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『最高の離婚』も韓国で、ヒットするドラマリメイクの条件

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
KOCCAのファン・ソンヘ氏(写真左)とフジテレビの久保田哲史氏

7月クールで放送中の『グッド・ドクター』は韓国ドラマのリメイク作品だ。ここのところ韓国ドラマがリメイクされることが多い。一方で『最高の離婚』韓国版がこの10月から韓国でスタートするなど、日本のドラマが韓国でリメイクされるケースも目立つ。なぜ両国においてリメイク作品が求められているのだろうか。業界動向に詳しい韓国コンテンツ振興院(KOCCA)日本ビジネスセンター長のファン・ソンヘ氏と、これまで多くの海外展開を手掛けているフジテレビ総合事業局コンテンツ事業室部長職の久保田哲史氏のお二人に話を伺わせてもらうと、リメイク化には条件があることがわかった。

『冬ソナ』と『ロンバケ』のリメイクはあり得ない?!

放送中の『グッド・ドクター』をはじめ、これまでも『シグナル』や『ごめん、愛してる』『ミセン』(日本語版タイトル『HOPE』)『魔王』といった韓国ドラマをオリジナルにしたリメイク作品が日本で増えています。オリジナルと日本版を比較して、どのようにご覧になっていますか?

ファン・ソンヘ:オリジナルを活かしながら、日本でしっかりローカライズされた作品が増えているように感じます。なかでも『シグナル』のリメイクはクオリティの高さを感じました。日本らしいオリジナリティも感じて文句のつけどころがなかったです。

久保田:リメイクするにあたって、ローカライズは決して簡単な作業ではありませんが、日本は医療や刑事ドラマの数が多く、制作ノウハウを熟知しています。だから、リメイク作品についてもオリジナルのアイデアを活かしながら、日本の持ち味に当て込むことができたのではないかと分析しています。

リメイクに関しては、どのようなジャンルやテーマが成功しやすいのでしょうか?

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ファン・ソンヘ:人間の普遍性を描いたドラマは成功しやすいと思います。『グッド・ドクター』は日本だけでなく、アメリカ、台湾などでもリメイクされ、ヒットしています。また放送のタイミングにも左右されます。例えば、『ミセン』が韓国で放送された時は若者の失業率が高く、経済的な背景から韓国のまさに今を捉えたストーリーでした。けれども、リメイクされた当時の日本は新入社員の就職率が上がっている時期でしたから、悩みを共感しにくかったのかもしれません。視聴者が当事者意識を持てるか、そうでないかで結果が異なりそうです。

久保田:リメイク作品はどうしても時間的なズレが生じます。オリジナルが良い作品であっても、リメイクで絶対的に当たる法則はないのが現実です。ひとつ言えることは大ヒットしたドラマはリメイクに向かない。『冬ソナ』のリメイクは誰も考えませんよね。『ロンバケ』もリメイクしにくいでしょう。木村拓哉さんと山口智子さんはアジア中で注目され、お二人が主役であるイメージが強い。オリジナルの威力が高すぎる場合は難しそうです。

企画段階からアメリカでリメイクを進めていた『グッド・ドクター』

『リッチマン、プアウーマン』『空から降る一億の星』に続いて、今年の10月から韓国でリメイクされた『最高の離婚』が始まります。フジテレビのドラマがなぜ今、韓国で立て続けにリメイクされているのでしょうか?

久保田:今年だけでフジテレビの4本のドラマが韓国でリメイクされています。今、韓国では韓国オリジナルの恋愛ドラマの企画数が少なくなっていることから、フジテレビが得意とする恋愛ドラマのラインナップに魅力を感じてもらったことがひとつの理由としてありそうです。またそれだけでなく、これまで海外でリメイクセールスを成立するために踏んでいたプロセスを無くしたことも大きいです。第一段階にあったライツ販売者同士の商談をカットとして、制作者同士ではじめからリメイク化を探ることを始めています。それがドラマの制作経験のある自分の役割であると考え、各国でリメイクを含めた海外展開を進めているところです。

ファン・ソンヘ:韓国でも以前は、リメイクビジネスはライツを管理する部署がはじめにオリジナルのライツを売り、その後にリメイクを進めるパターンが一般的でした。でも、それでは遅いということで、なるべく早い段階からリメイク化を探る動きも活発化しています。『グッド・ドクター』はまさにそんな作品。我々が主催する「2018 K-Story & Webtoon」では「大韓民国ストーリー応募大賞」というものがあり、優れたストーリーを募集し、大賞コンテンツには1億ウォン(約1000万円)の賞金が贈られます。それに選ばれた『グッド・ドクター』については海外展開の実現もサポートし、制作段階から韓国でのドラマ化やアメリカでのリメイク化が進められました。

久保田:決定権のある他国のプロデューサーにしっかり企画情報が届くように進められていることに関心を持ちます。

韓国のコンテンツ振興を推進するKOCCAはどのような立場にあるのでしょうか?

