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世間が知らない「高速道路でトラックに路駐させる深夜割引の功罪」

橋本愛喜フリーライター
PAから本線に合流する加速車線で路駐するトラック(港北PA上り筆者撮影)

前回、一般道でトラックドライバーが路上駐車せざるを得ない事情を紹介した(本記事の最後にリンクあり)。

しかし、トラックが路駐しているのは、一般道だけではない。高速道路の路肩や本線に合流する加速車線などでも、長時間駐停車しているトラックをよく見る。

このトラックによる「高速路駐」は、よりによって視界の悪い深夜に多く発生するため、世間からは一般道と同じく「邪魔だ」、「サービスエリア・パーキングエリア(SAPA)に停めろ」、「こんなところに停めたら危ないことぐらい分からないのか」という厳しい声が浴びせられる。

が、深夜の高速道路の路肩にトラックを停める行為がどれほど迷惑で危険な行為なのかは、トラックドライバーたちもよく分かっている。いや、それらはむしろ、道路上で1日中過ごし、様々な事故を見聞き経験してきている彼ら自身が一番よく心得ていると言っていい。

にもかかわらず、高速道路からなくならないトラックの高速路駐。それには、ある制度の存在が深く関係している。

「深夜割引」だ。

世間が知らない「0時」からの闘い

日本の各高速道路には現在、「深夜割引」という制度がある。

適用時間は0時から4時までで、この間に高速道路を利用したETC利用車は、車両の種類に関係なく高速道路料金が3割引きになる。

無論、普通車でも同じく適用されるありがたい制度ではあるのだが、この深夜割引こそが、長距離を走るトラックドライバーの労働環境を劣悪にしている大きな原因の1つになっている。

「深夜割引こそ業界を圧迫する元凶」(40代29年目長距離)

「深夜割引さえなくなれば、トラックドライバーの労働環境も社会的地位も大きく変わるはず」(50代長距離)

世間にはあまり知られていないが、物流業界では、全ての荷主が必ずしもこの高速道路の利用料金を出してくれるわけではない。走り方や契約条件、雇用条件などによっては運送業者が負担したり、時にはトラックドライバー本人が自腹を切ることもあるのだ。

そんな彼らにとって、この「3割引」が大きいことは想像に難くない。

例えば青森県青森ICから山口県山口ICまでの大型車の通常高速料金は、片道52,300円。これが深夜割引を適用させると36,610円になり、1万5,000円以上浮くことになる。

車両の所有台数が多い運送企業になると、この深夜割引で月に数百万円浮かせているところも多い。歩合制で働くトラックドライバーの場合は、高速代の負担が月に数十万円にのぼる人もいるため、やはりこの深夜割引は欠かせない制度といえる。

が、こうした時間に制限のある割引制度によって、高速道路の主要な料金所手前では、毎晩ある現象が起こっている。

 

これは、日をまたぐ瞬間の東京料金所(東名高速道路上り)の光景だ。

深夜割引の適用時間は、先述通り0時から4時。

が、この割引を適用させるには、その間ずっと高速道路内にいなければならないわけではなく、たった1秒でも高速道路内にいればいいため、主要な料金所の前には毎晩0時直前になると、こうして時報とともにゲートを出ようとする「0時待ち」のトラックの大群ができるのだ。

トラックが上記の映像のように、0時を過ぎたとたんに高速道路を出たがるのには理由がある。

日をまたいで働く長距離トラックドライバーには、「翌日の仕事までに連続8時間以上の休息を取らねばならない」という労基法上のルールがあるのだが、その一方、荷主が翌朝指定してくる搬入時間は大概「朝イチ」で、午前8時前後が多い。

そのため、例えば午前8時30分に荷主から搬入指定があった場合、最低でも8時間前の0時30分には荷主周辺でトラックを停めて休憩に入らねばならないことになるのだ。

深夜割引がもたらすトラックの「高速路駐」

大型の駐車マスに停められず車道に溢れるトラック(海老名SA上り23時ごろ筆者撮影)
大型の駐車マスに停められず車道に溢れるトラック(海老名SA上り23時ごろ筆者撮影)

