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亀田問題で誰にどんな処分を下すべきか

本郷陽一『RONSPO』編集長

私は、連日のようにWBA、IBF世界Sフライ級統一戦で起きた亀田問題を報じているが、ここで一度、この問題を整理してみようと思う。

まず経緯を追う。

3日に大阪で行われたWBA、IBFの世界スーパーフライ級統一戦において、WBA王者のリボリオ・ソリスが、前日に計量に失敗。(そもそも、ここでソリスがこういう失態を犯したことが、この問題の最大の遠因ではあるが)WBA王座は剥奪されたが、試合はそのまま行われることになり、ルールミーティングの後に、IBFの立会い人であるリンゼイ・タッカー氏は、IBF同級王者の亀田大毅選手が勝てば、統一王者。負ければIBF王座も空位ということを世界戦の統括組織であるJBC(日本ボクシングコミッション)及び、報道陣に対して明らかにした。放映局のTBSも含めてメディアは、その見解を事前に一斉に報じた。だが、判定で亀田が敗れると、そのIBFの立会人が会見を開き「負けても王座は保持された。IBFルールにはそうある」と、前日の見解を一転させ、大混乱を招くことになった。

問題は、ここからである。

大阪の現場にいたJBCの森田事務局長は、「(IBFが)決めたならそういうことでしょう」と、IBFの前言撤回を追認してしまっていたが、翌日になると、「負けても防衛」の波紋があまりにも大きくなっていたため、IBCの秋山理事長が、「IBFの本部に事情を聞きたい」と問題の調査に乗り出す姿勢を明らかにした。だが、その数時間前に大阪で亀田ジムの嶋マネージャーが、「前日のルールミーティングでIBFルールが配布され(負けても防衛が)確認されていた」と、そのIBFルールのレジメを報道陣に見せて、“前日から決まっていたことで、負けたから防衛に変わったわけではない”と主張したのである。

その後、亀田3兄弟の父である亀田史郎氏が、一部スポーツ紙を通じてJBCの管理責任を問う声まで上げた。つまり“元々、ルールで決まっているのに、JBCが、ちゃんとしていないから、また負けたから変えたと亀田ジムが悪く言われるだろう!”と、騒動の矛先をJBCに向けたのである。ここ数年は、亀田一家が何かトラブルを起こしても、どちらかと言えば“なあなあ”で済ませてきたJBCだったが、今回ばかりは、亀田陣営の発言、言動を問題視した。JBCの権威が失墜するような事態に危機感を抱いた。そこで亀田陣営へペナルティを科すことを前提に17日に聴聞を行ったのである。

では、亀田陣営のどこが問題だったのか。

そのひとつが、亀田陣営「前日のルールミーティングで“負けても防衛”が決まっていた」という主張。その発言をJBCは、「虚偽である」と問題視した。「負けても防衛」という見解を事前に知っていた、いや知らなかったが、ひとつの争点となっている。

確かにルールミーティングにおいては、IBFルールのコピーが配布され、試合ルールについては確認されたが、タイトルの移動問題については、改めて確認はされていなかったようだ。亀田側は、その盲点を突いて“配布されたルールブックに載っている見解が正しい”と主張しているわけである。また同ジムのスーパーバイザーが口頭で「負けても防衛」を確認したともしている。後から、考えれば、ルールミーティングの中で、しっかりと確認作業をしていなかったJBCのミスだが、統一戦では、独自のルールが定められることが少なくなく、それはルールミーティングでの決定が優先され、来日したIBFの最高責任者が、「負ければ空位」という言質をそのルールミーティングの直後に残しているのだから、その発言を統一戦の見解としてJBCが認識していたのは当然だろう。

