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守護神・上原の圧巻三者連続三振で、王者レッドソックスが勝率を5割に戻した夜。

一村順子フリーランス・スポーツライター
試合前のストレッチを行うレッドソックス上原(右)と田沢

上原が圧巻の今季8セーブ目

レッドソックスの上原浩治投手が、7日、本拠地フェンウェイパークで開催された交流戦対レッズの3−2で迎えた九回から五番手で救援、圧巻の三者連続三振で、今季8セーブ目を挙げた。

八回に味方打線が2点を奪って逆転し、最後は守護神投入でゲームセット。ファーレル監督は、「シャープさを増していた。我々の知っているコージらしいピッチングだった」と絶賛。捕手のピアジンスキーも「ここ数試合、ちょっと波があったけれど、きょうは、素晴らしいコージだった。三振3つ。それこそ、去年や今年、我々がずっと見て来たコージだったよね」と笑顔で振り返った。

13球中10球がストライク。最初の打者フレージャーに3球で見逃し三振を奪ったのが、上原が09年から積み上げたメジャーでの通算イニングが「300」の大台に達した瞬間だ。更に、ペーニャに外角直球を振らせて空振り三振、最後はルドウィックを内角直球で見逃し三振。これ以上、何を求めようかという完璧なリリーフぶりに、試合後のクラブハウスでは米メディアも多く守護神を取り囲んだが、上原自身はそれ程、満足はしていなかった。

「点を取られないように、っていう目標はできたので良かったですけど。今はまだちょっと我慢の時ですね。今日はたまたま良かったけれど、最近、ちょっとまとまっていないので。投げながら修正しているんですけれど、まだ完璧ではない」と、合格点をつけることをためらった。

右肩張りの後遺症が生んだ微妙なフォームの狂い

開幕から2週間程経過して、右肩に張りを感じた右腕は故障者リスト入りこそしなかったが、8日間、登板を回避していた。幸いMRIなど精密検査の結果、異常はなく、すぐに痛みは引いたが、メンタル的な恐怖感が残っていたという。2年前のレンジャース時代に同じ箇所を痛めた経緯があり、その時は結果的に約2ヶ月に及ぶ長期戦列離脱となった。苦い記憶が甦り、それが、微妙なフォームの狂いを生んでいた。

「これは怪我した人間にしか分からないでしょうね。時間が立たないと不安は消えないものですし。どうしても怖がって、庇った感じになってしまう。体が勝手に反応する感じ」

この時期のボストンはまだ肌寒い日が多く、特にナイターでは日によって、真冬のように冷え込むことがある。更に、ここ数試合は球審のストライクゾーンの判定にもバラつきがあったこともあり、本来の神懸かり的なコントロールにも陰りを生んでいた。

上原が修正に取り組んだのは、踏み出し足がクロス気味になり過ぎて、左右のコントロールが付け辛くなっていた点だ。ニエベス投手コーチはボクシングのファイティングポーズをとってストレートのパンチを繰り出す真似をしながら説明した。

「踏み出し足が、相手に向かっていないと、パンチを繰り出す時に力を最大限に伝えられない。それと同じように、クロス気味になると、プレートの左右のコーナーを狙うピッチングをしづらくしてしまう。特に直球を投げる時にね」

この日は確かに左右の幅よりも高低差を使った投球内容だったが、上原に言わせれば、「抜けていただけ。もっとコントロールをしっかりしないといけない」ということになる。求めるレベルが高いからこそだろう。「まだ投げながら修正している所があるので、完璧ではないですね。後はもう少し、自分でビデオをみて…」と、敢えて”完全復活宣言”を封印した。

甦りつつある接戦での勝負強さ

とはいえ、この試合はチームにとっては大きな1勝だった。17勝17敗。これまで、5割復帰戦で0勝8敗と、8度も跳ね返されてきた”鬼門”を突破。4月4日以来、勝率を5割に戻すことに成功した。借金返済も結構だが、それ以上に大事なのは、今季初めて1点差の試合で連勝したことだ。これまで、先発陣がリーグ最多タイとなる23度のクオリティスタート(6回3失点以下)と、先発がゲームをつくりながら、1点差の試合での敗戦はリーグ1位タイの8度。打線のタイムリー欠乏症で、接戦での弱さを露呈していたレ軍が、ようやく、2試合連続で1点差試合を勝てたことに注目したい。

先発ピービーは「我々はいいチームになりつつあると感じるよ」と語り、ファレル監督は「5月7日まで(5割復帰)掛かるとは思わなかったけれど、これで、(イーブン)パーにして、テキサスに臨めるよ」。きょう9日(日本時間10日)、バックホルツVSダルビッシュの先発対決で始まるレンジャース3連戦に意気込んだ。上原は、「まだスッキリとは勝っていない。もっともっと点が取れる試合だと思うし、僕ら(投手陣)も四球を出したりして、それはお互い様。まだ、かみ合っているとは思わないけれど、次の日はすぐに来るのでゴチャゴチャいっても仕方ない。やるしかないですね」と勝って兜の緒を締める。開幕ダッシュとはいえないスタートを切った昨年のワールドシリーズ王者、レッドソックスがようやく上昇気流のきっかけを掴んだか…、そんな手応えを感じさせる夜だった。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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