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バドミントン、トナミ退社の西本「結果出すしかない、五輪は意地でも出場したい」

平野貴也スポーツライター
環境を変えた西本は、五輪について「今は、意地でも出たい」と強い意欲【筆者撮影】

 コロナ禍によって多くの経済活動が制限されているが、スポーツの世界も足踏みを強いられている。東京五輪でメダル量産の期待がかかるバドミントン日本代表は、当初、6月中旬から合宿を始める予定だったが、7月にずれ込み、さらに選手の半数が不参加の意思を表明したために中止に至るなど、活動再開が滞っている(現在は8月の合宿実施を予定)。

 そんな中、思い切った行動に出た選手がいた。男子シングルスで桃田賢斗(NTT東日本)に次ぐ日本勢2番手での東京五輪出場を狙う西本拳太(岐阜県バドミントン協会)だ。昨季に国内最高峰のS/Jリーグ覇者となったトナミ運輸のシングルスの主力だったが、6月1日に退社が発表された。西本は現在、富山県から岐阜県へ拠点を移して活動している。

 なぜ、東京五輪を目前にして安定した環境を捨て、独立を選んだのか。この先のビジョンをどう描いているのか。オンラインインタビューで「退社の経緯や現在の状況」(前編)や「新たな環境で目指すもの、東京五輪への気持ち」(後編:当該記事)を語ってもらった。

西本「見えない部分から変えていく」

国際大会で中西コーチ(右)のアドバイスを受ける西本【筆者撮影】
国際大会で中西コーチ(右)のアドバイスを受ける西本【筆者撮影】

――環境を変えて自分を追い込みたいというお話ですが、以前、日本代表で男子シングルスを担当している中西洋介コーチに話を聞いた際に「対応できる範囲は広いし、狙った所に打つ技術もある。ただ、相手のプレッシャーや得点状況によって気持ちが左右されて、コントロールが乱れて試合が慌ただしくなる。それがなくなれば大きな大会で8強を安定して狙えるようになる」と指摘されていました。プレー面につながる精神面を変えたい気持ちが強いのでしょうか

 それは、一番強いですね。中西さんには、日本B代表の頃から指導してもらっていて、長く見てもらっていますし、指摘は、正しいと思います。自分がずっと持っている課題なので、あえて苦しい状況に追い込まないとダメなんじゃないかと思っていて、成長するための決断でした。メンタルの強化というか、見えない部分から変えていかないといけないと思っています。(新しい環境で指導を受けている丸杉ブルビックの)今井さんの指導の中でも、コート外での特徴というか普段の生活面がプレーに表れるという話はされています。実際、環境を変えてみて思うのですが、元々、今回の決断に関しても「いつか……」と思いながらなかなか決断できなかったので、いかに自分に覚悟の甘い部分があったかということだと思っています。

――試合を取材する中で、同学年の桃田賢斗選手(NTT東日本)と対戦する際には、みなぎるような強い闘志が感じられるのに、国際大会ではどこか自信がなさそうというか迷っているような仕草が多いように見えて、力を出し切れていない部分があるのではないかと感じているのですが、ご自身ではどう感じていますか

 国際大会になると、相手を過大評価してしまう傾向はあるのかもしれないと感じています。自分はリスク管理を強く考えてしまうタイプなので、躊躇なく攻め切ればいい場面でも「返されたらマズイな」と考えてしまうことは、あると思います。環境を変えれば解決すると決まっているわけではないですけど、環境を変えて、異なる選手や指導者と接することで、新しい変化は生み出せるのではないかと思っています。実際に環境を変えてみて、とにかくポジティブな言葉が飛び交っていて、自分としても、こういう変化を求めていたのかなと感じる部分はあるので、やる前からダメなのではないかと考えずに、ポジティブになることが大事だと思っています。

――具体的に、プレー面ではどのように変えていきたいですか

 プレー面の課題は、ドライブ(コートと並行に近い弾道で力強く相手コートへ押し返すショット)やプッシュ(ネット際に素早く反応してたたき込むショット)でも相手に引けを取らないようにすることです。自分の特徴は、長身(180センチ)を生かした攻撃だと思っていますが、生かし切れていないというか、攻め切れていない部分があるように感じています。ドライブやプッシュがもっと良くなれば、スマッシュをより生かして、相手にプレッシャーを与えて最後まで詰め切れるようになるのではないかと思っています。

五輪レース、同門争い解消で「戦いやすくなった」

3月の全英OP開幕前日、試合形式の練習を行った西本(左)と常山。五輪出場権を争う2人は同門だったが、西本の退社で状況が変わった【筆者撮影】
3月の全英OP開幕前日、試合形式の練習を行った西本(左)と常山。五輪出場権を争う2人は同門だったが、西本の退社で状況が変わった【筆者撮影】

――元々は五輪後に環境を変える考えだったということですが、実際には環境を変えて東京五輪出場を目指す形になりました。出場権を争う常山幹太選手が同じトナミ運輸の所属だったのは、やりにくいところもあったのでは?

<注:男子シングルスでは、世界ランク1位の桃田が出場権獲得を確実にしている。同種目で同国からの出場は最大2名。西本は、世界ランク16位以上でなおかつ日本勢2番手の場合に出場権を獲得できる。ワールドツアー中断により凍結されている最新の世界ランクでは16位。11位に常山幹太(トナミ運輸)がおり、2人が出場権を争う形になっている。なお、出場権獲得レースは21年1月から再開予定で、同年5月4日更新の世界ランクで出場権獲得者が決まる>

 そうですね。チームとして見れば、どちらかが五輪に出れば、という感じになりますし、2人で並んで取材を受けて、互いをどう思うかと聞かれて、なかなか答えにくいなと思ったこともありました(笑)。もちろん、同じチームにいても、それぞれが自分の目標に向かって頑張れば良いですし、それを避けるために環境を変えたわけではありません。ただ、(ライバルと)一緒にいると、どこか意識してしまうところはありました。違うチームになれば「アイツをぶっ倒すぞ」と、自分だけでなく、支えてくれる人たちもそういう気持ちで後押ししてくれるので、自分のことに集中しやすくなり、戦いやすくなった部分はあります。

――最後に、東京五輪出場にかける気持ちを教えて下さい

 今まで、五輪に関することは明言を避けている部分があったのですが、環境を変えたことで、意識や覚悟が決まって来ていて、今までの自分は甘い考えだったなと感じています。今は、もう結果を出すしかないですし、五輪には意地でも出たいという気持ちです。五輪に出て、応援して下さったり、支えて下さったりしている方に恩返しをしたいです。

<了>

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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