ファン・ソンヘ:KOCCAはコンテンツ産業を支えていくことが目的にあります。今、力を入れているのはウェブトゥーン(ウェブ漫画)の作品です。スマホ時代に合わせて、スマホで楽しめるストーリーを育てたいからです。ドラマ『ミセン』もウェブトゥーンから生まれました。ウェブトゥーン作品は過激な設定もあり、あり得ない世界も描かれています。だからこそ、クリエイターの創造力を掻き立てることができます。それをもとにドラマ化に合わせて作れるものを作っていく方がいろいろなアイデアが生まれ、ストーリー産業が成長していくと考えています。

久保田:日本は民間の資金力があるケースも多く、国の関わり方に韓国との違いがあるようにみえます。規模も資金力もある制作会社や放送局もKOCCAの支援を受けているのですか?

ファン・ソンヘ:規模の大小に関わらず、支援する目的や効果を明確にすることが大事です。支援形態もさまざまです。制作費の一部分を補ったり、クリエイター人材育成のプログラムを実行したり。特に海外展開においては渡航費や宿泊費、マッチングの機会も作り出します。結果的に、韓国の文化が広まることに注力し、期待しています。

日本は権利産業、韓国は文化産業、イギリスは創造産業

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韓国のケースと比べると、国の関わり方だけでなく、リメイクも含めたテレビドラマの海外展開そのものの考え方にも違いがありそうです。

久保田:日本の場合、映画やアニメは利益を生んでいくことに終始できる仕組みがベースとしてありますが、テレビドラマはテレビ局が保有する権利を守り、視聴率を獲ることが最優先されます。時代の変化に伴って、利益の最大化が同義語になりつつありますが、マネタイズしていくことよりも、権利を守っていくことに重きを置いているのが現状の日本のテレビドラマのビジネスモデルです。

ファン・ソンヘ:日本は著作権産業、韓国は文化産業、イギリスは創造産業として発展してきました。イギリスはクリエイターの立場が強いことは創造産業の考え方があるからでしょうね。日本は著作権を最大限に守り、韓国は文化を伝えていくやり方です。ようやくこの20年で「韓流」や「K-POP」がアジア中心に広まり、韓国は次の段階にも進もうとしています。権利産業に近づけていくために、IPビジネスの認識を深めていくことが必要だと思っています。

久保田:マンガなど原作が豊富な日本はIP天国です。一方でガラパゴスと言われ、日本のIPビジネスは独特の進化を遂げてきました。国際化されていくなかで日本の独自性を守りながら、海外と向き合うことが日本の課題にあると思います。

守るべきものと柔軟に変化すべきことを両立させていくことが今後の日本のテレビドラマの海外展開の発展に繋がりそうですね。

久保田:『カメラを止めるな!』のような作品が生まれた日本の映画界は捨てたものじゃない。テレビはまだテレビドラマから『カメラを止めるな!』のような作品が生まれてくる環境に今はまだないと思いますが、日本のドラマがオープンに広がっていくことで変わる余地はあるのかもしれません。日本のドラマが海外でリメイクされたり、セールスされたり、共同制作することによって、制作者のマインドそのものが変わっていく可能性はあるでしょう。国家戦略よりも経験によってマインドは変わるものです。日本の視聴者も相対的には国内コンテンツを好む傾向にありますが、動画配信サービスの普及などで番組流通が活発化していることで変化が起こるかもしれません。日本も韓国もそれぞれのやり方で産業発展しながら、それがアジアの発展に繋がっていくことを目指したいです。

ファン・ソンヘ:「メイドイン(made in)」よりも「メイドバイ(made by)」。誰が何を語るのかということが何よりも大事なことだと思います。日本でリメイクされたドラマもある意味ではオリジナルです。コンテンツ産業に必要なことは作品が生まれ、展開していくことだと思います。

ドラマのリメイク化が進められている理由を探ると、ヒットの条件は変化していることがわかった。企画段階から展開を考えることにシフトしつつある。成功体験が作られていくことによって、また新たな変化も起こりそうだ。

【ファン・ソンヘ氏略歴】

1997年から韓国放送公社(KBS)で情報番組を多数制作し、2002年に来日。2005年ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社入社、CSチャンネル編成、制作、購入など、全般的な日・韓コンテンツビジネスに携わる。これまで2006年一橋大学大学院社会学研究科で修士取得、2016年慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程単位取得退学。2018年4月から韓国コンテンツ振興院日本ビジネスセンター・センター長に就任、現在に至る。

【久保田哲史氏略歴】

1995年フジテレビジョン入社。ドラマ制作センター所属時には「東京タワー」「離婚弁護士」「医龍」などの演出を担当。2012年からはフジテレビの海外番販・ドラマリメイク権販売・海外との共同制作を担当する。韓国版「空から降る一億の星」のエグゼクティブプロデューサー、韓国版「リッチマン、プアウーマン」「最高の離婚」のフライングプロデューサー、中国版「デート」や「プロポーズ大作戦」のプロデューサー、日本版リメイク「ミセン」「グッド・ドクター」「スーツ」の海外窓口担当など。

*写真は全て筆者撮影。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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