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100%植物性なのに食感と味がほぼ肉、プラントベースフードがどんどんおいしくなっている

畑中三応子食文化研究家/料理編集者
大豆ミートで作られた和洋中の料理。見た目も味も食感も本物の肉かと思う再現度だ(写真:アフロ)

外食チェーンにも浸透した「大豆ミート」

 このところ「プラントベースフード(plant based food)」が急増し、急速においしくなっている。肉や魚、卵や牛乳を使わず植物由来の材料で作った食品のことで、なかでも代表的な「大豆ミート」はスーパーやコンビニで普通に買えるようになった。

 外食チェーンでも、プラントベースフードをメニューに取り入れる試みが目立っている。「モスバーガー」の「グリーンバーガー〈テリヤキ〉」のパティは大豆由来の原料を使用し、「フレッシュネスバーガー」は、3月からビーフパティバーガー5種類がSOY(大豆)パティに無料で変更できるようになった。これまでプラントベースフードはやや割高だったので、うれしいサービスだ。

 定食チェーンの「やよい軒」も、豚肉を大豆ミートに置き換えたしょうが焼きなど、定食3種をこの6月から提供しはじめた。大豆ミートはセブン-イレブンで2020年11月に全国販売後、1年の売り上げが1000万本突破の大ヒット商品「豆腐バー」を開発した「アサヒコ」製。食感が肉に肉薄している。

水で戻して使うミンチタイプの大豆ミート
水で戻して使うミンチタイプの大豆ミート写真:イメージマート

空前の肉ブームから一転、野菜が主役に

 2013年前後から“空前”と呼びたいような肉ブームが続き、赤身肉や熟成肉、ジビエ、モツ類がもてはやされていた。ところが、2020年から一転。メディアがこぞって菜食関連の話題を取り上げるようになり、あれよあれよという間に肉と野菜の形勢が逆転してしまった。

 プラントベースフード普及の理由は、大きく3つある。ひとつは、温暖化を食い止めて地球を守ろうという考えの広がりである。

 牛や豚などの家畜を育てるには膨大な土地と水、飼料の穀物を必要とし、畜産はCO2とメタンを大量に排出して気候変動の大きな原因になる。そのうえ、牛肉1キロを作るためには餌として11キロの穀物が必要で、食料生産として非常に効率が悪い。それならば穀物などの植物性食品をそのまま食べるほうが効率よく、地球にやさしい。

 新型コロナウイルスの出現で地球環境への関心が高まり、動物と人間との関係が問い直されたことも影響しているだろう。また、国連のSDGs(持続可能な開発目標)が広く周知されるようになり、とくに環境や人権、動物福祉などへの関心が高いZ世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)に、持続可能性を意識してプラントベースフードを選ぶ人が増えている。一方、中高年はまず自分の健康のために、次に地球の健康のために取り入れている印象だ。

肉1キロ生産するのに必要な穀物はトウモロコシ換算で牛は11キロ、豚は6キロ、鶏は4キロ
肉1キロ生産するのに必要な穀物はトウモロコシ換算で牛は11キロ、豚は6キロ、鶏は4キロ写真:イメージマート

近い将来、世界中でたんぱく質が足りなくなる

 ふたつめが、たんぱく質不足の解決である。

 世界人口は現在の77億人から2050年には20億人増えるといわれる。少子高齢化の日本では人口減少が問題になっているが、世界は人口爆発の方向にある。近い将来、たんぱく質の不足が襲うと予想され、肉と同等の栄養価を持つプラントベースフードが求められる。

 残るひとつが、東京五輪・パラリンピックの影響だ。結果として海外から人は呼べなかったが、宗教や倫理上の理由から肉を食べない訪日客が相当数見込まれ、菜食対応の飲食店や加工食品が一気に充実した。

 菜食には肉は食べないがチーズは食べる人、魚も食べないが卵は食べる人など、いろいろな食べ方がある。もっとも厳格なのがヴィーガンだ。動物性食品を食べないだけでなく、皮革やウール、シルクなどの動物製品、動物由来の化粧品なども使用しない完全な菜食主義で、根底には「人間は動物を搾取しないで生きるべきだ」という思想がある。

東京・六本木のヴィーガンカフェで人気メニューだった黒豆バーガー(筆者撮影)
東京・六本木のヴィーガンカフェで人気メニューだった黒豆バーガー(筆者撮影)

ヴィーガンがブームになったのは名前がかわいかったから?

