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女子カバディが人数不足のピンチ、選手を募集中

平野貴也スポーツライター
1人で敵陣に入って攻撃を仕掛ける日本女子代表の主将、坂本夏実(赤)【著者撮影】

 霊長類最強のあの人がいれば……? 5年後に控える自国開催のアジア大会で、競技のアピールを狙っているカバディ女子日本代表が、助っ人を求めている。カバディと言えば、攻撃の選手が「カバディ、カバディ……」とつぶやきながらプレーする特徴で知られるが、マイナーで競技人口も少ない。近年は漫画「灼熱カバディ」がアニメ化されるなど人気で、男子では、漫画をきっかけに競技を始める選手も増えている。しかし、女子は、コロナ禍で選手が減っているという。

女子の国内競技人口、40人弱から減少傾向

 日本女子代表で主将を務める坂本夏実は、毎日のようにSNSを通じて競技体験会の参加者を募っている。2019年全日本選手権は、4チームが参加。選手の総数は40人弱だった。現在は、コロナ禍で試合が行われない状況が続き、競技から足が遠のいた選手も少なくない。代表チームの強化練習も人数が不足している。

 カバディは本来、最大7対7で行うが、6月12日に行われた日本代表候補エキシビションマッチに登場したのは、8人。7人制よりコートが狭く、プレーによる人数変動もない5人制のインドアルールで、4対4だった。坂本は「人数が足りない中で試合をするのはどうかという議論もあったのですが、女子がプレーしているところを見せない限り、私もやってみたいと言ってもらえないというか、男子しかないのかなと思われる部分もあると思う。今は漫画の『灼熱カバディ』が人気。少しでも関心がある女性がカバディをやってみるきっかけになったらいい」と体験会参加者の増加につながることを切望していた。

もしも、あのレスリング選手が参加したら?

 カバディは、鬼ごっこのようなルールの競技だ。ドッジボールに似たコートを使い、攻撃側が1人で敵陣に入り、相手にタッチをして自陣に戻ると、タッチした人数分の点数を得る。逆に、守備側は相手の帰陣を阻めば1点を得られる、というのが基本的な得点方法。

 守備側が相手にタックルをして、押さえ込むようなプレーもある。見ていて、ふと思った。レスリングの選手は、得意ではないか。日本には、女子レスリングの強国でメダリストを多く輩出している。「霊長類最強」と謳われた吉田沙保里、同じく五輪で4連覇を果たした伊調馨、元プロレスラーの父・アニマル浜口さんとの二人三脚の歩みで知られる元五輪選手の浜口京子……。誰でも知っているようなネームバリューのある選手だけでも次々と名前が挙がる。

 もしも、彼女たちが参戦したら……? そんな勝手なイメージを質問としてぶつけると、坂本は、想像して楽しくなったのか、笑いながら「カバディをやってもらいたい女子選手ランキングのトップ3。本当にやってみてほしい。レスリング経験者は、守備で活躍できますし」と話した。

カバディは、コンタクトを伴う鬼ごっこのようなルールの競技。守備側はタックルなどで相手の帰陣を阻む【著者撮影】
カバディは、コンタクトを伴う鬼ごっこのようなルールの競技。守備側はタックルなどで相手の帰陣を阻む【著者撮影】

他競技からの転向は即戦力の期待大、異種競技交流も歓迎

 カバディ女子日本代表を率いる井藤光圭監督によれば、コロナ禍で実現していないものの、カバディに興味を示している他競技の元日本代表選手もいるという。カバディは、育成年代の環境が整っておらず、大学や社会人になってから競技を知って始める選手がほとんど。レスリングに限らず、ハンドボールやバスケットボール、他競技からの転向組が多い。

 坂本は「他競技のアスリートは、今やっている競技もあると思うので(転向でなくても)私たちも交流して学ばせてもらう形とかでいい。いろいろな競技の人にカバディを知ってもらい、体験してもらいたい。正直、スポーツのベースができている強い人が来てくれれば、メダルも夢じゃない」と話した。

