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「ぐるナイおもしろ荘」岡村隆史が2023年気に入った「ちゃんぴおんず」の不思議なフレーズとは

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

見知らぬ芸人ばかり出てくる「ぐるナイおもしろ荘」

2023年も「ぐるナイおもしろ荘」はおもしろかった。

視聴習慣として、年を越したあと、最初にこの「ぐるナイおもしろ荘」を見て一年が始まるということが多く、2023年も同じだった。

今年もまた、あまり見たことのない10組が出てきた。

まっとうな漫才も見かけるが、印象に残るのは「何をやっているのかわからない」コンビである。

優勝はリズム芸「ちょんとすなよ」のちゃんぴおんず

いちおう順位がつけられる。

2023年の優勝は、ちゃんぴおんずであった。

意味のわからない芸だった。

でも、ナイナイ岡村に刺さったリズムネタの芸人であった。

そのポイントだけで優勝できるのだ。

優勝したとき、ちゃんぴおんずの大崎が泣き出し、しかも隣にいた別のユニット喫茶ムーンの女芸人のヲも(芸名が「ヲ」らしい)もらい泣きしているのを見て、岡村が「ちゃうちゃう、そんな大会じゃないんで」と釘をさしていたが、そのとおりである。

優勝したからといって、有名になるとはかぎらない。

そういう大会じゃない。

2022年でいまも残るは2組だけ

たとえば昨年2022年も10組が出ていたが、一年経って、ふつうのテレビ番組で見る機会があるのは、ゆめちゃん、と、ぱーてぃーちゃん、の2組くらいである。

あっぱれ婦人会、や、ブラゴーリ、は去年あれだけ笑ったのに、その後(私は)さっぱり見かけなかった。

そういうものなのだ。

残りの芸人たちは、また、深い深い芸能界の海の底のほうに潜ってしまい、ふつうには見かけられなくなったのだ。

見るほうもそういう覚悟で見ないといけない。もちろん、出るほうも同じである。

ちゃんぴおんずの耳に残るリズム芸

2023年は、耳に残る芸人がいくつか出てきた。

耳に残れば、深く沈みこむのを避けられるかもしれない。そういう可能性が高まる。

もっとも耳に残ったのが、優勝した「ちゃんぴおんず」である。

相方がこめかみ部分を指でちょんと突くので「ちょんとすなよー」と反応する。

基本、それだけである。それだけの芸だ。

あとは「ちょん、ちょん、ちょん、ちょん」「ちょんってすんなよー」の受け答えリズムだけで進んでいく。

意味がわからない。

なんで「ちょんってする」のだろう、と考えたところで、どうしようもない。

ちょんってすんなよー、だけが耳に残るばかりだ。

そして、ただ、笑ってしまう。

門脇麦にドハマりしていたちゃんぴおんず

この大会は、演じたあとにナイナイや有吉弘行、出川哲朗、ゲスト(門脇麦、田中圭)とのトークコーナーがある。

ここでどういう爪痕を残すかが大事なのだが、ちゃんぴおんずはここでもすごかった。

「大ちゃん」と名前を呼ぶと本人が「大ちゃん! ン、ン、アッ、アッ……」と踊り出して「終わった?」「見て!」というやりとりを見せる。

これがほんとうに完全に意味不明である。

何もわからない。

それを5回繰り返した。5回ともついぞまったく意味がわからなかった。

でもどんどん笑ってしまった。

ちょっとすごい。

「ちょんってすなよ」と「大ちゃん! 終わった? 見て!」で持っていったのだ。

YELLOWwwの「バカは風邪ひかねえ!」

もうひとつ、ほんとに意味がなかったのが「YELLOWww」である。

「w」が多いけど、これでイエローと読むらしい。

彼らも徹頭徹尾、意味がない。

上下に飛び跳ねつつ、「おれたち健康!おれたち健康!おれたち健康!」「ピン!ピン!ピン!」「バカは風邪ひかねえ!」というフレーズを繰り返して、ただ飛び跳ね続けるだけだ。一瞬たりともじっとしていない。

