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はしかの死者が世界で20万人超、日本は大丈夫? アウトブレイクが起きかねない懸念も

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:ロイター/アフロ)

麻しん(はしか)の患者さんが世界で大きく増えており、2019年には世界で20万人以上亡くなったという報道がありました(※1)。

麻しんで亡くなる方は、2016年に約9万人と過去最低になっていましたが、2018年には、患者数は1000万人に急増し死亡者数は14万人となっていました。

その時期より現在は、麻しんがさらに増加してきていることになります(※2)。

世界における麻しん(はしか)の発生数。文献※2より引用
世界における麻しん(はしか)の発生数。文献※2より引用

(※1)はしか死者、世界で20万人超

(※2)Nature 2020; 580:446-7.

日本でも、戦前には1年間に麻しんで1万人の子どもが亡くなっていましたように、麻しんは決して油断できない感染症です(※3)。

では、麻しんに対する対策は、現在の日本ではどうなっているのでしょうか?

(※3)新型コロナが怖くて予防接種しないとどうなる? 小児科医が恐れる感染症の怖さ

麻疹の致死率は決して低くありません

麻しんの発疹の様子を図にしたもの。文献※5から引用
麻しんの発疹の様子を図にしたもの。文献※5から引用

発展途上国での麻しんによる死亡率は3~6%であり、大きな流行になると30%にまで急増する可能性もあるとされています(※2)。

実際にコンゴ民主共和国では、2018年10月以降に麻しんが急増し6500人以上の子ども達が亡くなっており、さらに流行は拡大しています。そしてコンゴでは、新型コロナに対する感染予防措置により100万人近くの子ども達が麻しんの予防接種を遅らせざるを得なくなり(※4)、さらなる感染拡大が懸念されています。

(※4)Science 2020; 369:261-.

麻疹は先進国でも、決して油断できない疾患です

イラストAC
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麻しんは、先進国でも気をつけなければならない感染症です。

麻しんによる肺炎や脳炎といった合併症は少なからず起こります。たとえば脳炎は1000人中13人が罹り、先進国であっても亡くなったり、25%に重い後遺症を残します(※5)。

そして麻しんは、感染後に免疫機能を大きく下げてしまうことが知られています。

例えば、ワクチンを接種していなくて麻しんに罹ってしまった子ども77人に対する調査では、麻しん以外のさまざまな抗体を11~73%も下げたと報告されています(※6)。

麻しんが治ったと思っても、別の感染症の心配が続くということです。

(※5)Journal of infectious diseases 2004; 189:S4-S16.

(※6)Science 2019; 366:599-606.

麻疹(はしか)は、予防接種なしに感染の流行を止めることはできません

写真AC
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新型コロナの報道を注意深くご覧になっている方はよくご存知でしょうけれど、『基本再生産数』という、感染性のある病原体がどれくらい広がりやすいか表現するための基準があります。

たとえば、基本再生産数が1.5であるとすると、その感染症が治るまでに1.5人に感染させてしまうという目安となります。

つまり、1以上であれば流行が広がり、1未満であれば流行が収まるということです。

この基本再生産数は、季節性インフルエンザでは1.28(※7)、新型コロナウイルス感染症の基本再生産数は平均3.28という報告があります(※8)。

新型コロナが広がらないようにする対策も、皆さんよくご存知ですよね。

いわゆる『3密』を避けたり、手洗いをがんばったりマスクをするなどが重要な対策になります。その結果、一時的にでも再生産数を1未満にし、感染の拡大を食い止めたのです。

しかし、経済活動を再開してきた現在では、再生産数は1.42まで上昇しています(2020年11月13日現在)(※9)。そして、感染は拡大してきています。再生算数が3の新型コロナでも、難敵だという実感がありますよね。

しかし、麻疹(はしか)の基本再生産数は新型コロナよりもずっと高く、12~18と推定されています(※10)。

(※7)BMC Infect Dis 2014; 14:480.

(※8)J Travel Med 2020; 27.

(※9)https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

(※10)臨床とウイルス 2016; 44:40-6.

新型コロナの流行に伴う予防接種率の低下が、感染症の流行に繋がるのではと心配されている

イラストAC
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こんな高い再生産数を持つ麻しん(はしか)は、一般的な感染予防策だけでは流行を抑えることはできません。

そして、もっとも効果が高い麻疹に対する対策が、予防接種になるのです。

麻しんは生ワクチンという予防効果の高い予防接種を95%程度のひとにおこなうと、根絶可能であることがわかっています。

しかし、その感染力の強さから、少し麻疹の予防接種率が下がるだけで流行が始まってしまうのです。

たとえばマダガスカルでは、麻疹ワクチン不足により予防接種率が下がったあと、2018 年からアウトブレイク(通常で予想される以上に感染症が広がり始めること)して大流行し1,000 人が亡くなりました(※2)。

ほんの少しでも気を緩めると流行してしまうのが麻しんの怖さなのです。

そして新型コロナの流行により、先進国でも予防接種率の低下が指摘されるようになりました。

たとえば米国では、麻しんを含むワクチンの出荷量が大きく減ったことが報告されています(※11)。

文献11から引用。米国でのワクチン接種が減っている
文献11から引用。米国でのワクチン接種が減っている

そして日本でも、予防接種率が大きく下がりました(※12)。

すなわち、いつ麻しんが、そしてそれ以外の感染症もアウトブレイクしてもおかしくないといえます。

文献12より引用。日本でも予防接種率が低下した
文献12より引用。日本でも予防接種率が低下した

(※11)Microbes Infect 2020; 22:162-4.

(※12)リリース「新型コロナ流行時に延期した予防接種のキャッチアップを」

2020年10月に、予防接種を接種しやすくなるルール変更が行われています

写真AC
写真AC

2020年10月から予防接種間隔に関するルールが変更になりました。

予防接種の間隔に関して、いままでは『生ワクチン接種後に別のワクチンを接種するのは27日間の間隔』、『不活化ワクチン接種後に別のワクチンを接種するのは6日以上の間隔を』となっていました。

それが、10月からの予防接種の接種間隔は、『注射から注射』の生ワクチンの接種は27日以上あけるものの、他のワクチンとの接種間隔に制限がなくなりました(※13)。

簡単に示すとこんな感じです。

筆者作成
筆者作成

(※13)予防接種ルールが10月から変更 大事なポイントは接種間隔の変更と「ロタウイルス」の定期接種化

すなわち、インフルエンザワクチンを接種した翌日に麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を接種できますし、MRワクチンの翌日にインフルエンザワクチンの接種も可能です。

もちろん、MRワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種もできます。

予防接種スケジュールが遅れている方は、インフルエンザワクチンの接種時に他のワクチンが同時にできれば良いですね。かかりつけ医に相談してみてくださいね。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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