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生後1ヶ月から粉ミルクを飲むと牛乳アレルギーを予防できる?最新論文から乳アレルギーの発症予防法を紹介

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロイメージマート)

食物アレルギーのお子さんは増えています

東京都で調査されている3歳時食物アレルギーのある児の割合は大きく増えています(※1)。

文献(※1)より筆者作成
文献(※1)より筆者作成

特に、乳児期の食物アレルギーは卵・乳・小麦で9割を占めており(※2)、発症予防法がないかがさかんに研究されています。

(※1)アレルギー疾患に関する3歳児全都調査(平成26年度)報告書

(※2)食物アレルギーの診療の手引き2017

そして今月、日本から、アレルギー関連でもっとも有名な医学雑誌に、牛乳アレルギーの発症予防を試みた研究結果が発表されました。そして、生後1ヶ月から粉ミルクを少量飲み続けると牛乳アレルギーの発症を予防できるという画期的な結果だったのです(※3)。

(※3)J Allergy Clin Immunol 2020.[Online ahead of print](日本語訳

一時期、『アレルギーになりやすい食べ物に関しては、離乳食の開始時期を遅らせたほうがいいのではないか』という考え方がありました

イラストAC
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2000年に米国小児科学会は、生後1歳までの牛乳、2歳までの鶏卵とナッツの除去を推奨しました。

しかし、かえってこの推奨により食物アレルギーを増やしてしまったかもしれないという報告が発表され、2008年には撤回されたのです(※4)。

(※4)Cmaj 2015; 187:1297-301.(日本語訳

むしろ最近の多くの研究結果から、『発症前から摂取を開始する』と、食物アレルギーの発症を予防するかもしれないという戦略が、見えはじめてきました

たとえば卵に関しては、生後6ヶ月からの摂取開始が卵アレルギーの発症を予防するという研究結果が、2018年に日本から発表されました(※5)(実際には『ただ早めに食べ始める』だとリスクがありますので、注意点が学会から提案されています(※6))。

(※5)Lancet 2017; 389:276-86.(日本語訳

(※6)「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の解説:患者・一般の皆様へ

生後1ヶ月から3ヶ月まで、粉ミルクを10mL毎日飲んでいると、牛乳アレルギーの発症が予防できるかもしれない

写真AC
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さて、卵アレルギーの発症予防策は、(条件をそろえてからの)生後6ヶ月からの卵の開始でした。

しかし、牛乳アレルギーに関しては生後6ヶ月前後がもっとも発症が多い月齢と考えられています。

卵と同じように始めることは難しいということですね。

そして、これまでの研究結果から、生後2週~1ヶ月くらいから開始すると良いのではないかという予想が立てられていました(※7)。しかし最近、生後3日以内に粉ミルクを飲んでいると、むしろ牛乳アレルギーが増えるかもしれないという結果も報告され、お互いに矛盾した結果になっていたのです(※8)。

(※7)Journal of allergy and clinical immunology 2010; 126(1): 77-82.e1.(日本語訳

(※8)JAMA Pediatr 2019; 173:1137-45.(日本語訳

そんな状況の中、生後1ヶ月から粉ミルクを開始すると牛乳アレルギーの発症を予防できるという『スペード試験』が、なんと日本から発表されたのです(※3)。

この研究では沖縄で生まれた乳児504人が集められました。

そして、生後1ヶ月から生後3ヶ月まで普通粉ミルクを10mL毎日のむグループと、粉ミルクをのまないグループ(必要であれば大豆を使用したミルクを使用)にランダムに分けられました。

そして、生後6ヶ月の乳アレルギーがどれくらい発症したかを比較したのです。

すると、生後6ヶ月に乳アレルギーを発症したのは、飲み始めたグループでは0.8%、飲まなかったグループでは6.8%の発症率でした。すなわち、10mLと少ない量でも普通粉ミルクをのみ続けると、乳アレルギーの発症が抑えられるということがわかったのです。

論文(※3)から筆者作成。写真や図はイラストAC・写真ACより引用
論文(※3)から筆者作成。写真や図はイラストAC・写真ACより引用

食物アレルギーの発症予防に関しては、これから明らかになることが増えてくるでしょう

写真AC
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一般的にも、『早めに食べ始めることによって食物アレルギーの発症が予防できる』という知識はすこしずつ広がってきているようです。

そして、2019年に12年ぶりに改定された『授乳・離乳の支援ガイド』では、『生後5~6ヶ月に卵黄を開始する』に変更されました(※9)。

(※9)授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)

今後、今回のスペード試験の研究結果を受けて牛乳アレルギーの発症予防に対する対策が一般化するかどうかが注目されてくると思われます。

論文にも述べられていますが、もちろんこの研究結果は母乳栄養を否定する研究結果ではありません。

少量、粉ミルクを足せばいいのではという、現実的な報告だろうと考えています。

もし、食物アレルギーがご心配な場合は、専門医にご相談ください

写真AC
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今回ご紹介した研究結果でもおわかりの通り、卵と牛乳のアレルギーの発症予防策に対してでも開始時期が全く異なりました。

つまり食物アレルギーの発症予防には、『はやめに離乳食を開始するという』1フレーズでは説明しきれない難しさが存在するということです。

そして、これまでの研究結果である程度あきらかになっている、『早めに食べ始めると、その食物のアレルギーが予防できる』と考えられる予防策は、卵、ピーナッツ、そして今回の牛乳アレルギーの発症予防策に限られています。

まだまだ明らかにしなければならない事柄が、このテーマにはあるということです。

なお、発症予防に関してのご紹介をいたしましたが、これらはあくまで発症予防に関しての研究結果です。ですので、現在すでに発症しているお子さんが、食べ始める場合はリスクが高いです。

ですので、その場合は是非医師に相談してくださいね。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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