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コロナが教える国と地方の役割分担~今まで気づかなかった税金のムダ使い~

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

○「国と地方の誰が責任者なのかよくわからない」

 新型コロナの感染者が再び増加しています。国はPCR検査の増加目標の設定や国民一人10万円の給付金、マスクの無料配布など様々な施策を展開しましたが、いずれも不評に終わっています。GoToトラベル事業も地方との意見のくい違いが目立ち、地域振興の切り札にはなっていません。しかも、どの事業にも国民の「モヤモヤ感」がつきまとっていて、国民のストレスを生んでいます。

 その原因はどこにあるのでしょうか。各局のテレビもこの“モヤモヤ感”にはふれようとしませんが、この原因はコロナ対策における国と都道府県と市町村の役割分担が明確にされていないことに起因しています。

 そこで、モヤモヤ感の原因を見つけるために国が実施しているGoToトラベル事業の検証をしてみましょう。国は「これ以上経済を悪化させるわけにはいかない。地方の観光地を死なせるわけにはいかない」と事業の全てを決定し、東京都だけを除外して、全国一律の実施に踏み切りました。多くの国民は国の決定を理解していますが、一方ではこの事業のやり方に多くのモヤモヤ感や不満を持っています。何故でしょうか。仮にトラベル事業を国が全て決定するのではなく、目的や期間、支援額などの基本的な原則を明らかにしたうえで、地方に財源(お金)を交付し、裁量権を認めて広域自治体(都道府県)に実施する権限を委ねたとしたら、どうでしょうか。各自治体は一定の期限の中で直ちに実施する所もあれば、感染者の動向によって実施を延期する自治体もあったことでしょう。また全国単位で行うところもあれば、区域を近隣自治体間に限定したりあるいは地域内だけで実施するなど、自治体の工夫や知恵を活かした多様な取組みが出来たことだけは間違いありません。この方法がまぎれもない「行政における役割分担の明確化(地方分権)」です。そうすれば国民の多くは気持ちよくトラベル事業に参加できたかも知れません。

 トラベル事業は1兆7千億円もの多額の税金を使います。最大の費用対効果を求めなければなりません。一般的な事業とは異なり感染状況や経済環境など多様性を求められるコロナ対策事業は、全国を全て一律的に実施出来るものではないのです。

 緊急事態法も、国と地方の役割分担を明確にしながら、最後に国と協議することを法令に加えた為、都道府県が地域の実態に応じて自由にその裁量を発揮することが出来ません。地方の自主的な活動を表面的には保証しながら、国が全ての権限を保有する旧態依然の中央集権的な姿勢を堅持し続けました。その結果、緊急事態宣言の発出に際して、小池都知事と加藤厚生労働大臣との調整が長引き、東京都の対策が何日も後れた事実が物語っています。国民はその原因が理解できず、なんとも割り切れないモヤモヤ感を感じてしまったのです。

 テレビのコメンテーターも国と地方の役割分担の仕組みや役割分担が理解出来ないため、単なる国と東京都の意見の違いとしてとらえ、モヤモヤ感の原因を見過ごしています。とても残念でなりません。

○モヤモヤ感に隠れた膨大な税金のムダ使い「NPOの調査では14兆1千億円」

 前述したGoToトラベル事業は東京都だけが除外され国の手によって実行されましたが、国と地方の意見の相異が目立ちました。確かに東京都の感染者が急増しましたが、人口比でとらえれば、大阪や福岡なども同様に除外してもおかしくはない状態でした。多くの国民はモヤモヤ感をぬぐい去れないでいます。感情論で東京都が除外されたと理解しているからです。

 さらに全国知事会もこの事業の延期を要請したことから全国民が迷うことになり、モヤモヤ感が増し、成果が半減しています。この現象の裏側には膨大な税金のムダ使いが隠されていることに私達は気づかなければなりません。

 この原因はいずれも国が全ての権限を専有していることから起こる、役割分担の不明確に起因しており、何十年間も税金のムダ使いを続けています。我が国の仕組みは表面的には地方分権(役割分担の明確化)体制で、実態的には中央集権制(役割分担の不明確)になっているからです。平時では役割分担が不明確であっても国民生活に直結する不都合は気づきませんし、難解な法律・行政用語が国民の目はもとよりマスコミや有識者に対しても、仕組みの実態を覆い隠していますので解決すべき課題として顕在化することもなかったのです。しかし、前例のないコロナ対策では様々な不都合が国民のモヤモヤ感となって浮かびあがったのです。

○コロナで顕在化した行政の不都合を是正する「役割分担の明確化」

 国と都道府県と区、市町村における「役割分担の不明確」による税金のムダ使いは何十年も改革をすべきだと言われながら、実行されないできました。ヨーロッパはもとより欧米の国々は当然のように「地方分権」が行われています。しかし、この改革は我が国における中央集権制の歴史もあって真の改革は実行されなかったのです。しかし、行政効果の低下や税金のムダ使いが放置されることは国民に背を向けることになります。

 この不合理を改善するため、私達一人一人がコロナ対策(様々な施策)の実施について、役割分担の一覧表をつくってみてはいかがでしょうか。コロナ対策(施策や事業)の全てを一覧表にして、国・都道府県・区、市町村の役割を貼り付けて見ればモヤモヤ感は払拭することが出来ます。ひとつの仕事(施策)を全て単一の行政体に委ねるのではなく分割することも必要になります。

 税金のムダ使いや行政の非効率をなくす原則は「施策や事業は出来るだけ住民に近い行政体が担当する。区、市町村がもつ能力や担当地域だけでは出来ないことは都道府県に委ね、都道府県でも出来ないことは国家が担当する」ということです。この原則を基本にして、様々なコロナ施策の担当を決めてみてはいかがでしょうか。必要なお金(財源)は役割に応じて国が担当行政機関に交付すれば解決します。現行の我が国は、財源の大部分を国が管理し、地方に配分(地方交付金)する仕組みになっているからです。コロナ対策については「新たに生じた全国規模の災害」なので、各施策や事業における必要な財源(お金)は国が担当することになります。

 役割分担の明確化が実現しますと地方の重要性が見直され、首長や議会の力量が試され、地方選挙における国民の関心も高まることでしょう。

○行政の不都合(非効率と税金のムダ使い)を改善させない我が国の事情

 役割分担の明確化(地方分権)は世界の常識ですが、我が国では非常識です。我が国は中央集権国家から民主国家に変わりましたが「行政の仕組み」が改革されない奇妙な要因があります。

 我が国における政治家や公務員のステータスは諸外国と異なり「権限の量」に比例しています。笑い話ではありませんが市町村議員には「先生」という敬称はありませんが、国会議員は「先生」と呼ばれています。誰も違和感を持ちません。国家は多くの権限を手離さないことで議員や職員のステータスを維持し、地方を支配し、地方の行政体は軽視されています。ですから民主党に政権が変わった時でさえ、真の分権は一顧だにされなかったのです。

 しかし、前例のない緊急時のコロナ対策は多くの国民にモヤモヤ感とストレスを与えて行政の不条理を顕在化させています。国民の一人一人が”何かがおかしい”と実感している今こそ、行政の非効率と税金のムダ使いを是正する絶好のチャンスです。

 コロナ対策だけでなく役割分担の明確化は極めて簡単で、容易に改革をすることが出来るでしょう。行政の大原則のもとに、誰が何をすべきかを決め、施策の責任者を明確にすれば解決されるのです。言いかえれば行政の可視化であり、行政責任者の明確化に直結します。税金のムダ使いは是正され、国民のモヤモヤ感は払拭されることになるでしょう。

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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