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14兆1千億円の行政経費を削減する~地方公務員への提言30(その7)~

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

 統一地方選挙が終わり、衆議院の解散が話題になっていますが政府は重点施策として多大な財源を要する防衛能力の増強や放置出来ない少子化対策などの具体化を急いでいます。しかし、いずれの政策も財源の確保が課題となっています。今までは日銀の国債引受けによって財源を手当してきましたが先進国では最悪の財政環境から、これ以上国債に依存する財源の確保は避けるべきではないかとする意見が強まっているからです。

 私達は15年前に“国と地方の役割分担の明確化”と“地方に対する補助金行政の徹底的な改善と廃止”をすることによって、多額の行政経費が削減出来ることを実務的に証明してきました。その額なんと14兆1千億円です。(『地方自治 自立へのシナリオ』・東洋経済新報社から発刊)

 そこで、少子高齢化が加速する中で多額の財源を調達しなければならない現在、改革の核となる地方自治の役割をもう一度見直し、国民に痛みのない「財源の創造」をすることを改めて提案したいと思います。

・自治体の役割をもう一度見直す

 自治体を一言で表現すれば「基本特性(地域における弱者と強者の共生)+非営利+独占的サービス事業体」と言えるでしょう。サービスの中には住民福祉の推進はもとより、地域経済の振興も入っています。この性格をもって、住民に十分な役割を発揮するためにはどうすればよいか。基本特性を堅持しつつ、効率的な行政サービスを提供する役割であることを容易に理解することが出来ますが、公務員の活動には様々な特殊性があります。例えば政治的中立性を守るために、首長の権力に左右されないように、年功序列型給与体系(年齢や勤続年数によって地位や給与を得ることが出来る)や域内に競争相手がいない、いわば独占企業のために、非効率な運営を余儀なくされる強いマイナスの側面を持っています。さらに、役所には危険から身を守るため、前例主義がひとつの原則になっています。これらのハンデを首長の確かなリーダーシップと新たな発想や工夫によって乗り越えることが出来れば何の問題もありませんが、役所の職員全員がこの環境の中での経験者であるため、これらを解決するのは容易なことではありません。私自身も役所における改革は「謀反」に近いことを実感することが度々ありました。

・首長(行政)による自治体の運営

 自治体の使命を発揮するための最大のリーダーは言うまでもなく知事や市町村長であり、責任者です。住民のニーズをしっかりと把握し、自らのポリシーと基本理念である弱者と強者の共生を中心に、住民の幸せと地域経済の活性化を目的として様々な政策の事業化を図ります。さらに、財源には限りがありますから、既に使命を果たした事業や効果が低い事業については大胆なスクラップを断行しなければなりません。かつては、住民の要求にかなった事業であっても社会環境の変化で使命を果たし終えた事業があります。既存事業のスクラップは、第一に弱者への痛みはないか、第二は市民の意見はどうか、第三に若手職員と幹部職員の意見などを十分に参考にします。時によっては議会の意見も必要です。当然ですが、最後にリーダーは自己責任を強く自覚したうえで、最良の選択をする必要があります。

・市民よる自治体への関与

 首長は市民が選んだシティマネージャーですから、オーナーである市民自身も行政に対する十分な提案や対案、さらには執行に対する厳しい監視が必要であることは言うまでもありません。ややもすると「選挙に参加すれば十分」という考え方がありますが、「自治とは自らが治める」ことであり市民自身の直接的な関与が求められています。様々な機会を通じて、市民の意見を行政に対してダイレクトに伝えることが重要です。同時に首長は、市民の要望が行政体に伝え易い仕組みをしっかりと構築する必要があります。市民へのアンケートや予算編成に直接参加することの出来る「(仮)市民予算編成委員会方式」など様々な手段を用意すべきです。私はかつて、1億円以上(人口7万人程の規模)の公共事業について「市民選択権保有条例」を設置した経験があります。

・議会における自治体への関与と責任

 議会は民間に例えると「取締役会や監査役会」に相当すると言えるでしょう。しかし現状では議決機能や監視機能の発揮だけが大きなウェイトを占め、政策の立案や執行は首長の専管事項になっています。これでは「自治体における議会」の責任を果たすことは出来ません。税金で成立している自治体にとって、議会は費用対効果の責任を負っています。行政に対して積極的に意見を言い、市民にとって必要な施策を実現していかなければなりません。例えば、議会は政策機能を「一般質問」で果たしていると錯覚されている方もいると思いますが、大きな誤りです。私が主催する(財)日本自治創造学会の研究大会での発表者は「一般質問での政策提案は議会の機能を発揮せず、議会の機能を放棄していると言っても過言ではありません。議会と対等な立場にある首長に、政策の選択を委任しているとも受け取れるからです。必要な政策は議会が‶政策条例の設置等で果たすことが出来ます〟」と主張していました。その通りです。ややもすると、地方自治法等の法令では「予算編成権はもとより執行権についても首長の専管事項」という解釈が成り立ちますが、これからの議会は十分な政策機能を発揮すべきです。そうでないと議会・議員は住民の視線から消失し、「あってもなくてもよい」存在に転げ落ちる危険があります。   

・国と地方の関係

 国と地方は対等の関係だと言われていますが、法令と財源で国は地方を「全国一律護送船団方式」で支配していると言っても過言ではありません。地方行政の運営方式は「地方自治法」で細かく規定すると共に、国が地方に交付する補助金によって、事業の運営を細かく規制しています。例えば、地方の統治機構は首長と議会の設置が義務化(一部住民総会が認められていますが実際には機能していません)されていますが、欧米ではいくつかの統治方式を地方自身で選択する方式をとっています。日本の代表的な事例は人口350万人を超える横浜市も3000人の村も同様の運営をすることが定められています。不思議ではありませんか。

 具体的には、地方の財源について国は主たる財源を一括して徴収し、地方の財政力に応じて財政調整する地方交付税として再配分して優位性を保持すると共に、地方の様々な事業に対して、補助金を交付することによって国の基準が守られるようにしています。言葉を変えると、都市の生活道路も山の中の生活道路も同じようにつくられていることになります。

 このような仕組みの中で、地方は運営されていますので規模の大小や様々な個性を持っているにもかかわらず、どこも同じような形で運営をされ、大きなムダを生んでいます。また、国と都道府県と市町村の権限が錯綜しているため、重複する事業が数多くあり、これらも膨大なムダな経費を生んでいます。このようなシステムを是正することで、14兆5千億円にのぼる行政経費の削減が図られることが明らかになっています。

―次回は「国民に痛みのない財源を創出する“国と地方の役割分担の明確化検証結果”」―

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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