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地方自身が財源を創造する~地方公務員への提言30(その2)~

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

・自由になるお金がない「地方自治体は国からの仕送り(地方交付税)と補助金で運営」

 地方自治体が思い切った個性的な施策を展開すると言っても財源(お金)がありません。地方自治体の大多数は国からの地方交付税交付金(運営に必要な人件費や諸経費)と補助金(地域に必要な道路や上下水道などのインフラや文化会館、スポーツ施設などの建設費)に依存しているからです。各自治体にとって住民が支払う地方税は運営する費用の30%以下にすぎません。

 これらの財政制度に加え、地方自治体における組織や運営方法の基本は国(地方自治法)によって定められ、補助金の使い方には全国一律に細かい規則があります。ですから、どこの自治体も、同じような仕組みで運営され、様々な施設も同じようにつくられています。地方が自主性を発揮する余地は極めて少ないのです。私は「全国一律護送船団方式」と呼んでいます。例外として、東京都のように地方税だけで運営できる「不交付団体」と言われる豊かな自治体がありますが、ごく少数でしかありません。しかし、不交付団体と言えども運営の基本は「地方自治法」によって定められていることは言うまでもありません。

 かつて、私が市長に就任した時も「全国で初めての小学校低学年の25人程度学級を実施したい、不足する教員の人件費は自己財源を充てたい」と言ったところ、職員から「いままでの志木市の新規事業は補助金が使えることが条件です。補助金のつかない新規事業など、とても無理です」とあっさり「NO」を突き付けられた経験があります。当時の志木市の財政環境も極めて厳しかったのでしょう。自由な自治体運営をするためには、新たな財源を地方自身が生み出すことが不可欠です。

・新たな財源をつくる方法とは

 自治体が財源をつくる方法は限られています。起債(借入金)は国の様々な制限があり、地方の自由にはなりません。許される方法はムダを排除することは当然ですが、1つは今までの事業の中で、行政効果の少ない事業を廃止する方法。2つ目は180度発想を変え、公務の担い手を公務員から市民に移行する方法です。公務員が担当する業務は非効率でコスト高になるため、公務の大部分を市民との協働に変えて職員を削減し、コストダウンを図ります。加えて協働の中心を高齢者とし、地域の活性化を図る方法です。在職する公務員は出来るだけ「シンクタンク化」を目指します。皆さんも御承知のように公務員の業務コストが高い第一の理由は人事制度が民間と異なり、完全な年功序列型であるためリーダーや職員の勤労意欲の高低や業務に対する適性などが混在し、生産性が低いこと。第二は公的業務という理由から常識を超える超安全な方法をとること。第三は費用対効果の考えやコストの意識が極めて低いため、コスト高になる体質を持っているからです。逆にこれらの欠陥を是正することが出来ればコストダウンにつながるとも言えますが様々な法規制のある中で極めて困難な作業になるでしょう。3つ目は第3セクターをつくって利益を上げ一般財源として繰り入れる方法です。しかし、この方法は極めて高いリスクがあります。民間との競争があるからです。これらの状況を考えると新たな財源の創出は事業スクラップと市民との協働に限られてきます。

・事業スクラップ(改廃)の原則を明確にする

 第一の方法は、従来の事業スクラップ(改廃)に新たな原則と工夫を加え財源創出の成果を向上させることです。事業化した時には必要であったかも知れませんが、時代環境が変わると住民のニーズも変化するからです。

 事業スクラップの原則はカナダ政府が財政再建に用いた方法をひとつの目安とするのがよいでしょう。その方法は、ひとつひとつの事業について、(1)税金を使ってやる必要があるか(自助の範囲ではないか)。(2)公益性が高いか(不特定多数が受益するか)。(3)国・県・市町村のどちらがやるべき仕事か。(4)公務員がやるべき仕事か、あるいは民間やNPOなどに外部委託が出来ないか。(5)実施方法における費用対効果はどうか。(6)税金でやるべき、事業の優先順位はどうか。(7)この事業のために、負担増を住民は受け入れるか、などの原則をクリアすることが判断基準です。私はこれらに加え「弱者に痛みを与えないこと」を基本原則にすることをお薦めします。地方行政は地域における「弱者と強者の共生」を原点としているからです。

・スクラップに新たな視点を加えると共に実施する目的を明確にする

 次に事業スクラップの効果を上げるためには、実施する目的を明らかにすること。職員の視点に加え住民の視点を活用することが重要です。職員で構成するチームも少し工夫をして、若手職員と幹部職員の2つのチームをつくり、必要、不必要の判断の目を2つの視点に拡大します。幹部職員はどうしても保守的になると同時に、これまで実施してきた諸事業について直接あるいは間接的に関与したことが多いため、思い切った選択が出来ません。さらに、公募による「市民委員」のチームをつくって3つ目の視点を加えることを提案します。

 私が市長として在任した志木市では部長職10名で構成するチーム、次に入職2~3年目の若手職員15名でつくるチーム、さらに公募による一般市民25名のグループをつくりました。さらにスクラップの目的を明確にすることが重要です。そこで削減した財源(お金)は小学校低学年における25人程度学級に投入する。前述した通り、「事業の改廃が弱者に痛みを与えないこと」の2つの条件をつけました。市民はもとより職員にも「教育改革」の必要性と「地方行政の原点」を何度も説明をしました。

 3者がそれぞれ全ての事業の選択に取り組みましたが、結果は市民グループが全体946事業の約30%。部長のチームは5%、若手の職員チームは約15%の削減率です。管理職の方々は最小のスクラップ率に終わっています。当然の結果です。一般市民の提案を中心に職員の意見も取り入れた結果、約12億8千万円の最大の効果を上げ1クラス25人程度学級に必要な新たな収入源を生み出しました。住民と行政の視点には、大きな差異があることを物語っています。ややもすると「公務員の眼は正しい」とする硬直化した考え方がありますが「異質な視点」を入れる勇気が必要です。住民は公務員と異なり、様々なライフスタイルと納税者と受益者の相反する両者の立場にあるため、極めて貴重な視点として活用することが大切です。

(次号「抜本的な発想による財源の作り方・市民との協働によって自治体の形を変える」)

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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