Yahoo!ニュース

花粉症による鼻症状は、鼻の中にワセリンを塗ると良くなりますか?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
写真AC

スギ花粉症の季節にはいりました。

そして花粉症による鼻の症状は、鼻のかゆみ、くしゃみ、鼻水などつらい症状をおこします。これらに対して、内服薬や鼻にスプレー状のステロイド薬を噴霧する薬が基本的な治療です[1][2]。

一方で、外来でときどき尋ねられることがあるのが、『鼻の中にワセリンを塗ると花粉による症状が楽になるって本当ですか?』という質問です。

『鼻のなかにワセリンを塗る』という方法は、ガイドラインには記載がありません。

でも、花粉をガードするために軟膏や乳液を塗るというのは効果がありそうな印象を受けます。

そこで今回は、『鼻の粘膜をガードする』方法に関して、簡単に解説してみたいと思います。

鼻の中に軟膏や乳液を塗ると、鼻のアレルギー症状は改善する?

写真AC
写真AC

『鼻の中にワセリンを塗って、花粉症の症状が軽くなるかどうか』に関する、ランダム化比較試験というきちんとしたカタチでおこなわれた検討は、2005年のドイツでの研究が最初のようです[3]。

その研究では、アレルギー性鼻炎のある大人33人を2つのグループにわけて検討されました。

まず一方は、精製長鎖炭化水素(要はワセリンです)を鼻の中に塗るグループ、もう片方は塗らないグループ、その2つに分けて鼻の症状を比較したのです。

すると、ワセリンを鼻の中に塗ると、塗らないグループよりもくしゃみや鼻のかゆみが改善したのです。ただし、鼻づまりや鼻水は良くなりませんでした。しかも塗る量は1回1cmの軟膏だったそうですので、それだけでもなんとなく鼻づまりを感じてしまいそうですね。

では、べたべたする軟膏ではなく乳液ではどうでしょうか?

グリセロールという保湿成分を含む乳液での研究結果があります。

シラカバなどのアレルギー性鼻炎のある110人に対し、乳液を塗るグループ、塗らないグループにわけて鼻の症状を確認したところ、全体的な鼻の症状が少し楽になりました。ただし、その効果はそれほど大きいものではなく、鼻づまりの改善が特にあったという結果でした。

ワセリンを使った研究の方法をみると、眠っている時間以外は3〜5時間ごとに軟膏を塗っていましたが、保湿乳液の研究では1日2回のみしか塗っていませんので、その回数も影響しているのかもしれません。

つまり、鼻の中にワセリンや乳液を塗ったとして、いくらかの効果はありそうですが、その効果は限界があると言えそうですし、塗る回数にも影響されそうです。

では、鼻に長くとどまるような性質を持つ物質を塗るとどうでしょうか?

セルロースパウダーを塗るという方法が、英国で使用されている

英国では、1994年からセルロースパウダー(商品名Nazsaleze)が市販されています。

セルロースとは食物繊維の一種で、水に溶けないので鼻の粘膜にとどまる性質があります。

セルロースパウダーに関しては、2006年に最初の臨床試験が、2017年に多くの研究をまとめた論文が報告されました。

そして、花粉などのアレルゲンを防御し鼻の症状を軽くするという結果になっています[4]。

とはいえ、セルロース製剤は処方薬でも市販薬でも、花粉症に簡単に使用できる製品が現状ではないようです。

なお、2022年10月にセルロースパウダーが販売が開始されたそうです[※]。

ただ、セルロースパウダーに関しては、花粉の量が少ないときのほうが、より効果が高かったという研究結果もあり[5]、日本のスギ花粉のように、大量に飛散する場合はそこまで効果が上がらない可能性もあります。

『鼻にワセリンを塗って、大分楽になった』ということも考えられますので、そのまま続けても良いと思います。

しかし現状では、最初にお話しをした基本的な治療をしつつ、『鼻の中にワセリンを塗る』に関しては、基本的な治療の効果が不十分なときの補助として考えたほうがいいのかなというのが私の考えです。

まだまだ花粉の季節は続きます。

この記事が、なにかのお役に立てば嬉しく思います。

[1]花粉症に一番使われる『抗ヒスタミン薬』、どう選べばいいですか?

[2]今年はすでにスギ花粉の飛散が開始 症状の「ヤマ」を低くするためのコツとは?

[3]Otolaryngol Head Neck Surg 2005; 133:754-61.

[4]Medical devices (Auckland, N.Z.) 2020; 13:107-13.

[5]Pediatr Allergy Immunol 2011; 22:594-9.

※2023年1月14日更新。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

堀向健太の最近の記事