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苦境の中、世界中のファンを魅了した日本のプロゲーマー

平岩康佑eスポーツアナウンサー
日本代表PULVEREXのLejetta(左)とFtyan(右)

ノースカロライナの会場に力強い「PULVEREX(パルブレックス)」コールが鳴り響いた。会場総立ちのスタンディングオベーションだった。

この夏、もっとも世界を沸かせた日本人アスリートかもしれない。

日本代表”PULVEREX”の決して諦めない姿が、言語の壁を超えて世界中のファンの心を鷲掴みにした。

大波乱の世界大会

7月6日から4日間に渡り、APEXの世界大会『APEX LEGENDS GLOBAL SERIES CHAMPIONSHIP YEAR2』がアメリカのノースカロライナで開催された。世界各地で予選を勝ち抜いた40チームが賞金総額2億8000万円を争い戦った。日韓からは9チームが代表として出場。

世界中のおよそ20カ国から選手たちがアメリカはノースカロライナに集結。感染症対策も万全の中行われたが、毎朝医療チームが行う検査にて陽性が確認されると大会期間中は出場することが出来ない。

海外の強豪チームに始まり、日韓代表も複数チームから陽性者が出てしまい、スタメン変更などを余儀なくされた。また、チームによってはリザーブやコーチの選手も出場できないという事態になっていた。

会場のPNCアリーナはNHLのホームスタジアムでもある由緒正しいスタジアム
会場のPNCアリーナはNHLのホームスタジアムでもある由緒正しいスタジアム

絶体絶命の日本代表

日本代表のPULVEREXもそのひとつだった。5月に行われた世界大会では第3位という快挙を成し遂げた日韓屈指の強豪チームだ。しかし、大会本番前にsaku選手が検査で陽性になり、コーチがリザーブとして出場。しかし、そのコーチにも大会2日目に陽性が確認されてしまい、Ftyan(えふちゃん)選手とLejetta(れじぇった)選手の2人だけで戦わざるをえなくなった。

APEX LEGENDSは3人チームが20チーム計60人が最後の1チームになるまで戦い合うバトルロイヤルゲームだ。チームワークが勝敗に大きく影響を及ぼすため、プロプレイヤーたちは日夜ボイスチャットで連携を取りながら練習や反省会で腕を磨き続けている。

また、2対3や1対2といった人数不利なシチュエーションを逆転するのが非常に難しく、それが強豪選手だけが集まる世界大会ならなおさらだ。

同じく2人で戦っていた別チームにも取材したが「世界大会はレベルが違う。とにかく敵を見つけたら逃げるだけ、かくれんぼをしているような感覚でした」と振り返った。

泥臭く駆け回り続けた

大会2日目、PULVEREXは3日目への進出をかけた敗者復活戦に挑んでいた。ここで20チーム中の上位10チームに入らなければその時点で敗退。帰国の途につくことになる。

しかし、ここまでくると逃げ回っているだけでは勝ち上がれず、各試合で上位に入り順位ポイントを得るか、敵を撃破してキルポイントを取る必要がある。そこでPULVEREXの2人はいち早く安全なエリアに入り、そこから倒せそうな敵を見つけ、周りからの注目は浴びずに倒していくという作戦を取る。言葉にするのは簡単だが、エリア内はすべての建物に敵が潜むような密集地域になり、ひとたび攻撃を加えようものなら反撃だけでなく別のチームからも集中砲火を浴びてしまう。

それでも、PULVEREXは3人で練習してきた全てを捨て、3日目への進出だけを目指し慣れない2人で戦い続けた。

現地のファンも彼らの奮闘ぶりに心を打たれ、画面にPULVEREXが映るたびに場内からは歓声が上がった。最初は「2人でも良く頑張っている」という同情めいたものにも聞こえたが、途中からは逆境でも諦めずに戦う2人の姿に心からの声援を送っていた。

誰もが予想しない結末

迎えた最終試合、PULVEREXは同ポイントで競っていた韓国代表のFOR7を混戦の中うまく狙いさだめ、彼らが最終試合で逆転勝利する可能性を削ぎにいった。この冷静なプレイが功を奏し、日本代表PULVEREXはたった2人で3日目の進出を果たした。

10位にPULVEREXの名前が上がると会場は総立ち。ホテルで観戦していたSaku選手にも届くような歓声と拍手が会場に響き渡った。

この活躍でPULVEREXは世界中のAPEXファンのヒーローになった。

会場の外には出待ちのファンが詰めかけ、選手にはサイン待ちの列ができた。

会場の外でFtyan選手を迎える海外のファンたち
会場の外でFtyan選手を迎える海外のファンたち

年間王者を決める世界大会は初の開催だった。選手たちは1年間この4日間だけを目標に頑張ってきた。正直なところ、陽性の選手たちもオンラインでの参加など、なんとか対応を講じて欲しかった。実際に、そんな不満をSNSで展開する海外の有名選手もいた。しかし、どんな状況でも諦めないことの大切さを日本代表PULVEREXが教えてくれた。

現地キャスターのサインに応えるFtayn選手
現地キャスターのサインに応えるFtayn選手

一番悔しいのは本人たちのはずだ。結局、PULVEREXは3日目で決勝に進めず敗退したが、たった2人で世界大会の2日目を突破したのだ。saku選手を加えたフルメンバーなら世界一も十分に狙えた。

それでも戦い終わったFtyan選手は慣れない英語と最高の笑顔でファンのサインに応えていた。そんな姿は国境も言語も全て超え、世界中の人たちの心を打つのだ。

PULVEREXの3人からは今後も目が離せない。

eスポーツアナウンサー

1987年東京生まれ、朝日放送にアナウンサーとして入社しプロ野球や女子プロゴルフなどの実況を担当。2017年には高校野球の実況が評価され、ANNアナウンサー賞 優秀賞を受賞。2018年に退社し、株式会社ODYSSEYを設立。アナウンサーのマネジメント事業やコンサルティング業を展開し、自らも日本最大級のeスポーツイベントRAGEやCRカップなどで実況を担当。テレビ朝日「ReALe」レギュラー、著書に「人生の公式ルートにとらわれない生き方」

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