「0時待ち」が引き起こすのは、この料金所前の大群だけではない。料金所付近のSAPAにも、ある深刻な現象をもたらす。

大型車マスの不足」である。

主要な料金所手前にあるSAPAの大型車駐車スペースは、この0時待ちをすべくやって来たトラックで20時を過ぎたころから徐々に混み始め、23時には小型車の駐車マスに停めねばならないほど満車状態になる。

以前、今年1月に出された緊急事態宣言によって飲食店が「一律時短」となった際、SAPAの飲食店もが20時で閉まり、トラックドライバーが食堂難民になっている実態を紹介したが(本記事の最後にリンクあり)、20時以降にトラックドライバーが最もSAPAを利用する要因の1つは、この深夜割引による「時間待ち」にあるというわけだ。

深夜割引の存在に加え、既述の「荷主による『朝イチ』指定」も重なり、多くのトラックは同じ時間軸で動く。

そのため、満車のSAPAに停められずに行き場を失った一部のトラックが、結果的に本線への加速車線や料金所手前で0時待ちをするようになってしまうのである。

大型車両が停められる駐車スペースを拡張しようとNEXCOも対策はしているものの、工事で増設できているマスはごくわずか。大きな改善には繋がっておらず、現在においても「高速路駐」のトラックは後を絶たない。

「合流車線などへの駐停車が違法なのは分かりますが、そうでもしないと停められない現状がある」(20年大型中距離)

「高速代が自腹なので乗らないが、一度だけ深夜割引を適用して福岡から八代まで乗ったらSAPAはどこもトラックで満車。結局休憩なしで睡魔と便意を我慢。きつかった」(2年目近距離大型)

NEXCOから届いた路駐に対する注意文書(読者提供)
NEXCOから届いた路駐に対する注意文書(読者提供)

トラックドライバーとて、好きであんな危険な場所に停まっているわけではない。深夜割引なんて無視して通過してしまいたい。が、年々安くなっていく運賃を考えると、やはり0時前に料金所を通るわけにはいかないのだ。

こう訴えると、世間からは「そんなところで路駐するくらいなら、わざわざお金まで払って高速道路なんて使わなければいい」という心無い声が上がるのだが、実際に高速代を浮かせるべく、数百キロの道のりでも下道(一般道)を走るトラックドライバーは昔から存在している。

しかし彼らには、先の「8時間休息」だけでなく、「1日の労働時間は原則13時間以内で、延長は16時間まで。ただし、15時間を超えていいのは週に2日以内」と、他業種以上に労働時間が細かく決められているため、下道利用はその法定時間内に帰れなくなる恐れが高い。

また、下道を走ると、発進と停車の繰り返しが増えることで燃費が悪くなり、高速代が浮いても燃料代がかさんでしまうという事情も。この燃料代もドライバー負担というケースも少なくないのだ。

何より、一般道での騒音や路駐の増加、人身事故も増えることを考えれば、トラックに下道を走らせて最も困るのは「世間」なのである。

割引待ちの駐車禁止を促す横断幕(筆者撮影)
割引待ちの駐車禁止を促す横断幕(筆者撮影)

「国」「道路」「荷主」「運送」の不一致

実は、こうした「下道の道路環境」の改善策として、ドライバーに高速利用を促すべく作られたのが、他でもないこの「深夜割引」なのだ。国交省によると、一定の効果は出ているという。

しかしその弊害として、この深夜割引も下道利用時と同様、トラックドライバーに対する「長時間拘束」と、「過酷な走行」を生み出す原因になっている。

その元凶は、「0時~4時」という適用時間だ。

この中途半端な時間制限があるせいで、多くの長距離トラックドライバーたちが、出勤・出庫時間を「深夜割引が使え、翌日の業務までの8時間休息が取れ、かつ荷主が指定した搬入時刻に間に合う時間」から逆算。

