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海の向こうで感じること アルビレックス新潟シンガポール選手鼎談(後編)

平野貴也スポーツライター
アルビレックス新潟シンガポールの主力として活躍している(左から)星野、森永、室伏

 日本でトップクラスの高校、大学でライバルとして戦い続けてきた3選手が今季、異国の日本人チームであるアルビレックス新潟シンガポールでプレーしている。主将の室伏航(市立船橋高、順天堂大出身)、副主将の森永卓(流経大柏高、流経大出身)、そして得点ランクのトップを走る星野秀平(流経大柏高、流経大出身)だ。近年は若くして海外に挑戦する若者が多いが、一例である彼らはなぜ、海を渡ったのか。日本とは異なる環境をどう感じているのか。シンガポールで話を聞いた(取材日:8月16日)。

(※鼎談の内容は前編、後編に分けて掲載)

――海外で生活するようになって、個人的に変化したところは?

室伏  チームには日本人も多いですし、日本と変わらないですね。ショッピングモールもスーパーマーケットも近くにありますし、交通機関も便利で、苦労しません。僕は、サッカー以外では、とにかく英語を話すようにしています。午前の練習が終わったら、帰って寝て、起きたらとにかく英語の勉強。まだまだ足りないですし、日本人のチームに入るのではなく、1人で海外に出た方が上達のスピードは速かったかもしれないですけど、来る前に比べれば、確実に上達しています。午前中にサッカーの練習を終えたら、あとはずっと英会話の勉強をしています。

森永  プレーの部分で、大学の時よりも点を取る姿勢を出せているかなと思います。シンガポールのリーグでは、いくら良いパスを出そうが、良い守備をしようが、得点という結果しか見られないと思うからです。大学生の頃は、ジャーメイン良(仙台)や渡辺新太(新潟)が毎試合点を取るような選手で、自分は一歩引いて見ているようなところがありました。でも、今は点を取らなければ……と考えるときに「あいつらは、こんな風に考えていたのかな」と感じる部分があります。

星野  僕は、何も変わらないですね。肌が日焼けしたくらいかな(笑)。

――海外に出て、日本やJリーグに対する見方が変わった部分はありますか

個人の結果が求められるリーグでプレー意識が変わったと話した森永【著者撮影】
個人の結果が求められるリーグでプレー意識が変わったと話した森永【著者撮影】

森永  日本は、ラフプレーが少ないです。シンガポールでは、ガツガツ削られています。でも、海外の選手はそれが当たり前の中から這い上がっているんだなと思うと、日本にいるときよりも欧州のトッププレーヤーは本当にすごいなと感じるようになりました。

星野  高校や大学のチームメイトがJリーガーになっているので話を聞きますけど、やっぱりJリーガーは良いなと思いますよ。チームトレーニング以外の環境もすごく整っているクラブが多いですよね。僕らは、自分でお金を払ってトレーニングジムを使っていますから。それに、点を取って活躍しても、Jリーガーと違って女の子にチヤホヤされることもないから羨ましいですね(笑)。

室伏  僕は、シンガポールに来てから、サッカーをすごく戦術的に見るようになりました。将来の仕事として、指導者にも興味があるので。戸田和幸さんの解説動画とかはすごいし、監督の吉永さんがすごく話しやすい方なので、一緒に戦術の話もします。だから、海外に来てからJリーグを見るようになりました。イニエスタ(神戸)もJリーグに来ましたしね。

――最近は、高卒の段階で海外に出ていく選手も増えていますが、どう思いますか

シンガポールプレミアリーグで得点ランク首位に立つ星野。安易な海外でのプロ契約は勧めないという【著者撮影】
シンガポールプレミアリーグで得点ランク首位に立つ星野。安易な海外でのプロ契約は勧めないという【著者撮影】

星野  ただ「プロ契約してほしい」という気持ちだけで、高卒で海外に出るのは、僕は勧めません。セカンドキャリアは考えないといけませんし、良い条件で良いリーグに契約してもらえるのでなければ、日本で大学に進む方がよほど良いと思います。若いと経験が少ない面が目立ってしまって試合に出られないことも多いですし。

室伏  僕は、選手自身が将来像を描けていれば、良いと思います。話が来たときに、やっていける自信があるなら「行かない後悔」より「行った先の後悔」が良いかなとも思うので。「行っておけば良かった」と思うよりは、その方が良い。よく考えていくなら個人の自由だと思います。

――最後に、それぞれの今後の抱負を聞かせて下さい。まだリーグ戦が数試合残っていて、カップ戦もありますが、3人とも1年しか在籍できませんよね。翌年以降については、どのように考えていますか

室伏  僕はサッカーを続けることを前提に考えています。今も、向上心は失っていません。今は海外に出ていくためのツールとしてサッカーを使えるのは、魅力だなと感じています。元々の目標にしていた米国に行きたいですけど、英語圏のほかの国も候補に入れて考えたいです。オーストラリアも考えましたけど、向こうだとプロ契約ではなくて、セミプロ契約になってしまうようだったので、できれば、プロで生活できる国が良いですね。正直、日本でプレーするイメージは持っていなくて、海外で言語や文化を学んで、自分の幅を広げたいです。

森永  自分も海外、英語圏内を考えています。サッカーを通してやるのが一番良いですけど、それができるとは限りません。それでも、海外で生活を続けたいと思っています。高校生になるときに北九州から関東に出て、自分がいた町があんなに小さい町だとは知らなかったという驚きがありました。今回も、海外に出て初めて感じることがありました。そういう刺激がもっとほしいです。だから、何も分からないところに1人で行ってみたい気もしています。

星野  自分は、正直に言って、何も考えていません(笑)。今に生きているという感じです。Jリーグのクラブでプレーしたいという気持ちはありますけど、日本にこだわらず、プロ選手として年棒提示の良いところを選ぶと思います。もっとお金を稼ぎたいという気持ちもありますから。それに、評価されるところでプレーするのは良いなと感じている部分もあります。自分は高校も大学も控えにいることが多かったので、今季は1年を通して主力としてプレーすることができて、充実感がすごくあります。だから、海外でも、試合に出られて条件の良いところが良いと素直に思っています。

(了)

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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