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子どもの虫よけ、どれを使ったら良いですか?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
PhotoACより

徐々に日差しと気温が上がってきました。

そして外来で日焼け止めとともに良く尋ねられるのが、子どもの虫よけに関する質問です。たとえば、『子どもに虫よけを使っていいのですか』や、『オーガニックなら安心ですか』など、さまざまです。

米国環境保護局(Environmental Protection Agency; EPA)に登録されている虫よけの成分には、ディート、イカリジン、レモンユーカリオイルなどがあります[1]。

一般的には、有効な虫よけの成分としてはディート、イカリジンが使用されていますが、それぞれ少し注意点があります。

そこで今回は、外来でお話ししている内容を簡単にまとめてみたいと思います。

長く使われ幅広い虫に効果があるが、少し癖のあるディート

写真:イメージマート

ディートは1950年代から虫よけとして使用されています。

ディートは効果のある虫の幅が広いことが特徴で、濃度に応じ、効果の続く時間に差があります。10%未満で1~3 時間、10%~30%の濃度で4~6 時間とされています[2]。

米国では5%から100%まで様々な濃度で販売されており、日本でも2016年から30%の濃度のディートが使用できるようになりました。ただし、ディート30%の製品は12歳未満では使用できないことに注意が必要です。

ディートは年齢に応じ使用の制限があります。

生後6ヶ月未満では使用できず、生後6ヶ月~2歳未満では1日1回、2歳~12歳未満では1日1~3回、そして顔への使用は避けるようにとされています[3]。

子どもに対してディートの使用が制限されている理由のひとつとして、神経系に有害な反応を引き起こすことがあるためとされていますが、大規模な調査では、そのような反応は極めて稀であることがわかっており、適切に使用していれば安全性は高いと考えられています[2]。

それよりもディートの問題点として、繊維を傷める可能性があるという点が挙げられます。ディートは、綿、ウール、ナイロンには安全に使用できますが、スパンデックス(伸縮性のあるポリウレタン)、レーヨン、アセテート、革などにダメージを与える可能性があります。また、プラスチックやビニールを溶かしてしまうこともあります。たとえば、メガネのフレームや一部の車のシートなどです[2]。

ディートは、効果は高いけれども少し癖のある虫よけといえるでしょう。

2015年から広く使われるようになったイカリジン

写真:アフロ

イカリジンは、日本では2015年に承認された虫よけです。

イカリジンは、コショウに含まれる化合物に似た物質で、副作用は少ないとされており、虫よけの効果は6~8 時間続きます[2]。

ディートと比較して、年齢制限がないことや、匂いが少なく皮膚を刺激しにくいこと、プラスチックや繊維を傷めないことも利点として挙げられます。

ただし、ツツガムシやサシバエなどに効果がありませんので、山登りやキャンプなどではディートの方が向いているといえるでしょう。

『オーガニック』なら安心?

PhotoACより
PhotoACより

『オーガニックな成分なら安心でしょうか?』という質問は少なからずあります。

一般的に、レモンユーカリ、シトロネラなどが使用されていますが、シトロネラオイルは20~30分程度の効果しかないとされています[2]。

一方で、レモンユーカリから抽出された“p-メンタン-3,8-ジオール”は、虫除けの効果が2~5 時間続くとされています。レモンユーカリのエッセンシャルオイルとは別物です。この物質はEPAにも登録されていますので、効果がある植物性オイルといえるでしょう。

しかし、3歳未満の子どもには目への刺激があるとし使用すべきではないとされています。必ずしも植物性だから安全、とは言えないといえます。

ここまでをまとめるとこんな感じになるでしょう。

文献2の表を文献3の情報を加味して筆者改変
文献2の表を文献3の情報を加味して筆者改変

日焼け止めや保湿剤を同時に塗る場合は、順番も配慮

PhotoAC、イラストACの素材から筆者作成
PhotoAC、イラストACの素材から筆者作成

このような話から、アトピー性皮膚炎のお子さんを多く診療している私の外来では、イカリジンを使用した製品を薦めることが多くなっています。

もちろん、ディートを使ってはいけないというわけではありません。

ディートは、効果がある虫の種類が多いという利点があります。たとえば山登りやキャンプに行く場合はディートの方がよいでしょうとお話ししています。

また、虫よけは揮発して効果を発揮します。

ですので、保湿剤→日焼け止め→虫よけの順に塗ると良いでしょう。

なお、日焼け止めと混ぜて販売されている製品もあります。

しかし、日焼け止めは繰り返し塗る必要性があります。一方で、虫よけは回数はそこまで必要ありません。

ですので、できれば別々に塗ることをおすすめしています。

外出が増える時期ですが、虫に刺されると楽しい時間も台無しになってしまいます。

この記事が、上手に虫よけを活用する助けになることを願っています。

【参考文献】

[1]Prevent Mosquito Bites(CDC)

2022年5月19日アクセス

[2] Katz TM, et al. Journal of the American Academy of Dermatology 2008; 58:865-71.

[3]ディートを含有する医薬品及び医薬部外品に関する安全対策について(厚生労働省)

2022年5月19日アクセス

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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