 ところが、日本でヴィーガンは「おしゃれでおいしいヘルシーフード」というイメージで受け入れられ、ひと頃ブームになった。これは私の持論だが、食べ物が流行するには名前が重要で、響きがかわいく、覚えやすくて口にしやすいことが条件のひとつ。ベジタリアンにはあまり興味を示したことのなかった日本人がヴィーガンを受け入れたのは、名前のとっつきやすさだったのではないだろうか。同様の完全菜食主義であるマクロビオティックが「マクロビ」と呼ばれ、浸透したのも同じ理由である。

 なお、いまはイデオロギー色の強いヴィーガンの語は使わず、プラントベースと表記するのが一般的だ。

人気シェフが監修した「エシカルバーグ」

 普及するにつれ、プラントベースフードはどんどんおいしくなっている。

 最近、あんまりおいしくて驚いたのが6月15日に発売された「エシカルバーグ シェフズプレミアム」。「エシカルフード」と群馬県の老舗こんにゃくメーカーである「茂木食品工業」が共同開発した100%植物性のハンバーグに、人気イタリアン「ブリアンツァ」グループのオーナーシェフ、奥野義幸さんが監修した2種類の植物性ソースを組み合わせた製品である。

 いちばん感動したのが、食感だ。エシカルバーグの主原料はこんにゃく、大豆、エンドウ豆だが、最初のひと噛みから咀嚼(そしゃく)し終えるまで、ほぼ肉なのである。各社のプラントベースハンバーグを数多く試食した奥野さんが「いちばん肉っぽい」と評するのもうなずける。

 たとえば、エンドウ豆たんぱく、オート麦、ジャガイモ、リンゴが原材料の「イケア」のプラントボール(植物性ミートボール)は、味はとてもよいのに食感が頼りない。エシカルバーグは、食感をとくに重視する日本の食文化を強く感じさせ、クリーミートマト、ナッツィカレー、2種のソースの完成度もとても高い。常温で長期保存ができ、値段も手ごろだ。

「エシカルバーグ シェフズプレミアム クリーミートマト」720円(税込)。豆乳でモンテしたソースは甘酸っぱくまろやか。「エシカルフード」のオンラインショップで購入できる。https://ethical-food.co.jp/(写真:ETHICAL FOOD)
「エシカルバーグ シェフズプレミアム クリーミートマト」720円(税込)。豆乳でモンテしたソースは甘酸っぱくまろやか。「エシカルフード」のオンラインショップで購入できる。https://ethical-food.co.jp/(写真:ETHICAL FOOD)

選択肢を広げ、食を豊かにしてくれる新ジャンル

 日本人の肉類の消費量は欧米の人々と比較してずっと少ないので、正直いって、肉食を減らす必要性は欧米ほど大きくないと思っている。また、プラントベースフードの原料になる大豆やエンドウ豆などのマメ類は海外からの輸入品なので、はたしてそれがエコなのかも疑問がある。

 それよりも大豆の国内自給率を向上させ、豆腐や納豆などの伝統食品をたくさん食べたほうが手っ取り早いし、カロリーベースで37%しかない食料自給率向上にも役立つ。あるいは、メタンの排出を減らす餌の開発など、畜産の環境負荷を軽減するイノベーションに日本の技術力を傾けてほしいと思う。

 ただ、プラントベースフードの流行で食べ物の選択肢が広がるのは食の豊かさにつながり、大歓迎だ。生き方や環境に対する意見表明ができることも、食べる側にとっての大きな魅力だろう。大手の食品会社だけでなく、作り手には環境への強いメッセージを持つベンチャー企業が多く、樹木が原料の洋菓子など、想像もしなかったような製品が生まれているのがおもしろい。文字通り持続可能性を感じる食品分野である。

食文化研究家/料理編集者

『シェフ・シリーズ』と『暮しの設計』(ともに中央公論社)の編集長をつとめるなど、プロ向きから超初心者向きまで約300冊の料理書を手がけ、流行食を中心に近現代の食文化を研究・執筆。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」ジャーナリズム部門大賞受賞。著書に『熱狂と欲望のヘルシーフード−「体にいいもの」にハマる日本人』(ウェッジ)、『ファッションフード、あります。−はやりの食べ物クロニクル』(ちくま文庫)、『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』『カリスマフード−肉・乳・米と日本人』(ともに春秋社)などがある。編集プロダクション「オフィスSNOW」代表。

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