登場してからずっと跳ねている。

「おれたち健康!おれたち健康!おれたち健康!」「ピン!ピン!ピン!」と跳ね続ける。

「バカは風邪ひかねえ!」が決めゼリフだ。

途中で、ゲスト門脇麦が「何なの!」とツッコんでいる声が入っていた。

彼女はドハマりしていた。

これもすごかった。この番組でしか見られない。

音しか残らない。

「ピン!ピン!ピン!」「バカは風邪ひかねえ!」

幼稚園児が合唱しそうなセリフである。

女優と芸人とのやりとりのおもしろさ

この番組のゲストに必ず女優がいて、今年は門脇麦。

女優はだいたいドラマ主演女優なので(その番宣で来ている)、その芸能界アッパークラス感と、出演芸人の落差がいつもおもしろい。

門脇麦はナンセンス芸が好きなようで、ちゃんぴおんずと、このYELLOWwwにハマっていた。

ナイチンゲールダンスの「ルーレット、スタート!」

耳に残ったのはあと2つ。

1つは、ナイチンゲールダンス。

彼らの基本スタイルは漫才で、そこは崩していない。

意味わからないレベルではない。漫才だなとおもって見られる。

でも、突然、ルーレットを始める。

まず「立ち位置ルーレット!」と叫んで、相方とマイクを中心に、そのまわりをぐるぐる回り出して、ルーレット、と叫んで、ボタンを押してもらって時間差で止まる。

かなりうしろに立ち止まって「授業参観(の位置)!」と構えていた。

あるかないかルーレット、袖の長さ決めルーレット、ベルトの位置決めルーレットなどを次々と見せて、この「ルーレット」という武器があるのが、かなり強い。

フリートークでも有吉に「ルーレット見たいなあ」と言われて、「ルーレットあるかないかどうかルーレット、スタート!」とぐるぐるやって、「ないっ!」と叫んで受けていた。

無限にできるところが強い。

フリートークでもなかなか強そうだ。

クセ強そうな宮武ぜんたの「ニアッ! ファーーーッ!」

もうひとつ。これはピン芸人で、宮武ぜんた。

「近道しよう」というネタで、その方法は近道かどうかを判断していく。

近いと「ニアッ!」、遠いと「ファーーーッ!」と叫ぶ。正解だと「到着!」と座りこむ。

いいおっさんがこれを繰り返していると、どんどんおもしろくなっていく。

ただし深夜のテンションだと、なのだが。

でも、クセが強そうで、最初かなり不安を感じさせるキャラだったのだが、ネタに入ったら、けっこうおもしろくて、彼は3位だった。

2位がルーレットのナイチンゲールダンス。

わかりやすい順位だった。

YELLOWwwは当然のごとく、着外である。

2023年ぐるナイおもしろ荘は、この4組がとても耳に残った。

元祖いちごちゃんのハイパーペロちゃんはホンモノか

印象に残った、という点では他にもいる。

最後に出てきた元祖いちごちゃんは不条理系で意味のわからない漫才コンビだった。

おもしろいというより、ただただ不思議な存在で、とくにハイパーペロちゃんが不気味だった。

ひょっとしたらホンモノではないか、とおもわせるテンポのずれ具合いがとても気になった。

誰かハマる先輩芸人がいれば、何とかなるかもしれない。可能性は低いとおもうが。

気持ち悪いキャラとして、マードックの龍、喫茶ムーンの元自衛官阿部、というのもいた。

気持ち悪いキャラというのは、本人だけではどうにもならないので、まわりに引っ張ってもらえるかどうかで決まる。

いつか誰かが引っ張ってくれれば、どこかに出ていけるかもしれない。

がんばってもらいたい。

ぐるナイおもしろ荘2023からおすすめ4組

というわけで、「ぐるナイおもしろ荘」2023から、耳に残って、ちょっと人に教えたい存在が、個人的には4つあった。

4つはけっこう多い。甘く評価しているだけかもしれない。

もっとも爆ぜる可能性があるのが、ちゃんぴおんず、だろう。

「ちょんとすなよ」と「大ちゃん! 終わった? 見て!」である。

「大ちゃん!ン、ン、アッ、アッ……」の音が強い。

ただ結成一年の彼らが、この音だけでどこまで出ていけるのだろうか。想像するとちょっと本気でどきどきしてしまうので、想像しないことにする。

残る芸人は何組でるのだろうか

個人的にもっとも耳に残ったのは「ピン!ピン!ピン!」「バカは風邪ひかねえ!」のYELLOWwwだ。

異様な衣装もふくめてインパクトが強い。

そのぶん、どこのどの番組に出られるのか不透明で(ふっとおもいつくのは「あらびき団」だけど、これは年一でしかやっていない)、展開を想像するのはなかなかむずかしい。

でも、この音は、ハマると子供がめちゃハマるとおもう。何かのきっかけで急浮上するかもしれない。

あとは「ルーレットスタート!」のナイチンゲールダンス。

そして「ニアッ! ファーーーッ! 到着!」の宮武ぜんた。

この4つの「音」である。

(書いてみていまおもったのは宮武ぜんたは上3つと比べてちょっと弱いなあ、ということであった。いいんだけど)

春になっても聞こえる音があればいいなとおもう。

岡村隆史がもっともハマっていたのは、ちゃんぴおんずだった。

今年は、それ以外にも1つ、2つ、そこそこ広まるかもしれない。

楽しみである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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