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海の向こうで感じること アルビレックス新潟シンガポール選手鼎談(前編)

平野貴也スポーツライター
アルビレックス新潟シンガポールの主力として活躍している(左から)森永、室伏、星野

 日本でトップクラスの高校、大学でライバルとして戦い続けてきた3選手が今季、異国の日本人チームであるアルビレックス新潟シンガポールでプレーしている。主将の室伏航(市立船橋高、順天堂大出身)、副主将の森永卓(流経大柏高、流経大出身)、そして得点ランクのトップを走る星野秀平(流経大柏高、流経大出身)だ。近年は若くして海外に挑戦する若者が多いが、一例である彼らはなぜ、海を渡ったのか。日本とは異なる環境をどう感じているのか。シンガポールで話を聞いた(取材日:8月16日)。

(※鼎談の内容は前編、後編に分けて掲載)

――時間が経ってしまいましたが、優勝おめでとうございます(7月中旬、第18節終了時に無敗で優勝が確定)。3月末にシーズンが始まって約4カ月半が経ちましたが、感触はいかがですか

室伏  ありがとうございます。主将として、開幕前のカンファレンスなどに出席して色々と聞かれました。今季からレギュレーションが変わって23歳以下の編成になった(※1)ので「今年は、それほど強くないだろう」という感じのことを言われていましたけど、内心では自信があったので、今のところは無敗で進められていますし、優勝も決められたので良かったです。

※1 リーグ全体で若手の起用を促すため、今季から23歳以下の選手を6名以上、30歳以下は6名以内とするルールが適用。外国人チームであるアルビレックス新潟シンガポールは、21歳以下が50%、23歳以下が50%、オーバーエイジは1枠という編成が義務化された。

――素晴らしい成績ですが、映像や結果を見る限り、日本よりトップリーグのレベルが低いように感じる部分もあります

シンガポールプレミアリーグ第21節、相手からファウルを受ける星野【著者撮影】
シンガポールプレミアリーグ第21節、相手からファウルを受ける星野【著者撮影】

室伏  どこと比べるか、ですよね。J1やJ2と比べたら、正直に言ってかなり低いと思います。関東大学1部リーグよりも低いんじゃないでしょうか。ただ、日本にはない難しさはありますよ。

星野  開幕前の練習試合では8-0とか大勝が多くて、たいしたことないなと思った部分もありましたけど、コンタクトプレーはかなりハード。ファウルを受けることも多く、そういう部分で海外だなと感じるところはあります。周囲の雰囲気も違いますね。コンタクトプレーで相手が倒れたら、すぐにファウルの判定になるのも難しいです。PKを取られる回数も結構多い。ヨウさん(GK野澤洋輔)が結構止めてくれるので、心強いですけど。

室伏  開幕前は「すごく間延びして、スペースが空いているリーグ」と聞いていましたけど、欧州の監督が率いていて、戦術的にやって来るチームもあります。90分続くかというとそうでもない気がしますが、来る前に思っていたよりは、リーグのレベルは高いなと感じます。全勝でいけると思っていたけど、2試合引き分けましたし、そこまで簡単ではないですね。

森永  開幕前の練習試合とは違って、実際に蓋を開けてみると、そこまで自由にはやらせてくれない印象です。ただ、慣れてきて、やり方は分かってきました。

――ところで、あらためて聞きたいのは、シンガポールを進路に選んだ理由です。室伏選手は順天堂大時代に「J2よりは、海外に行きたい」と言っていましたよね?

海外志向が強かった室伏(中央)は、米国でのプレーを目標にしている【著者撮影】
海外志向が強かった室伏(中央)は、米国でのプレーを目標にしている【著者撮影】

室伏  海外でプレーしたいという思いは、高校生の頃から持っていましたが、当時はプレーレベルの高い欧州をイメージしていました。でも、順天堂大で吉村雅文先生に出会ってから「人生はサッカーだけじゃない」という部分をすごく考えさせられました。特にケガが多かったので、考える時間が長かったです。それで、米国でプレーして、英語やビジネスを学んで人としての幅を広げたいと思うようになりました。ただ、米国のセレクションの時期が負傷明けでコンディションが上がっていなくて、不安でした。それで、先に話をいただいたアルビレックス新潟シンガポールにお世話になることにしました。監督の吉永一明さんの(山梨学院附属高校時代の)教え子の毛利駿也(現:金沢)が、大学のチームメイトだったので、そういうつながりもあって話をいただきました。

森永  流経大は、ギリギリまで次のチームを探す選手が多くて、そういう選手はいつでもセレクションや練習参加に行けるように、寮に残って体を動かしておくようにと言われていましたが、自分は、インカレ(大学サッカーのシーズン最後に行われる全日本大学選手権)が終わった段階でJリーグから話がなくて、サッカーを辞めようと思っていました。だから、寮を出て、都内で運送会社のアルバイトをしていました。年末に大平正軌コーチから電話で「どうするんだ」と聞かれて「とりあえず、留学みたいな感じで海外に出てみたいと思っているけど、特に伝手はないし、まだあまり考えていない」と答えたら、是永大輔社長に話をしてくれたみたいです。サッカーはもういいかなと思っていましたが、生活が保障された状態で海外に1年行けるのは、今後のためにも悪くないかなと思って、何人かに相談してから決めました。ただ、アルバイトで全然、電話に出られなかったので、決まるのに時間がかかりました(笑)。

星野  自分は、国内のチームを探していたんですけど、インカレの後も話がありませんでした。そうしたら、大平さんから電話がかかって来て「海外は興味あるか」と聞かれたので「別に抵抗はないです」と答えたら、是永社長を紹介されました。ただ、感覚的に分からない部分が多かったので、シンガポールでプレーしていた佐野翼(清水桜が丘高校、順天堂大出身、現:熊本)君が選抜で一緒にプレーしたことのある選手だったので話を聞いて、1年くらいならとりあえずやってみようかと思って、ここに来ました。結果を出せば、また違うチームでやるチャンスがあるかもしれませんし。

――でも、日本には活躍が響かないという、もどかしさがあるのでは?

星野  まあ、日本の場合は「シンガポールリーグを無敗で優勝して得点王」と言われても「ああ、そうなんだ」というくらいですけど、日本よりも、近隣の国から少し関心を持たれているなと感じます。タイやインドネシア、マレーシアあたりの関係者は、見てくれているなと感じます。

森永  開幕前に、監督の吉永さんが言っていましたね。優勝しても、日本から注目はされないと。ある程度、予想通り。でも、最近はハイライトの映像を見たとか、無敗のニュースとか、たまに連絡ももらえるので、それは嬉しいですね。

後編に続く

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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