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金メダリスト・村田諒太は、プロで通用するか?

本郷陽一『RONSPO』編集長

ようやくこの日が来たか。

ロンドン五輪の金メダリスト、村田諒太のプロ転向会見を、白いテーブルクロスが張られた記者席に座って感慨深く見ていた。テレビカメラが9台。壇上には、所属する三迫ジムの三迫会長、プロモートなどの協力をする帝拳の浜田会長、JBCの森田事務局長が並んだ。2つのジムの会長が同席してのプロ転向会見は異色だ。

黒いスーツに明るい色のネクタイ。村田は、髪の毛をオシャレに立てて固めていた。

美男なオリンピアンは、初めの挨拶で二度ほど噛んだ。

「小さい頃に憧れていたプロへの夢を忘れていいのかと、悩み決意しました。サッカー、野球と子供たちの目はメジャースポーツに向かっているけれど、僕が世界チャンプを夢みてボクシングを始めたようにボクシングが憧れのスポーツになるように努力できればいい。金メダリストと世界チャンピオンの2つを手にするという日本人初に挑戦したい」

怖い者知らずのバンカラが少し緊張しているように見えた。

記者から「プロでやっていく自信があるか」と聞かれ「自信があるかないかと聞かれれば、まだハードなトレーニングを積んでいるわけではないのでありません。でも、自信はプロになって、これからつかんでいくもの。自分にできないものとは思っていない」と答えた。村田らしい素直な受け答えだと思った。

彼は、東洋大の職員という安定した地位と、金メダリストという永遠に醒めることのない過去の栄光を捨てて、プロへの転向を決意した。

その間、彼の気持ちは揺れ動いた。

ある日は「決めた」と言い、ある日は「やっぱり……」と言う。

彼の著書「101%のプライド」(幻冬舎)の制作をお手伝いしながら、彼の葛藤に悩む姿を見てきたが、それは、さらにもう一冊の本になるほどのものだった。会見で「ボクシングはもういいと思ったこともあった」と語っていたが、彼は、取り囲む大人の都合や、組織の都合に振り回され続けた。理不尽なアマチュア界追放というような処分まで受けた。まだ独り身ならば決断は容易だったのかもしれない。しかし、彼には檀蜜似の美人妻と可愛い息子を食わせていかねばならない27歳の責任がある。思い悩んでいた彼の姿を一番そばで見守ってきた妻は、「諒太らしく生きればいいい」と背中を押してくれたという。

彼はプロという未知の世界に踏み出す人生の選択をした。いや未知ではない。自分の可能性に賭けた。

最後の決断理由は、男のロマンに他ならない。

村田はプロで通用するのか

さて、ボクシングファンの興味は、村田が果たしてプロの世界で通用するかどうかである。

もう一人の金メダリスト、東京五輪、バンタム級で世界の頂点に立った故・桜井孝雄さんは、奇しくも同じ三迫ジムからプロデビューしたが、世界タイトルには手が届かなかった。

先日、WBC世界ミドル級王者、ゲンナジー・ゴロフキンに挑戦して3回KO負けをした石田順裕(グリーンツダ)に意見を聞いてみた。

「通用すると思います。彼は頭がいいでしょう。オリンピックでは、ポイントをしっかりと考えてボクシングをしていた。スピード、パンチ力については、僕も アマチュアのトップ選手とアメリカでスパーリングをしていましたが、そうレベルは変わらないんです。オリンピックや世界選手権で東欧の強豪とやってきたわけですから、そこに戸惑いはないでしょう。とんでもなくうまかったゴロフキンは、現在、ミドル級でも頭ひとつ抜きでた存在ですが、アテネ五輪の銀メダリスト。村田は、その上の金ですからね(笑)。長いラウンドも彼なら対応できると思います。グローブは5ミリ違えば感覚が違ってくるので、ガードの位置などアマチュアとの差に最初は多少戸惑うでしょうが、大きな障害にはなりませんよ。彼はアマチュア時代にアウトボクシングもしていたこともあるらしいし対応はできるでしょう。ボクシングは頭ですよ。世界のベルト? ミドルの世界タイトルを取れていない僕が語るのもどうかと思いますが(笑)十分、可能性はあるんじゃないですか。僕と日本でやってくれないかなあ?」

