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首都高速1000円上乗せで起き得る物流への影響と深夜割引初日の様子

橋本愛喜フリーライター
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

今日から東京オリンピック・パラリンピック期間中、6時~22時の首都高の利用料金が1000円上乗せになる。

首都高速道路株式会社のウェブサイトより引用
首都高速道路株式会社のウェブサイトより引用

実質「無観客」で開催されることが決まった東京オリンピック・パラリンピック。

にもかかわらず、準備期間を含んだ7月19日(月)から8月9日(月)までのオリンピック期間中と、8月24日(火)から9月5日(日)のパラリンピック期間中は、当初から予定されていた通り、6時から22時まで首都高通行料金の「1000円上乗せ」が実施されることになり、国民からは解せないとする声が多く上がっている。

NHKの報道によると、東京都はその理由をこのように説明している。

「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて公共交通機関を使わずにマイカーなどで移動する人も増えているとみられ、首都高速道路では平日の通行台数が1日およそ100万台と、コロナ前と同程度に戻っている」

「選手やスタッフなど大会関係者をスムーズに輸送するためには、現在の交通量を3割ほど減らす必要がある。1都3県では無観客での開催になるが、観客は公共交通機関を利用すると想定していたため、高速道路の交通量の推計には反映させておらず、無観客でも交通量を減らす必要があることから値上げは予定どおり行う」

参考資料:五輪無観客でも… 首都高19日から日中1000円上乗せ 対象は(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210716/k10013143071000.html

一方、深夜においては0時から4時までETCを搭載した全ての車両種の通行料金が5割引になる。

が、世間の一般的な生活リズムに鑑みると、スムーズな大会運営と引き換えに、国民への負担が生じることは必至だ。

物流車両は値上げ対象外も影響大か

こうした今回のロードプライシング(道路や時間帯によって料金を変えること)における負担や影響は、道路の混雑だけに限らない。

我々の生活に欠かせないインフラの1つである「物流」にも、かなりの影響が出ると予想される。

この首都高の「1000円上乗せ」は、物流車両は対象外とされているため、トラックドライバーたちは日中も普段と変わらない料金で首都高を利用できる。また、深夜も他車両と同じように5割引が適用される。

が、このロードプライシングによって、オリパラ期間中の道路には通常とは異なる現象が起き、それが物流に影響することが予想されるのだ。

具体例を挙げてみよう。

1.下道(一般道)への影響

今回の首都高料金上乗せによって間違いなく起きるのは、「日中の一般道における渋滞・混雑」だ。

首都高の平日の通行台数は1日約100万台。

東京都は、大会関係者をスムーズに輸送するためには交通量を3割ほど減らす必要があるとしているが、単純にその3割が下道へ流れれば、当然渋滞が発生することになる。

そんな渋滞を避けるべく、普段は下道を走っているBtoB輸送のトラックの一部は、逆に首都高へ逃げ上がる可能性もあるが、BtoC輸送を担う宅配ドライバーや地場配送のトラックは、高速利用はできない。

あるトラックドライバーは、「江東区には巨大な物流拠点があるが、その近くにもいくつかの競技会場があるので影響が心配」と話す。

大会期間中は夏休み時期の只中。先日出された4度目の緊急事態宣言下でEC利用者のさらなる増加も考えられる中、下道には関係車両向けの専用レーン・優先レーンも登場する。

さすれば、時間帯指定に追われる物流車両が混乱に巻き込まれることは必至で、ひいては消費者への配達に遅延が出る可能性も高くなる。

2.深夜の高速道路への影響

一方の首都高だが、「1000円上乗せ対象外」かつ「深夜5割引」でも、物流車両に影響が及ぶ可能性がある。

先述通り、大会期間中は深夜0時から4時まで、ETCを搭載した全車両が5割引になる。

1000円上乗せの対象外である物流車両にも適用されるため、トラックには料金的なメリットもあるのだが、やはり懸念されるのは「渋滞・混雑」だ。

荷主から朝一番に来るように指示されることが多いトラックは、普段から深夜によく高速道路を利用する。

そこに大会期間中、「5割引」の適用を目当てに一般車が首都高を多く走ることになれば、普段の深夜より交通量は必然的に増し、トラックはこれまで通りの運行ができなくなる可能性が考えられる。

もう1つ懸念されるのが、周辺の「サービスエリア・パーキングエリア(SAPA)の混雑」だ。

元々各高速道路には0時から4時まで「深夜割引」という制度がある。この時間内に1秒でも高速道路内にいれば料金が3割引になるため、普段から多くのトラックドライバーたちが主要都市近くのSAPAで「時間待ち」をしているのだが、ここに同じように時間待ちをする一般車が加われば、トラックの駐車マスが減る可能性があるのだ。

ただでさえ駐車マスが不足している大型車。クルマを停めて休まねばならないタイミングが法で決まっている中、停まる場所を失った彼らが行きつくのは、SAPAから本線へ向かう加速車線や、本線の路側帯となる。

参考過去記事:

世間が知らない「高速道路でトラックに路駐させる深夜割引の功罪」

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210413-00232002/

初日の首都高を走ってみた

深夜の通行料金が5割引になる初日の夜、実際に東名高速道路(上り)から首都高速3号線を走ってみた。

18日は日曜日ということもあり、普段より一般車が若干多く、一方の物流車両数は比較的落ち着いていた。

東京料金所手前は平日、0時の深夜割引の適用を待つトラックで一時全く動かなくなることがあるが、この日は流れが完全に止まることはなかった。

また、用賀料金所もゲートを越えると渋滞がよく発生するが、この日は若干交通量は多いものの、やはり完全停止することはなかった。

次回はオリンピックが開催した平日の高速道路と一般道の様子、さらにはトラックドライバーたちからの聞き取りなどを行いレポートしたい。

参考資料:

首都高速道路通行台数等データ(首都高速道路株式会社)

https://www.shutoko.co.jp/company/database/traficdata/

フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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