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なぜRIZIN榊原CEOは「ごぼうの党」奥野代表のメイウェザ花束ポイ捨て問題で土下座謝罪をしたのか?

本郷陽一『RONSPO』編集長
メイウェザーへの花束ポイ捨て問題の管理責任を榊原CEOは土下座で謝罪(筆者撮影)

総合格闘技イベント「RIZIN」の榊原信行CEO(58)が9月30日、都内で会見を開き、25日に開催された「超RIZIN」で、試合前に政治団体「ごぼうの党」の奥野卓志代表が、プロボクシングの元5階級制覇王者フロイド・メイウェザー・ジュニア(45、米国)へ花束を手渡さず足元に捨てた問題について土下座で謝罪。もしメイウェザーが”神対応”をせず激怒してリングを降りていた場合、朝倉未来(30、トライフォース赤坂)との試合が中止となる危機的状況にあったことを明かした。今後はチケット購入などの特典としての花束贈呈を禁止。奥野氏を会場へ出禁とし業務妨害などで損害賠償請求を行う法的措置も検討しているという。

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「RIZINランドマーク4」のカード発表会見に引き続き、メイウェザーへの「花束ポイ捨て問題」についての緊急会見を1人で行った榊原氏は、改めて奥野氏の行為を「品性下劣で心無い行動。テロ行為だ」と痛烈に批判した。

 そして「謝罪とはどういうものかと考えたとき、日本は侍の時代から礼節を重んじる国、世界中どこにいっても礼儀正しい国。世界中の人たちに申し訳ないという気持ちを伝えたいので、ここで土下座をさせていただいて、お詫びを伝えたいと」と語った上で、壇上を降りて、会見場となった宴会場の床に膝をつき正座。続けて頭を深く下げたまま、謝罪の言葉を日本語と英語でも伝え、額を床につけて、約15秒近く土下座した。

 試合の翌日には、RIZINの事務所の電話が鳴りやまないほどの抗議の電話やメールが殺到。奥野氏の行為に対する怒りと同時に、そういう人物をリングに上げた主催者の管理責任や、花束贈呈の特典をつけて「NFTチケット」のオークションをあおった経営姿勢を問う声もあった。

 奥野氏が「NFTチケット」での最高入札額である420万円を払ったため、花束贈呈の特典を得たものだが、RIZINサイドは、株式会社エムアップホールディングスの子会社である「ファンプラス」に対応を任せており、落札者が「反社でないかどうか」のバックグラウンドのチェックは行ったが、花束贈呈においての注意事項の確認などを怠り「未然に防げなかったのかと何度も自戒した。長く格闘技にかかわった人生で想定できなかったことだが、想定できなかったで許されるものではない。任せていたから知らないではすまない」と榊原氏は反省した。

 今回の試合は、全世界にPPVや無料で配信されており、SNSでも、花束のポイ捨て映像が拡散。海外メディアが「奇妙なシーン」「無礼な行為」として取り上げるなど、礼節を重んじる国として知られる日本で起きた「日本の恥」と断罪されうべき行為は世界へ波紋を広げた。榊原氏は、それらの事態を重く受けとめて土下座という謝罪手段を選んだ。

 SNSでは「やりすぎ」「土下座までする必要はあるのか?」などの意見も飛び交ったが、榊原氏は、土下座謝罪を決断した理由を改めてこう説明した。

「“そこまでやらなくていい“とおっしゃる方もいるでしょうが、こんなに申し訳ないと思ったことも、土下座したことも、これまでの人生で一度も無いし、そんな安い土下座じゃない。日本だけじゃなく世界中の人々に、その思いを届けるとき、どうすればいいかを考えたとき、言葉で喋れることは限られる。世界の人にわかりやすい、日本のトラディショナルなお詫びの仕方。最大級の敬意、思いを表現したいと思ってやらせてもらった」

 榊原氏は、さらに衝撃的な裏事情を明かした、

 ゴング直前に花束を足元にポイ捨てされたメイウェザーは、困惑の表情浮かべたが、特段怒るでもなく、冷静に花束を拾いあげてコーナーのスタッフに渡して試合開始のゴングを待った。この”神対応”がファンの共感を呼び、榊原氏も「メイウェザーに救われた」と感謝の意を伝えていた。