結果、「長い待機時間」と「タイトな走行スケジュール」が同時に生み出されるのだ。

「深夜割引を適用させるための待機時間があるので、結局は法律で決められてる拘束時間内に業務を終えるのが難しい日もありますね」(25年目大阪府大型長距離)

「この深夜割引の時間制限がなければ、日付が変わるのを待つこともなく高速を降りられて、8時間休息だって守れるのに。0時までは暇、0時からは時間との闘いとか、毎度『さっきまでの時間返せ』です」(20代関西地方4トン長距離)

さらに帰庫(帰社)時も、自社はすぐ目の前であるにもかかわらず、深夜割引を適用させたうえで高速を降りることで、高速道路内で数時間待機せねばならなくなる。

「自社は目前。0時待ちしなければすぐ帰庫して家に帰れるのに、目前で強制待機。これホント切ないです」(20年目40代大型)

そんな深夜割引の弊害が生じるのは、長距離トラックドライバーだけではない。

早朝に出勤・出庫する地場配送のトラックも、深夜割引適用時間の4時までに高速道路に入るべく、やはり早めに出社・出庫せねばならなくなる。

「高速利用で地場配送をしていますが、5時に出発すれば間に合うのに『4時前に高速に乗れ!』と指示がある。仕方なく早く出発して途中のPAで時間調整。本末転倒です」(30年目関東地方大型車)

このように現場に多くのしわ寄せが集まっている最大の原因は、「国」、「道路」、「荷主」、「運送」の方向性の不一致にある。

現場を走るトラックドライバーたちの願いは、「深夜割引」ではなく営業ナンバーの車両に対する「終日割引」の導入で、もしそれができぬのならば、せめて適用時間を見直してほしいということだ。

「仕事で走っている車は割引の時間帯なんか無くせばいいと心から思っています」(40代29年目長距離)

「時間よりも営業ナンバー車両そのものに対する割引が望まれます」(30年目関東地方大型車)

「せめて22時からの適用を。そうすれば、22時にインターで降りる→0時迄に納品先又は近くの待機可能場所へ移動→8時間連続休息→朝イチ納品が可能」(40代大型長距離歴20年)

SAの入り口に列を成して駐車するトラック(筆者撮影)
SAの入り口に列を成して駐車するトラック(筆者撮影)

「深夜割引見直し」に必要なこと

こうした現場の声を基に、筆者はこれまで国やNEXCOへ深夜割引の撤廃・見直しを訴えてきたが、先月10日に行われた国土幹線道路部会有識者会議で、ついにこの深夜割引に対して「トラックにとって不経済」「見直すべき」との言及があった。

現場を走るトラックドライバーにとっては大きな一歩だ。

ただ、同時期に、首都高においては深夜割引を新たに設けるという真逆の方針が発表されたり、出された方針案がまだ乏しく、「ドライバーの労働環境という根本的問題までは解決されないのでは」という懸念もあるため、今後は国、道路、荷主、運送業界がより深い議論をしていく必要がある。

いずれにしても、トラックがここまで深夜割引に振り回される背景には、荷主から支払われる「運賃の安さ」があることは確かだ。

高速での路駐が周りの迷惑になっているのは間違いない。が、我々消費者が「送料無料」という言葉に踊らされている限り、彼らにはこうした割引制度にすがらねばならない現状があるということは、是非知っておいてほしい。

<参考資料>

第49回国土幹線道路部会 【資料3】全国料金について(p.15~)

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390309.pdf

<関連記事>

世間が知らない「トラックが路上駐車をする理由」

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210309-00226455/

トラックドライバーの「SAPA飲食店を開けてくれ」に「コンビニ利用」を促す国交相のズレ感

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210201-00220140/

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フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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