だが、一方で亀田陣営に、“ルールミーティングで配布されたルールのレジメに『負けても防衛』と書かれてあるじゃないか”と主張されれば、それはそうだろう。しかし、前日の亀田大毅のブログには、「負けたら空位」と書かれているのだから、彼らが「前日に知っていた」という話とは大きく矛盾する。前日のスタッフのブログにも、同様の書き込みがされたらしいが、現在は削除されていて確認はできない。「本当に前日に知っていたのか」と、突っ込みどころは満載ではあるが、私は、この部分を争点にするならば、「答えはない」と思っている。この問題の一番の過失は、発言を一転させたIBF側にあるからだ。

「前日に知っていた」「知らなかった」を争点にすれば、平行線のままで、それを「虚偽」と認定するには無理があるだろう。

問題にすべきは、むしろ、もし「負ければ空位」という見解がわかっていたならば、なぜそれを事前にJBCに報告しなかったのか?という責任問題だろう。またチケットを買ってもらったファンに、それらの情報を事前に伝えていなかったという興行主(亀田プロモーションで、社長は亀田興毅)の道義的な責任もある。またJBCの運営責任などを、むやみに追及して、管理組織の権威を失墜させた発言、行動は、なんらかの処罰の対象になってもおかしくない。

ただ、これらの事項に関しても彼らが、「JBCが事前に“負けても防衛”ということを知らなかったとは知らなかった」と抗弁すれば、逃げ道にはなる。あれだけ「負ければ空位」と事前に報道されていたが、「そんなの見ませんでした。知りませんでした」と答えれば、その部分の責任追及も難しくなるかもしれない。

この問題を取材していると「亀田のジムは、いろいろと問題がありますからね。もういい加減、手を打ったほうがいいですよ」というようなアンチの声を多く聞く。現在のボクシング界には、山中慎介、内山高志のような素晴らしいチャンピオンに、村田諒太、井上尚弥のような既存のボクシングイメージを一新させるようなスター候補も生まれている。その一方で、レベルの低い世界戦を繰り返し、常にトラブルを起こし続ける亀田ジムに対して「ボクシングをプロレス化するな」「ボクシングの伝統を汚すな」といったような批判の声は少なくない。だが、それらの問題は、今回は、切り離して考えねばならないと思う。

例えば、香川で行われた亀田大毅のIBF世界Sフライ級王座決定戦では、JBCへの報告もなしに当日計量を行った問題や、グローブの選択についてJBCに侮蔑とも言える発言を含めてクレームをつけた問題などが起きているが、JBCは、その際すぐに倫理委員会を開いて対処しておかねばならなかった。「この際、亀田ジムの問題を一気に全部やりましょう」という考え方をJBCが持っているとすれば、それは間違っている。ここまで亀田ジムの問題を放置してきてしまったJBCにも落ち度があることを自覚すべきである。

私は何度も今回の問題についての記事を書き、どういう処分を下すべきかには議論が必要だとも書いてきた。取材をしていると、同ジムに交付しているクラブオーナー、プロモーター、マネージャーのいずれかのライセンスの停止もしくは取り消しという重たいペナルティを亀田ジムに科す方向で、JBCの方針は固まっているようだが、その処分は、厳しすぎるのではないかと思う。

「知っていた」「知らなかった」を俎上に載せず、興行主としての同義的責任、JBCへの報告の怠慢、そしてJBCへの侮蔑発言を含め、日本のボクシング界の信頼を揺るがせた行為に対しての処分が、各種のライセンス停止、及び、取り消しに値するかと言えば、そうではないだろう。なんらかの決定的な不正を証拠を持って指摘でもしない限り、今回の案件だけで亀田ジムを“取り潰す”には無理がある。今回は、資格審査委員会ではなく、倫理委員会を開き、亀田興毅、吉井会長、嶋マネージャーの3者に、戒告や罰金を科する程度のペナルティが、順当だと思う。しかし、JBCがアクションを起こしたことは「今後、JBCは、あなたたちを厳しく監視していますよ」という亀田ジムへの警鐘につながった。それだけで意味はあったと思う。今後、亀田ジムが、また何らかの問題やトラブルを起こせば、JBCは、すぐさま倫理委員会、資格審査委員会を開き、今度こそライセンスを取り消す処分を審議すればいいだろう。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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