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区・市町村における積極的な空き家解消対策~地方公務員への提言30(その5)~

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

・空き家の増加と区・市町村の対応「自治体毎に特色ある解消条例を設置する」

 空き家が増加し、国の調査では別荘や賃貸の住宅を除いて349万戸(2019年調査)に達しています。団塊世代が後期高齢者となる2025年には空き家はさらに急増し、2030年には470万戸と推計されています。途方もない数で、放置しますと様々な社会問題を誘発します。

 空き家の原因は様々ですが、売りたくても売れない状況や取り壊し費用の問題、相続協議の不調、抵当権が設定されているものもあり、多岐に渡ります。不思議なことに売却可能な都市部でさえ、空き家は急増しています。

 空き家の解消を目指す国は「空家等対策特別措置法」の改正を目指すなど様々な法的処置などを行っていますが、本来の当事者は基礎的自治体であり責任が特に重いと考えられます。しかし個人の財産権にふれることから市町村の動きは活発とは言えず、国の出方待ちの感じがします。これからは議会の協力を得て、自治体毎に特色ある条例を設置し、地域における直接の課題として自治体自身が積極的に対応すべきです。

・空き家の解決における手段「都市部の空き家解消対策を考える」

 空き家解消の手段は使い手の可能性がある都市部と売却はもとより使い手さえいない過疎地の空き家ではまったく異なることから、2つの地域特性毎に対応策を考えてみたいと思います。総務省の調査では都市を代表する一都三県だけでも空き家は約200万戸(2018年調査)ありますが、そのうち賃貸ではなく住民の方々が高齢者施設に入居したり、住民の方々が転居や死亡したりする住宅が60万戸もあり年々増加しています。これらを放置すると所有者が不明になる可能性があり、早めの対策が求められます。

 都市部の空き家解消対策事業については第三セクターで運営し、自治体に対して利益を上げることが出来るのではないでしょうか。対策の第一ですが、第三セクターのチーム編成に工夫をします。パートナーとして自治体の有識者を充てることです。弁護士、土地家屋調査士、行政書士、不動産業者、測量士等にボランティアとして参加して戴き、持てる知識を活用します。第二は自治体内の空き家のうち一軒家とマンションを地域毎に別々に一覧表にまとめます。第三は、その空き家が「何故空き家になっているか」を徹底的に調査し、理由毎に一覧表にします。一般の不動産屋さんでは極めて困難な調査ですが、自治体が主体者となれば容易に出来ます。第四は、その調査に基づく処分方法について、関係者と徹底的に協議を行います。この作業が最大の難関で、時間がかかります。解体はもとより売却を望む方、賃貸を望む方、あるいは更地にして、そのまま保存をしたい方もいるでしょう。解体費用や相続の解決など様々な問題の解決が求められるでしょう。

 第三セクターは、それらを明らかにすることによって物件毎の対応策を決定します。いずれも手数料はそれぞれ徴収します。当該事業がビジネスとして成立しなければなりません。

 自治体が空き家を解消するためには、民の力を活用すると共に売却や賃貸など活用の可能性を持つ都市部では、物件を厄介なお荷物から「果実を生み出す商品」であるとの意識改革と空き家の解消が基礎的自治体の大切な責務であることを、この際しっかりと自覚する必要があります。

 これからの自治体は時として、個人の財産権やプライバシーに触れないとする従来の考え方を改め、平穏な地域社会を確立するためには、行政の積極的な介入をしなければなりません。新たな自治体自身の変化が求められています。

・過疎地における空き家対策「コンパクトシティづくりなどの補助事業や新たな起債対象事業を見つけ出す」

 過疎地における空き家は所有者が存在しても売却も賃貸も不可能に近いと言えるでしょう。整理したい気持ちがあっても解体費用がかかることから「空き家が放置される」ことになります。

 さらに解消の直接責任者である過疎地の市町村も規模が小さく、財源も厳しいことから、行政費用のかかる空き家は手付かずとなり半永久的に放置することになります。さらに温泉地にある廃屋となったホテルも危険なうえ、訪れた人々にも多大な不快感を与えていますが、膨大な撤去費用がかかることから「放置」されているのが実態です。ふる里は都市化が進化すればするほど見直され、活用される機会が多くなります。それには自然にあふれ、美しくなければなりません。朽ち果てた空き家は景観を損なうだけでなく、ゴミの捨て場や放火の原因となり、火災等の危険があります。都市部と同様に、当該市町村は空き家の整理解消には積極的に取り組む必要があります。

 新たな解消策は従来の単一的処理方法から発想を変え、様々な工夫をすることが必要です。クラウドファンディングなどの活用もそのひとつです。あるいは空き家の所在地域を拡大して、人の住む家屋も対象にしたコンパクトシティ事業や「美しい自然を守る事業」として移住を目的とした移住促進事業などの補助事業の活用もあるでしょう。また、償還財源には交付税措置がある過疎債等の活用も積極的に取り入れます。空き家を解消して美しい「自然のむら」を再生することは過疎地にとって必要な事業です。放置された旧ホテルも補助事業の対象に組み入れるなど、様々な工夫が求められることでしょう。要するに、地域再生にかかわる国の補助金の活用や償還財源が交付税に充当される起債対象としての事業を組み合わせるなど、従来の全国一律の解消方法から、個性ある地域独自の事業方式に挑戦することです。

―次回は「ふるさと納税を考える」-

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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