 他競技との交流は、メジャー競技の情報や指導論を学べる機会であり、カバディを広める機会にもなる。実際、数年前にはフィジカルトレーニングを教わる目的で、カバディ日本女子代表が、安部学院高校レスリング部と交流。今夏の東京五輪に出場する須崎優衣(早稲田大)らが当時所属していたレスリング部の部員にカバディを体験してもらったという。

カバディは育成環境がまだ整備されていないため、他競技からの転向組が多く、誰にでも日本のトップを目指せる環境にある【著者撮影】
カバディは育成環境がまだ整備されていないため、他競技からの転向組が多く、誰にでも日本のトップを目指せる環境にある【著者撮影】

2026年愛知・名古屋開催のアジア大会で競技アピール狙う

 女子カバディが選手の募集を急いでいるのは、大きなチャンスを逃したくないからでもある。カバディは、インド発祥の競技で、特に南アジアで人気がある。そのため、世界選手権よりも、全アジアに注目されるアジア大会のタイトルが、最も名誉とされている。

 そのアジア大会は、2022年に中国の杭州で開催予定。その次の26年は、愛知・名古屋で開催される。日本で開催される大会でメダルを取り、競技をアピールすることが、日本カバディ界にとっての大目標だ。坂本は「アジア大会に向けて、代表選手を選考していきたいけど、人数がいなければ選考もできない。猫の手も借りたいくらいに選手がほしい」と話し、早期の陣容形成を実現するためにも、人数不足の解消が不可欠であることを強調した。

自陣と敵陣を分けるミッドラインを越えるか、越えさせないか。「カバディ、カバディ」とつぶやくことばかりが有名な競技だが、実際に見るとスリリングな攻防に圧倒される【著者撮影】
自陣と敵陣を分けるミッドラインを越えるか、越えさせないか。「カバディ、カバディ」とつぶやくことばかりが有名な競技だが、実際に見るとスリリングな攻防に圧倒される【著者撮影】

競技未経験からでも日本代表入りが可能

 他競技からの転向が、おそらく最も短期間にハイレベルな選手を育てる方法だが、まずは人数の確保が急務。井藤監督は「学校の体育の成績が5段階評価の5でなくても、まったく問題ありません。多くの人に可能性がある競技。カバディは道具を使わないので、身体の動かし方を覚えられれば活躍できます。世界的に見ても、女子は選手層が薄い。イランやインド、台湾などが強いですが、日本にもチャンスはあります。人さえ集まってくれれば、何とかしますよ」と話し、競技未経験から5年後のアジア大会日本代表入りへの挑戦を呼びかけた。

 もちろん、日本代表入りとなれば、競技に対する意欲や理解が必要だ。身体能力が高ければ良いというわけではない。だが、まずは、とにかく、競技をやってみる機会を作らなければ、選手として活動する人数を増やせない。

漫画やSNSをきっかけに競技を知った選手たちが体験会へ

 井藤監督が2年前に立ち上げた横浜カバディクラブには、中学生の参加者がいる。また、埼玉県の自由の森学園中学・高校にはカバディ部があり、女子選手もいる。少しずつだが、若い世代の選手育成も始まっている。また、坂本がSNS上で行っている地道なPR活動により、漫画を読んで興味を持ったという社会人の体験会参加者なども現れた。

 しかし、アジア大会でメダルを目指すためには、まだまだ選手の人数が足りない。国内で試合をしながら強化をしていけるだけの組織力が必要だ。大正大学でカバディを始め、現在は会社を辞めてアルバイトで生計を立てながら競技中心の生活を送っている坂本は「騙されたと思って、一度、やってみてほしい。道具も使わないし、お金もほとんどかからない。やってみれば、面白さを分かってもらえると思う」と訴えた。

 5年後のアジア大会に向けて強化を図るカバディ日本女子代表は、まだ見ぬ仲間の参加を心待ちにしている。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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