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アベノミクスがプロスポーツに与えた打撃

本郷陽一『RONSPO』編集長

繁華街を歩くと、選挙の宣伝カーから真っ黒に日焼けした党首のガラガラ声が響く。自民圧勝。やる前から翌日の新聞の一面タイトルが目に浮かんでは、投票率は上がりそうにもない。10日には、Jリーグが今季初の平日ナイターで開催されたが、観客動員にそれほどプラスの波及効果は見れられなかった。安倍政権が、自慢気に語る経済戦略「アベノミスク」は果たしてプロスポーツ界にどんな影響を与えているのだろうか。

先日、某プロスポーツのチームの社長クラスの人物と雑談をしていて「アベノミクス」について話題が移った。

――プロスポーツ界にアベノミクスのプラス効果ってありますかね?

「マイナス効果でしょう。私たちは、外国人助っ人選手への給料は、ドル建てで支払っています。年俸を月割にして払うのですが、契約書に書かれている金額はドルですから。レートは、その月々で変わるわけで、アベノミクスの円安のおかげで、おおよそですが、20%くらいの損をすることになりました」

例えば、100万ドルの年俸の選手への支払いを考える場合、円高が最高値だった1ドル76円ならば、7500万円で済むが、1ドル100円となると1億円となる。この為替レート差は、年俸の金額が大きくなればなるほどバカにできなくなる。

私は、旧知のボクシングジムの人間にも聞いてみた。

「チャンピオンに払うファイトマネーが数百万円で違ってきて痛いですよ」

ボクシング界も世界戦での海外チャンピオンへのファイトマネーの支払いはドル建てで行われる。階級や、チャンピオンの人気度などによって、ファイトマネーは変わってくるが、だいたい、現在の相場は10万ドルから30万ドルと言われている。例えば20万ドルとするならば、円高の76円ならば、1520万円で済むが、アベノミクスで1ドルが100円となると2000万円に跳ね上がる。チャンピオンサイドに挑戦者として指名され海外に招待される場合は、逆に円安になれば、ファイトマネーを得することになるが、ほとんどの場合、高いお金を払ってチャンピオンを日本に招き挑戦するパターン。どこのジムもギリギリの予算で世界挑戦のプランを練っている。そうなると、為替レートによって生まれる、この数百万円の差は小さくない。興行の規模によっては、世界タイトル戦と言えど挑戦者のファイトマネーが数百万円規模であることはザラだ。円安になることで、一人分のファイトマネーと同じくらいの損が出てしまうのは、笑えない経済現象である。

日本のプロスポーツの多くは海外からの助っ人選手に頼っている輸入産業である。メジャーリーグ、もしくは、ブンデスリーグなど、海外マーケットに日本選手が、どんどん輸出されてはいるが、まだまだ輸入量の総量の方が大きいだろう。そう考えるとアベノミクスが日本プロスポーツに与えている効果はマイナス材料しか思い浮かばない。

冒頭に書いた某社長は「アベノミクスで、チームスポンサーが増えたか?と聞かれれば、それは変わりません。チームの勝ち負けの影響の方が大きいですよ」とも言う。 

自民党の経済政策によると、デフレを脱却して物価が上がれば、給料が増え、消費が増えるという見込みらしいが、プロスポーツを見にくるお客さんは、その原理でチケットを買うのだろうか。むしろ、為替レートが球団経営へ与える大なり小なりの打撃が、ファンサービスや、他の部分への投資に影響を与える側面の方が懸念される。炎天下で、街頭演説に耳を傾けながら、ふと、そんな暗い不安が頭をよぎった。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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