石田順裕は、成功支持派。「日のプロテストの相手がまだ決まっていないなら、僕が相手をしますよ」とまで言う。

壮絶な激闘を制して飛び級の2階級制覇、WBC世界フライ級王者となったばかりの八重樫東(大橋ジム)は、条件付きでの成功支持派だ。

「ロンドン五輪では耐えるスタイルでしたよね。ブロックを固めて耐えながらボディでスタミナを奪いポイントを拾うボクシングでしょう。典型的なファイターです。あのスタイルのまま、今のゴロフキンやマルチネスらがひしめくミドル級で世界チャンピオンになるのは厳しいと思います。でも、村田選手は、間違いなくスタイルをプロ仕様に変更してくるでしょう。どういうコーチを受けて、どんなスタイルに変えていくのか。プロでは相手が倒しにきますからパンチのダメージというものが違ってきます。プロでどう変わるかがポイントだと思うんです。ただ、スタミナに関しては、アマの3ラウンドから長いのになると難しいと言う人もいるかもしれませんが、配分を考えることができるならば問題はないんです。年齢的な問題もないと思います。プロでのスタイルチェンジにさえ成功して対応できれば、世界チャンピオンになる可能性はあるんじゃないですか」

村田はガードを固めた至近距離でのファイトを得意としていた。八重樫は、そのスタイルに疑問符をつけた。

オリンピックのヒーローにプロ転向を表明したばかりの時点で、ネガテブなコメントを出すのは、難しいような業界の雰囲気だが、某元世界王者は「無理でしょう」と否定的な意見を出した。

「まずスタイルを変えないと通用しない。オリンピックで金メダルを獲得した時のようにガードを固め打たせて相手が疲れたとこに反撃するなんてスタイルはプロではできないでしょう。村田がプロの世界で通用する武器な一体何なのか。パンチ力なのか、スピードなのか。センスなのか。金を奪ったスタミナとパンチ力という特色が、プロの世界のミドルクラスだと並みのレベルに落ち着いてしまう。もちろん、日本、東洋レベルでは敵はいないと思います。あくまでも世界を見据えての話ですよ。どうプロ向きに変革できるかなんでしょうけどね」

最後に私見を。

私は村田には世界チャンピオンになる可能性が十二分にあると思っている。石田と同意見だが、その理由のひとつはクレバーさ。自分の長所と相手の短所を知り、それを最大限に生かすには、どうすればいいかを常に研究して実行に移すことができる。ゴングが鳴って向かい合ってからの嗅覚にも優れている。対戦相手の「声が聞けるボクサー」なのだ。インファイトもアウトボクシングもできる。そして、特筆すべきはパンチ力を支える強靭なフィジカルとスタミナだ。彼は、過去に何度かプロの選手とスパーリングをやってきた。誰とは名前は書けないが、ヘッドギアをつけた状態で何人かの選手を倒してしまっている。スタミナについて言えば、スタミナ強化のため格闘家がこぞって取り入れているパワーMAXトレーニングの数値が凄くて、これまでもWBA世界スーパーフェザー級王者、内山高志と同レベル、それ以上のメニューを消化していた。

前述の世界王者達は、揃ってスタイルの変化の重要を説くが、そのあたりは、帝拳がプロモートしているから、主にアメリカで行う予定のトレーニングでは、名トレーナーをつけてバックアップしてくれるだろう。

村田は、そういう最高の環境の中、いい悪いをうまく取捨選択しながら見事に‘プロバージョン村田’として生まれ変わると思う。今後は、Sウエルター、ミドル級の2階級、WBA、WBC、IBF、WBOの8人の世界王者にターゲットを絞って、世界挑戦への道を探っていく。私は、世界タイトル奪取のXデーは2014年12月31日だと読んでいる。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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