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プロ多数輩出の両校、1月2日の高校サッカー2回戦「興国vs昌平」に注目

平野貴也スポーツライター
興国高(大阪)は、注目の初出場校。例年、多くのプロ選手を輩出している(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 近年、プロ選手を多数輩出している注目校が、いきなり激突する。第98回全国高校サッカー選手権大会は、12月30日に開幕し、31日に残りの1回戦がすべて行われた。年が明けて元日は試合がなく、2日に2回戦が行われる。中でも注目を集めるのは、「興国高校(大阪)vs昌平高校(埼玉)」(1月2日、浦和駒場スタジアム、12時05分開始予定)の一戦だ。興国高は、中央大を経てプロ入りした日本代表FW古橋亨梧(神戸)の母校。近年は、高卒のJリーガーを多数輩出しており、今大会で最注目の初出場校だ。今季も主将のMF田路耀介と右DF高安孝幸(ともに3年)がJ2の金沢へ加入することが内定している。一方の昌平高も16年度の松本泰志(広島)と針谷岳晃(磐田)から毎年、Jリーガーを輩出。今年度も日本代表MF鎌田大地の弟である鎌田大夢(3年)が福島に加入することが発表されている。ともに選手育成、技術・戦術に長けたチームとして定評があり、Jユースの誘いを断って進学している選手もいる。

興国、守備改善で初の全国へ

指示を出す、興国高の内野智章監督。個性派集団を作り上げ、ついに全国大会デビューを迎える【著者撮影】
指示を出す、興国高の内野智章監督。個性派集団を作り上げ、ついに全国大会デビューを迎える【著者撮影】

 興国は、今大会の初出場校の中では、間違いなく最注目チームだ。「相手の守備が整備されているほど、崩していける」(内野智章監督)という駆け引きの多いパス回しは、大きな特徴だ。個人でも、2年生のGK田川知樹、MF樺山諒乃介、MF湯谷杏吏、FW杉浦力斗はすでにJクラブから熱視線を受けている逸材だ。今季は、ようやく重い扉を開けて全国の舞台にたどり着いた。内野智章監督は、初参加のプリンスリーグ関西が「すべての扉」だったと言う。これまで、大阪府1部リーグでは主導権を握ることができてしまうために「目を向けることができていなかった」(内野監督)守備が整理された。第3節で阪南大学高校に2-5、第8節で京都橘高校に3-6と大量失点を喫したのが、きっかけだ。

「京都橘さんや阪南大さんにやられてから、やりたいフットボールをするための守備を立て直そうという話ができました。これまでもプリンスリーグ所属のチームに勝つことはあったので、たいしたことないだろうと思っていた部分があったのですが、全然違うと分かりました。多面的に影響が大きく、すごく成長できる部分が多かったです」(内野監督)

 大きく変わったのは、4-3-3の中盤3枚のバランスだ。サイドハーフで起用していた樺山をインサイドハーフの右にコンバート。ゲームメーク力のある湯谷を同左に置き、ボランチは守備に強い主将の田路を据えた。守備時には湯谷がボランチに入り、個の打開能力を持つ樺山とスピードのあるFW杉浦が2トップを組む形に変形させて、相手をカウンターアタックでけん制。相手が下がったら、本来の形でパスを回してボールを支配しながら攻める形へ戻していくという形ができあがった。長らく、ボール支配と個人技術には定評がありながら勝ち切れなかったチームが、守備のバランスを探り当てたことで成績は安定。ようやく、個性あふれるタレント集団が全国で日の目を見ることになる。

年間わずか2敗の昌平も超技巧派

昌平も須藤直輝(2年)ら技巧派アタッカーを豊富に揃えている【著者撮影】
昌平も須藤直輝(2年)ら技巧派アタッカーを豊富に揃えている【著者撮影】

 一方、昌平もその実力を高校選手権では発揮できずに苦い思いをしているだけに、大会にかける思いは強い。昨年を含め、過去にインターハイでは全国4強入りを2度経験しているが、選手権では2回戦が最高成績。興国と同じように、ボール支配では優位に立つが、決定力やカウンター対策が欠けてしまうのが、例年の課題だ。特にリーグ戦はなかなか昇格できず、ようやく2015年以来となる来季のプリンスリーグ関東復帰の権利を勝ち取った。注目度の高い選手権で勝ち上がり、その機能的なパスワークを全国に知らしめたいところ。今季は関東大会予選、インターハイ予選と大舞台へつながるところで敗れているが、なんと1年間の公式戦で敗れたのは、この2試合のみだ。

 昌平は、両サイドが少し下がる4-2-3-1が基本形。中盤の真ん中は、小柄な3人が務める。何と言っても、前に運ぶドリブルのセンスが良い。左右にパスを散らして相手を揺さぶり、タイミングよく間隙を突いて前進する。トップ下の須藤直輝(2年)は、全国大会3位となった大宮アルディージャジュニアユース(現、大宮アルディージャU15)の主力だったが、高校進学を選び、昌平の門をたたいた。個人技と機動力に優れた注目のアタッカーだ。ほかにも、J1クラブから獲得オファーを受けながら大学進学を選んだMF大和海里(3年)ら個性派が揃う。須藤や大和は昨年のインターハイ4強を経験している。

真っ向勝負の技術戦か

 サイドからドリブルとコンビネーションで打開を図る大和は「初戦から、やりがいのある組み合わせになったと思っています。昌平も興国さんも、個々でタレントと言われるような(個性の強い)選手が多い。自分のストロングポイントを見せて、勝利に導きたいです。自分が楽しんでプレーすれば、観客の方も楽しんでくれるはず」と意気込みを語った。技術戦で負ける気はない。

 もちろん、相手の興国も同じだ。後から抽選する形でこのカードを引き当てた主将の田路は「昌平さんは、僕らと少し似ているスタイルで、ボールを大事にするし、一人ひとりの技術が高い。互いに攻撃に自信を持っていると思うので、どちらがよりチームの良さを出せるかが鍵。興国のモットーであるENJOY FOOTBALLで、プレーする方も見る方も楽しめるサッカーをしたいです」と真っ向勝負の構えを示した。

両監督は「令和の狸合戦」を展開

 ともに、個々の技術と、機能的なパス回しは、間違いなく全国トップクラス。パスでかわす、ドリブルでかわす。見ていて面白いゲームになる可能性が、かなり高い。伝統校に比べるとネームヴァリューでは劣るが、高校サッカー界ではすでにどちらも高い評価を得ている。指導者も互いに相手の力を認めているが、こちらは選手とは異なり、さながら「令和の狸合戦」。11月10日に行われた抽選会では、興国の内野監督が「もう終わった。相手は、興国はどんなもんだろうと思っているやろうけど、やってみたら『なんだ、こんなもんか』と思うでしょうね」と早くも死んだふり作戦を仕掛け、それを聞いた昌平の藤島崇之監督も「そんな(油断を誘う)関西の商人みたいな手には乗りませんよ」と空中戦を展開した。おそらく、実際の試合でも、互いを巧みにかわすプレーを両チームの選手が見せてくれるだろう。全国大会の初戦は実力を発揮するのが難しい舞台だが、個々の技術、チーム戦術に定評のある両雄の好ゲームが期待される。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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