 しかし「もしメイウェザーが怒って(花束を)はね返して、リングを降りても契約上、何も言えなかった」というのだ。ボクシング未経験の朝倉の予想外の奮闘で、2ラウンドTKO決着となった試合は、ファンをヒートアップさせてエンターテインメントとして大成功したが、メイウェザーの態度如何で、そのメインイベントが中止になるという不測の事態を招くところだったのだ。

 榊原氏は、試合直後にTMTの社長並びにメイウェザー本人に謝罪したが、再度、離日前のメイウェザーのホテルを訪ねて、謝意を伝えると同時に謝罪した。

 ESPNや米ヤフーなど海外メディアからもメイウェザーへ公式声明を求める問い合わせが殺到していたという。

「凄く迷っていた。非礼を断罪すべきか、日本人に受けいれられていないのか、オレをバカにして差別しているのか、などの色んな思いがあって傷ついていた」(榊原氏)。それでもメイウェザーは、榊原氏に「また(日本に)戻ってくる。心配するな」と答えた。

「これで何かアクションを起こせば(奥野氏の)思うツボじゃないか」と、冷静に今回の騒動を受け止め、前向きな姿勢で応対した。メイウエザーは28日にインスタに「態度や議論ではなく平和と静けさが必要」と投稿している。

 榊原氏は、再度、ラスベガスを訪れ、メイウェザーに謝罪したいという。

 奥野氏は、29日に親交のある人気ユーチューバー、ヒカルの動画チャンネル内で謝罪。この際、言い訳やなぜ非礼な行為に至ったかの理由を一切、明かさなかったが、この日は「ごぼうの党」のユーチューブ公式チャンネルで約48分間にわたる釈明動画をアップした。

 その中で、4年前の那須川天心戦でのメイウェザーの問題行動や、世紀の一戦として対戦したマニー・パッキャオ(フィリピン)に対する発言など、メイウェザーの過去の態度や、人間性までを批判し、ネット情報による犯罪歴まで紹介し、それらが、花束ポイ捨てのパフォーマンスを行うきっかけになったことを明かした。

 また”炎上商法説”は断固否定したが、動画の最後に今回の釈明とはまったく無関係の現政権が打ち出している立法、政策の批判を展開。「ごぼうの党」の認知度を高めるためのパフォーマンスであったことも示唆した。そうであれば花束ポイ捨ては、立派な政治活動。榊原氏は「スポーツ舞台に、政治、イデオロギーもちこむものではない」と嫌悪感を示していたが、言い訳無用、完全アウトだ。

 しかも、RIZINに対しての謝罪やアプローチは一切ないという。

「不本意ながら」前日の謝罪動画を見たという榊原氏は、謝罪でありながらも私服姿で出演するなどの姿勢を糾弾した上で「本当に謝ろうと思えば、僕は土下座をするし、その人の家の前でずっと待っている。そんな簡単に受け入れられるものでもないし、誤ってすむものではない」と不快感をあらわにした。

 さらに榊原氏は「(もし会場に入ったら)袋叩きに合うと思う」と、奥野氏の会場への出禁と、今後オークションによる花束贈呈件付与などのイベントを中止する考えを明かした。花束贈呈者には誓約書を提出させるなどの防止措置を取るという。加えて、業務妨害、名誉棄損などによる損害賠償を奥野氏に求める法的措置を検討していることも示唆した。

 メイウェザーの対戦相手である朝倉が「ごぼうの党」の顧問「スポーツアドバイザー」として名を連ねていることを問題視する声もあるが、榊原氏は、その件について朝倉と「一切話をしていない」とした上で、「未来と、どういう関係にあるかは今も理解していない」と語った。

 神聖なるリング内で起きた試合以外の問題が、肝心のファイトよりも話題を独占する状況になってしまっては、本末転倒。まして格闘イベントが奥野氏の政治活動に利用されることとなれば大問題である。格闘ファンも、榊原氏の土下座で、花束ポイ投げ問題に”終止符”が打たれることを願っている。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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