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久しぶりのインフルエンザの流行。牛乳アレルギーのあるひとに使いにくいインフルエンザ薬とは?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

インフルエンザが流行し始めています。

そのため、インフルエンザに対する薬、『抗インフルエンザ薬』が使用されることも増えてきました。

抗インフルエンザ薬は、内服、吸入、そして点滴などさまざまあります。

筆者作成
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ただし、一部の抗インフルエンザ薬は、重症の牛乳アレルギーの人は気をつけておく必要があることをご存知でしょうか。

今回はその話をさせていただきたいと思います。

インフルエンザ薬のうち、吸入薬が牛乳アレルギーのある人に使いにくい理由は?

PhotoAC
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特に重症の牛乳アレルギーのある人に使いにくい抗インフルエンザ薬は、吸入タイプの薬です。

具体的に挙げるとすれば、リレンザ(一般名ザナミビル)と、イナビル(一般名ラニナミビル)です。

なぜ牛乳アレルギーのあるひとに使いにくいのかというと、これらの薬には『乳糖』という成分が含まれているからです。

乳糖は、”乳”という名称がついていますが、本来は牛乳成分ではありません。

しかし乳糖は牛乳から作られるので、わずかながら牛乳タンパクが含まれ、重篤な牛乳アレルギーのある人にアレルギー症状を起こすことがあります[1]。

ただし、乳糖に含まれる牛乳タンパクはとても少ないです。乳糖1グラム当たり数マイクログラムに過ぎません。

1グラムの1000分の1が1ミリグラム。

1ミリグラムの1000分の1が1マイクログラム。

すなわち、1マイクログラムとは、1000000分の1グラムです。

すなわち、牛乳アレルギーのある方でも、多くは問題ない程度です。

しかし、そんなに少ない量の乳タンパク量であっても、強いアナフィラキシー症状をおこした方が報告されています[2]。

乳糖に含まれる牛乳タンパク量はとても少ないながら、吸入により症状が起こる可能性がある

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肺は、腸などの消化管と比べタンパク質の吸収が良く、微量であってもアレルギー症状を起こすリスクがあると考えられています。そして、同じ吸入薬でも乳タンパク質の混入量に差がある可能性があり、いままで問題なく使用できていても症状が誘発されるリスクがあるのです[2]。

これらの報告を受けて、2015年の8月から、これらの薬の説明書(添付文書)には『慎重投与』の条件に牛乳アレルギーが加わっています

吸入薬に使用されている乳タンパク量はとても少ないので、牛乳アレルギーがある人に必ずしもアレルギー症状が強く出るというわけではありません。けれども、頭に入れておいた方がいいということです。

重症の牛乳アレルギーのあるひとが選択できる抗インフルエンザ薬とは

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なお、抗インフルエンザ薬ゾフルーザ(バロキサビル)は、これまでの抗インフルエンザ薬の効果がでてくるメカニズム(ノイラミニダーゼ阻害)以外のメカニズムで効果を発揮します。1日飲むだけで有効性を示すことから話題になりました。

しかし、12歳未満の子どもでは耐性、薬がききにくくなりやすいのではと考えられるようになり、積極的には使われなくなっています[3]。

ですので、重篤な牛乳アレルギーのあるひとに抗インフルエンザ薬は、例えばタミフル(一般名オセルタミビル)という内服薬や、ラピアクタ(一般名ペラミビル)という点滴薬などが使用されるのですね。

久しぶりにインフルエンザが流行する状況になってきました。

抗インフルエンザ薬の効果は限定的で、タミフルの効果は18時間ほど熱の期間を短くするほどであり、特効薬というほどではありません[4]。

ですので、予防接種が重要であることは変わりはないのですが、最近、抗インフルエンザ薬が重症化を予防する効果もあるという報告も増えているようです[5][6]。

ですので、このような知識も必要かなと思い、改めて今回のお話をさせていただきました。

インフルエンザだけでなく様々な感染症が流行しています。感染予防を考えながら、この波を乗り越えられることを願っています。

この解説は、音声ラジオVoicy『牛乳アレルギーのある人に使いにくい抗インフルエンザ薬とは?』でもお話ししました。

参考文献

[1]日本小児アレルギー学会誌 2015; 29:649-54.

[2]アレルギー 65(3): 200-205, 2016.

[3]日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」

(日本感染症学会)2023年1月19日アクセス

[4]Clinical Infectious Diseases 2017; 66(10): 1492-500.

[5]Int J Antimicrob Agents 2020; 56:106155.

[6]JAMA Pediatr 2022; 176:e223261.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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