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食物アレルギーにおいて3位の頻度になったナッツ類アレルギー。検査は?治療は?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
写真AC

クルミが食品の原材料の表示に義務付けられるというニュースがありました[1]。

アレルゲンの表示が義務付けられている食品は、卵、牛乳、小麦、エビ、カニ、ピーナッツ、そばの7品目でした。その中にクルミが追加されるということです。

そこで今回は、日本におけるナッツ類アレルギーの状況と、アレルギー検査が新しくなってきていることを、簡単に解説してみたいと思います。

アレルゲンの表示義務と推奨

PhotoAC
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アレルゲン表記が『義務』となっている食品を『特定原材料』といいます。

そして表示が義務ではなく『推奨』となっている食品を、『特定原材料に準ずるもの』といい、21種類あります。

最近、ナッツ類は食物アレルギーの原因として多くなっています。

世界的にもナッツアレルギーは増加していますが、日本では特にナッツアレルギーが非常に増えています。3年ごとに行われている食物アレルギーの全国調査では、2015年度は8位だったナッツ類が2018年度には4位に、そして2021年度に行われた調査では3位になっています。そのナッツ類の中でも、クルミが半数以上を占めたのです[2]。

文献2を元に、イラストACの素材をもちいて筆者作成
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その特定原材料に準ずるものへ、ナッツ類であるアーモンドが2019年に新しく加わっています。クルミは義務、アーモンドが推奨ということは、クルミの方がアーモンドよりリスクが高い、もしくは頻度が高いと判断されたわけです。

文献2を元に、イラストACの素材を用いて筆者作成
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さらに、アナフィラキシーショック症状、すなわち非常に強いアレルギー症状を起こした食品も、今までは鶏卵、牛乳、小麦の順だったのですが、ナッツ類が第3位になり、ナッツ類のなかでもやはりクルミが最も多く全体の半分を占めています[2]。

ナッツ類はさまざまありますが、まとめて考えるわけではありません

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たとえば、クルミアレルギー、アーモンドアレルギー、カシューナッツアレルギーはそれぞれ別に考える必要性があります。

すなわち、クルミアレルギーがあるからといってカシューナッツアレルギーとは限りませんし、カシューナッツアレルギーがあるからといって、アーモンドアレルギーがあるとは言えないということになります。

ただ、それぞれ関係するナッツ類もあります。

たとえばカシューナッツとピスタチオに関しては非常に近いアレルゲンですし、クルミとペカンナッツもかなり近いアレルゲンです。ですので、クルミアレルギーがある方に関してはペカンナッツにも気をつけておく必要性があります[3]。

ナッツ類アレルギーのアレルギー検査は?

クルミを含めたナッツ類アレルギーの検査に関しては進歩してきています。

アレルギーを起こす食品には多くの種類のタンパク質が含まれていて、実際にアレルギーを起こすタンパク質は種類が限られています。

日本でよく食べられている種類のクルミには8種類のタンパク質が含まれていて、一番アレルギーを起こしやすいクルミのタンパク質はJug r1(ジャグアールワン)と名付けられています[4]。

そして最近、Jug r1のアレルギー検査が保険で実施できるようになりました。

Jug r1に対するアレルギー検査が陽性であれば、必ず症状があるというわけではありません。

そのため、実際食べてみる検査『食物経口負荷試験』が必要になる場合もありますが、事前にアレルギー症状がある可能性を推測しやすくなってきています。

なお、クルミのJug r1と同じように、ピーナッツに関してはAra h2、カシューナッツに関してはAna o3というタンパク質に対するアレルギー検査が最近保険適用となり、普及してきています。

イラストACの素材をもちいて筆者作成
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食物アレルギーに詳しい医師は、ナッツ類の特徴を踏まえて患者さんからお話を聞き、適切なアレルギー検査を組み立てます。

時々、最初から項目が決められた30種類以上のアレルギー検査を一度に行う検査をされることがあります。しかし、そのようなアレルギー検査は検査結果の信頼性が低く、しかも、Jug r1のような特殊なタンパク質に対する検査は含まれていません。そのため、専門医はほとんど実施しなくなりました。

さて、クルミに限りませんが、ナッツアレルギーは自然に良くなってくる可能性が低い食物です。

種類によっても差があるのですが、米国での報告では、ナッツ類アレルギーが自然に改善する率は9%程度ではないかという研究結果があります[5]。

クルミアレルギーの治療は?

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クルミアレルギーに対するアレルギーの治療に関しては、どういったものがあるでしょうか?残念ながら、これがいいというものが今のところありません。

しかし、他の食物アレルギーで試みられている経口免疫療法という、『少しずつ食べていく治療』に関する研究報告があります。実際、治療効果があったという結果にはなっています。

しかし、食べている間に強いアレルギー症状が起こる可能性が指摘されています[6]。

しかも、その後食べ続けるかどうかという問題もあります。

例えば、ピーナッツアレルギーのある方に対して少しずつ食べていく治療、経口免疫療法を行った研究では、ピーナッツを食べられるようになったとしても食べ続けなければ、食べられなくなってしまうことが報告されています[7]。

このような研究結果から、残念ながら経口免疫療法は、一般的な治療とは言えず、今後、このような治療の効果や安全性が高まっていくことが期待されているという段階と言えます。

さて今回は、クルミアレルギーを中心に、増えているナッツアレルギーの解説を簡単にいたしました。

これらのアレルギーの方に、この記事がなにかのお役に立てば幸いです。

【参考文献】

[1]【解説】“くるみアレルギー急増” 表示を義務化へ 「子どもに多く見られる」初めての発症は何歳?

2022年6月19日アクセス

[2]令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書

2022年6月19日アクセス

[3]J Allergy Clin Immunol 2020; 145:1231-9.[日本語訳]

[4]Asian Pac J Allergy Immunol 2021; 39:190-6.[日本語訳]

[5]J Allergy Clin Immunol 2005; 116:1087-93.

[6]Lancet Child & Adolescent Health 2019; 3:312-21.

[7]Lancet 2019; 394:1437-49.[日本語訳]

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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