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市民や地域団体との協働で地方自治体(行政体)を変える~地方公務員への提言30(その3)~

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

・人口減少時代に合致する新たな市町村を創造する「地方自身の財源の創造」

 日本の人口減少に歯止めがかかりません。人口集中が続いた東京都でさえ人口減少に向かっています。同時に経済も縮小し、少子高齢化は益々加速しています。これからの区・市町村(基礎的自治体)は日本全体が拡大してきた時代に構築された様々な仕組みを抜本的に変えることが求められています。

 従来の発想を変えた抜本的な自治体づくりのテーマは「役所の業務を市民と協働する新たなまちづくり」で地方自身が財源を創造することにも直結します。この考え方に驚かれる方もいますが「自治体・行政」の原始的な起こりを政治的な背景を除いて、一般的な現象から振り返って考えてみましょう。もともと、「まち(共同体)」の仕事は全て住民が担っていましたが、住民の多数が利用し、汚れてしまった道路の清掃などについて、住民一人一人が経済的負担をして専門家を雇い、その業務を任せた方が合理的だと判断したことなどから、共同体が発生したと言われています。人口が減少し、元気でまだまだ仕事をすることの出来る高齢者が多数を占めている現在の市町村を考えると、もう一度まち(共同体)の原点に戻ることを考えても、そんなに不思議なことではありません。

 市民がまちのオーナーとして、公務員という特定の専門職に代わり、老後の生計にプラスになる「有償」の働き手として行政業務に参加し、少数精鋭の公務員はプロのシンクタンク要員として市民と協力し、協働でまちづくりをしたら如何でしょうか。市民と自治体(行政)との一体化で、ローコストの運営が実現し、新たな財源の創造につながります。「共同体・自治体」の方針や業務の公平性を担保するために、市長はシティマネージャーとして位置づけ、議会は取締役として参加します(現在も同じ働きをしています)。前述したように、もともと私達のまちは公共的な仕事を専門家に市民が委託していることからスタートしています。まさに原点に回帰した発想です。

 私はかつて埼玉県庁の職員や町の職員としての経験から、市長在任中に全ての分野に渡って市民に役所の業務を開放し、20年間で530人の職員を50人に削減する計画を立てました。公務員の50人は市民に対するプライバシーの保護や政策の立案、調整業務を担当します。基礎的自治体(市町村)の業務は全て公務員が行うという現在の神話を変えて、市民に役所の業務を主体的に行ってもらうのです。単なるボランティアではありません。市民を有償ボランティア(高齢者や子育て中の女性が中心で、時給は最低賃金と同額)として位置づけ、行政業務における市民との大胆なワークシェアリングを行い、ローコストの市政を実現すると共に、住民に自治体が「働く場」を提供して元気なまちづくりを目指します。

 国や広域的な業務を中心とする都道府県とは異なり、基礎的自治体(区・市町村)の役割は国家や広域自治体(都道府県)と違って、住民生活と極めて近い業務が大多数です。しかも機能する範囲は限定されています。「市民のプライバシー」を守ることに十分な工夫をしなければなりませんが、一部の極めて専門性の高い業務や連絡調整機能を除くと十分に市民が取り組むことが出来ます。職員(公務員)自身が市が行っている事業を分析し、プロフェッショナルとしての公務員と一般市民が担うことの出来る業務に分類をし、参加希望の市民に対する研修計画もしっかりと立てました。市民からの参加者は「行政のパートナー」であり、「役所と対等な協働者」として位置づけます。これらを担保するためには関係する条例や規則をしっかりと整備しなければなりません。

(詳細については穂坂邦夫のホームページ  http://www.jiritsuken.org 参照)

・役所業務の一部を市民団体に委託する

 役所の業務の大多数を「住民との協働」に切り替えることが困難であれば、専門性の高い部や課を外部に委託することを考えてはいかがでしょうか。かつて一般企業が「総務部」を外部の専門会社に委託したことが話題になりました。今でも「新たな会社・総務部」という業務受託会社が設立されています。役所の総務部も市民のプライバシーの順守を担保さえすれば外部委託をすることが出来ます。一般的な「株式会社」でも構いませんが、出来れば「ふる里」内に定年を迎える市民を中心に役所が誘導して設立し、そこに委託したとすれば、資金は「ふる里」内に循環し、ローコストの役所と同時に「元気な地域づくり」になる一石二鳥の目的が実現することになります。さらに、商工関係業務や農業振興関係の業務も外部に委託することが出来ます。農業振興関係の業務は「地域の農協」に、商工関係は「地域商工会の専門集団」に委託すれば実態に即した行政が展開されることでしょう。どちらの団体も地域における振興を目的としています。福祉関係も地域には多数の受け手が存在しています。

 私は地方公務員と市長、民間会社の経験から、役所の一般的業務の非効率性や実態と離れた政策形成について様々な経験をしてきました。政策立案の要諦は現場を熟知することが基本ですが、農業やビジネスを経験したことのない地方公務員が農業の振興や商工業の育成・発展について政策の立案をすることは極めて困難な事は言うまでもありません。尚、自治体行政の基本理念は「弱者と強者の共生」が大原則ですから、公平性に加えてこれらを担保するためには受託者をリードするトップの職員が必要ですが、経験豊富な管理職をこれらの団体に出向させることで十分に使命を果たすことが出来ます。

 このような外部への委託は「簡単に出来るのではないか」と考えがちですが、実現には様々な障害が待っています。役所には自由な活動を阻害する「地方公務員法」や様々なジャンルにおける足の遅い方々(商工業者や農業者)に合わせなければならないという間違った理念や慣習、変化に対応出来ない「前例主義」が残り続けているため、少しのリスクを見つけては「現状維持」の大合唱が始まるからです。

 私は地方自治体を「基本理念(弱者と強者が共生出来る地域社会の構築)+非営利独占的サービス事業体」と位置付けておりますが、国はその集団を「全国一律護送船団方式」によって運営し、振興を図ろうとしています。これらの「殻」を脱皮させ、「ローコストで元気な自治体」をつくり、地方公務員が真のシンクタンク集団として働くことの出来るような「ふる里づくりに挑戦」してはいかがでしょうか。

(次回「行政全体で取組む義務教育・いじめ問題を解決する」)

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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