで拒否反応を示している人や、わざわざ「観ない」とSNSに書き込む人がいるのが気になった。「万引きを肯定する映画なんて」とか、「世界の恥」など・・・

是枝監督は、万引きを肯定する目的でこの映画を作ったわけではないだろう。

戦争映画は戦争を肯定するものだろうか。戦争の悲惨さや人々の苦しみを描き、二度と戦争を起こさないために作られるのではないだろうか。映画の中には争いも犯罪も溢れている。

映画の中だけではない。日本で大規模震災が起きた時、万引きが横行した。阪神大震災でも、東日本大震災でも、それは起きている。宮城県在住のマンガ家、ゆうみ・えこさんは、著書『1年後の3.11 被災地13のオフレコ話』で、2011年の東日本大震災で、美談ばかりではなかったことを書いている。ゆうみさんの知人は、友人から「被災地に行こう!ガレキの中から金目の物を拾いに行く」と言われ、友人関係をやめた。震災当日の夜、2階が助かった大型店から大量の盗難があった。数百体の遺体のある中、盗むことに対し、ゆうみさんは「それを脇目に物を盗んで行く人の気持ちって何なのでしょう」と語っている。小さなノコギリ片手に、遺体の指にはまっている指輪などの貴金属を切り落として盗んでいく人もいたそうだ。映画じゃない。リアル(現実)だ。

映画館に掲示されたポスターを接写(筆者撮影)
映画館に掲示されたポスターを接写(筆者撮影)

映画『万引き家族』には、母親に部屋を締め出され、寒いところにいる5歳の女の子、ゆりが登場する。奇しくも、現在、東京・目黒区で5歳の女の子が親から暴行を受け、2018年1月頃から十分な食事を与えず、栄養失調状態に陥り死亡した事件が報道されている。警視庁は、5歳の女の子が書き残した文章を公開した。

もうパパとママにいわれなくてもしっかりとじぶんからきょうよりもっともっとあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします

ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおします

これまでどれだけあほみたいにあそんでいたか あそぶってあほみたいなことやめるので もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいぜったいやくそくします

出典:警視庁が明らかにした、目黒・5歳児虐待で5歳児が書き残したノート(朝日新聞 2018.6.7付朝刊31面)

映画の話じゃない。これだってリアルだ。

世の中の事象は、見えている事象の水面下に原因がある。食品ロスという事象の裏には、事業者由来・家庭由来など、さまざまな要因がある。頭痛という事象は同じでも、原因はさまざまだ。風邪だったり、睡眠不足だったり。あるいは二日酔い、肩凝り、生理痛の場合もある。

映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』には、空腹のあまり、フードバンクで缶詰を受け取ったシングルマザーが、その場で開けて貪り喰う様子が描かれた。あまりの空腹に、恥も外聞もなく食べ漁る。映画『万引き家族』の食べ物の万引きは、何が根底にあるのだろうか。

目に見えているものしか見ようとしない人がいる。本当は、見えないところにこそ目を行きわたらせることが必要なのではないか。

映画館に掲示されたポスターを接写(筆者撮影)
映画館に掲示されたポスターを接写(筆者撮影)

先日、参加したSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)のセミナーで、日本が、世界の中でも周回遅れの取り組みであることが指摘された。なぜなのか。パネルディスカッションで、座長の田崎智宏氏は、「社会問題、自分の国の外で起きていることに対する感度が全然(ほかの国と)違っていて、その項目がSDGsの中にかなり入っている。そこが(日本人に)響かなかった」と指摘した。

2030年までに世界が達成すべき17の目標を定めたSDGs(国連広報センターHP)
2030年までに世界が達成すべき17の目標を定めたSDGs(国連広報センターHP)

米国のシンクタンクであるPew Global Attitudes Projectの調査(2007年10月発表)によると、「政府(国)は、最も貧困状態にある人を援助すべきである(State Should Take Care of the Very Poor)」という質問に対し、「完全に同意する(Completely agree)」と回答した人の割合が、調査対象47カ国中、最も低かったのが日本(15%)という結果になっている(棒グラフ参照)。「ほとんど同意(Mostly agree)」の割合を合わせても、日本が最低(59%)である。米国より低い。いわゆる「自己責任論」だ。

「政府が最貧困層を援助すべきと考えますか?」(Pew Global Attitudes Projectの調査、表の上部を引用)
「政府が最貧困層を援助すべきと考えますか?」(Pew Global Attitudes Projectの調査、表の上部を引用)

是枝監督は、2018年6月6日に開催された記者会見で「親の虐待を受けた子が暮らす施設を取材したときに出会った女の子に向かって(この映画を)作っている」と語っている。『万引き家族』は、リアルとフィクションが入り混じっている。

SDGsの1番のゴール「貧困をなくそう」(国連広報センターHP)
SDGsの1番のゴール「貧困をなくそう」(国連広報センターHP)

先日、食品ロスの研究者である京都大学の浅利美鈴准教授が、2017年時点で、日本のSDGsの評価のうち、「貧困」と「飢餓」は、「対策が十分できている」(写真で示す緑色の項目)との評価を受けていないことを発表した。

SDGsの2番目のゴール「飢餓をゼロに」(国連広報センターHP)
SDGsの2番目のゴール「飢餓をゼロに」(国連広報センターHP)

日本は、貧困や飢餓に対し、課題解決していない。食品ロスの問題が含まれるSDGsの12番に関してはレッドカードがついている。『万引き家族』にはこれらの課題が描かれている。映画の内容を理解しないで批判するのはどうなのだろう。

2018年5月31日にSDGsセミナーで発表する、食品ロスの研究者で京都大学の浅利美鈴准教授(筆者撮影)
2018年5月31日にSDGsセミナーで発表する、食品ロスの研究者で京都大学の浅利美鈴准教授(筆者撮影)

映画『万引き家族』は、2018年6月2日と3日の先行上映で興行収入約1.9億円を記録したそうだ(2018年6月6日、映画.comの記事より)。6月8日から全国公開される。世界の社会的課題(SDGs含む)への、日本人の感度が試される。

参考情報:

映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(第69回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作)とフードバンク

6月5日は世界環境デー 廃棄物資源循環学会セミナーレポート SDGsで世の中はどのように変わるのか

ゆうみ・えこ著『1年後の3.11―被災地13のオフレコ話』 (笠倉出版社 SAKURA・MOOK 44)

月刊「シネコンウォーカー」2018年6月号(MOVIX版)p2~3(月刊「シネコンウォーカー」はシネコンでのチケット購入者に配布される冊子)

映画.com 『万引き家族』

映画『万引き家族』公式サイト(2018年6月8日全国公開)