地方の育成クラブは、個性で勝負? パルティーダ鹿児島の生存戦略

多様な個人技を可能にするため、独特のダンスで身体操作力を磨く選手たち【著者撮影】

 子どもが少なくなる地方で、サッカークラブは、どうやって生き残るのか。個人技重視の指導にこだわり、小さな町から6人のJリーガーを育て上げた名士は、時代の流れを感じ取っていた。鹿児島県の西端、人口約2万人の阿久根市に拠点を置くAFCパルティーダ鹿児島の代表を務める筒悦郎監督は「うちは、まだ良い。阿久根に、これだけの人数の子どもたちが集まって来ていることが、奇跡。でも、周りはどんどん選手が減っている。周りの指導者たちにも『今後のことをちゃんと考えないと、みんな潰れてしまうぞ』と話している。5年後には、僕も辞めなければいけない状況になっているかもしれないなと考えますよ」と冗談とも本気とも取れない表情で話した。

6人のJリーガーを輩出した独自の育成法

 筒監督が率いるパルティーダは、技術指導に定評がある。赤崎秀平(名古屋)や中野嘉大(札幌)、中原秀人、中原優生の兄弟(ともに鹿児島)ら6人のJリーガーを育てて来た。ユニバーシアード日本女子代表の東菜月(徳山大学)も出身選手だ。特に身体操作能力を磨くトレーニングは、クラブの特徴となっている。練習や試合の前に行うウォーミングアップでは、ラテン系の曲をかけて、腕や脚をぐにゃぐにゃと動かすダンスを行う。足下にボールを置き、複雑な身体操作でフェイントをかけて、相手をかわすテクニックの基礎となるものだ。根底には、身体能力の差があっても、技術力で勝つという考え方がある。身体を大きく動かすフェイントで相手をしっかりと動かして、逆を突く。

 ウォーミングアップのダンスをよく見ると、肩甲骨周りや股関節の可動域、柔軟性を高める動きが多く採り入れられていることが分かる。筒監督は「アップで軽めにやっていれば、たいしたことはない。でも、トレーニングとして、一つひとつの動きにしっかりと力を入れて行うと、あのダンスだけでも息が上がる」と説明した。数年おきに、曲やパターンを変えているというダンスによって、上半身、下半身を自在に動かせるようになると、球際での多彩なフェイントや競り合った際のバランス調整が可能になる。佐賀東高校や聖和学園高校に進んだOBが、奇妙な身体の動きで相手を抜き去るプレーを見せるのも納得できる。他競技の動きからヒントを得て採り入れるようになったダンスで習得した四肢の使い方が、鹿児島きってのドリブル軍団のベースにある。

小さな町で個人技を磨きあげているAFCパルティーダ鹿児島【著者撮影】
小さな町で個人技を磨きあげているAFCパルティーダ鹿児島【著者撮影】

 ただ、課題もある。指導が偏るため、勝ち切れないのだ。個人技で相手にボールを渡さず、翻ろうする攻撃を仕掛けても、カウンターやセットプレーで「一発」を受けて負けることは、珍しくない。筒監督は「今年の新人戦は、シュート数18対1。PK1本で負けた(笑)。うちのスタイルは、(個人技で)遊び過ぎなのだろうとは思う。個人技で勝負しろと言っているけど『そこはシュートを打てよ……』と心の中で思うこともある。でも、我慢。『センターバックがしっかりとボールをキープして相手の逆を突いてパスを出せて良いですね』とほかの指導者から言われたことがあるけど、それは、下級生のときに何回もミスをして失点をして、それでも『ボールを持つな、パスを出せ』と言わずに我慢してきた結果。だから、方針は変えない。小・中学生のうちは、勝つための駒のように使いたくない」とこだわりを貫いている。そして、こだわりを持つことは、このクラブの生存戦略にもなっている。

地方クラブを直撃する少子化

 パルティーダのように面白い特徴を持つクラブでも、地方ではチーム運営の問題を考えずにはいられない現状がある。

「毎年、2、3月の時期は、新入生が来ないんじゃないかという話になる。こんな田舎のチームに(中学生世代の3学年で)50人近い選手が来てくれている。今までも奇跡だと思っていたけど、今では本当に奇跡だと強く感じる。おそらく『あのクラブに行けば上手くなる』と思ってもらえているから。うちは、阿久根市や隣の川内市だけでなくほかの地域からも子どもが来てくれている。でも、ほかのクラブは、どんどん子どもが減って、活動できなくなっている。自分たちがそうならないために、何が必要か。結果なのか、育成実績なのか……。みんな、今から考えておかないといけない」(筒監督)

 少子化問題は、地方のクラブを直撃している。小・中学生を対象としたチームの多くは、選手の家庭から受け取る月謝が運営資金の基盤となっているが、それだけで複数の指導者の生活を支えることは、難しい。選手が減る地方のクラブは、確保できる指導者の数も減る。2011年以降、育成年代には通年リーグが導入されるようになり、学年別のリーグが行われたり、1つのクラブから複数のチームを大会にエントリーできるようになったりしているが、人数不足のチームでは、公式戦など定められた日に複数の指導者を用意するだけでも負担となる。選手数がもっと減ると、1学年でチームが組めなくなる。6年生主体の試合で特別に能力が高いわけでもない3年生や4年生を含むチームが機能することは考えにくい。体格差による危険を伴うだけで、拮抗したゲームを経験できなくなると、公式戦のメリットはなくなってしまう。

淘汰が進む地方クラブ、子どもたちの活動の場は?

子どもが少ない地方では、チーム運営が難しい【著者撮影】
子どもが少ない地方では、チーム運営が難しい【著者撮影】

 子どもが集まるのは、勝てるチームか、環境が恵まれているチームだ。地方は、成績を残しにくくなる上、選手の減少とチームの減少により、子どもたちは練習場に通うこと自体も負担となっていく。チーム存亡の話だけなら自然淘汰と見ることもできるが、チームの減少は、地方の子どもにとって地元でサッカーをする場がなくなっていくことを意味する。高校では、合同チームなどの形が生まれてきているが、クラブチームも変容を強いられ始めており、小学生も合同チームを組む時代になりつつある。2008年までU-12世代のジュニアチームも運営していた筒監督は「ジュニアも地方の人数は深刻になってきている。一番簡単なのは、クラブの支部として、平日はスクール活動にすること。練習自体は、チーム活動時と変わらない。ただ、公式戦に出るのを選抜チームに限れば、ほかの子を同じ日に試合に出す必要がなくなり、指導者が少なくても対応できる。選手にとっても、適した条件で練習試合を組んだ方が良い」と話した。

 徹底的に勝つか、抜群の環境を用意するか、ほかにはないこだわりの指導を行うか。チームかスクールか。何人ものJリーガーを育てたチームまで含めて、地方のチームは、生きる道を問われている。筒監督は、教え子たちの練習を見ながら「勝たないと、子どもはストレスが溜まると思う。でも、この(個人技勝負を挑む)サッカーで勝ちたい。なんか、もうちょっと面白いことやりたいな」と言って笑った。生き残りを迫られる中、独自色を打ち出す街クラブは、徹底的に磨く個人技で時代の流れに立ち向かおうとしている。