テレビを見ない世代が見たい世界のドキュメンタリー企画があった~Tokyo Docs2017レポート

世界のドキュメンタリー関係者がTokyo Docs に参加(写真は全て筆者撮影)

人気女優や俳優、芸人など一切登場しない、地味なドキュメンタリーを求める中国に、バイオレンス、セックス、先端医療の話題を求めるネット勢。ドキュメンタリー国際企画会議「Tokyo Docs」の顔ぶれが変わった。

「なぜ息子はテロリストになったのか」自問自答しながら乗り越える母たちを追った企画がベストピッチ賞

年に一度、都内で開催される今年の「Tokyo Docs」は11月5日~8日の4日間にわたって開催された。ここで大きな発表があるわけでもなく、派手な演出もないが、世界が今、見たい番組、世界にこれから届けられる番組が覗ける。そんな理由で今回も取材した。

今年で6回目の開催を数えたBtoBのドキュメンタリーイベント「Tokyo Docs」
今年で6回目の開催を数えたBtoBのドキュメンタリーイベント「Tokyo Docs」

会議に出席したのは、世界に企画を売りたいアジアの制作者と、企画を探す世界の放送局やネット動画配信事業者。制作者はここで国内だけでなく、世界各国からドキュメンタリー企画の製作資金を得るチャンスと出口を確保する機会が与えられ、一方、放送局やネット動画配信事業者はそれぞれのプラットフォームにハマる企画をいち早く抑えることができる。

世界の番組映像マーケットを取材するなかで、バイヤーからよく聞くのは「知っていそうで知らない事実を扱ったドキュメンタリーが欲しい」「制作者の視点から社会がみえるものがいい」といった意見。これに応える番組は実際に反響があるからだ。今回、公開で行われたメインの企画会議に提案された19本の企画もそういった意味で関心を集めたものが多かった。

“東京オリンピックを契機に、政府による浄化作戦によって徐々に姿を消している歌舞伎町の住人のありのままの姿をカメラに収める韓国人写真家ヤン・スンウを追いながら、“どんな人間にも居場所が必要だ”というヤンの想いを描くもの“「Tokyo noFilter/トーキョー・ノーフィルター」D.大西達也(フリーランス)/P.鈴木裕子(日本ケーブルテレビジョン)

“仏教徒でもあるタイの科学者が未来の蘇生を願って、2歳の娘の脳を冷凍保存した。生前の女の子の記録と、亡くなった後の家族のシーンを織り込みながら、心を維持する技術と娘を愛する家族の心の葛藤を描く”「Hope Frozen/冷凍された希望」D.P.ペイリン・ロレイン・ウェーデル(タイ・2050プロダクション)

“テロリストの息子の死を乗り越え、「なぜ息子はテロリストになったのか」と自問自答する母たちがテロリストの温床と呼ばれた村を変えようと行動を始める話”「Mothers of Change/テロリストの母たち」D.竹岡寛俊(アマゾンラテルナ)/P.平野まゆ(テムジン)

「冷凍された希望」と「テロリストの母たち」は最も優秀な企画として「ベストピッチ賞」を受賞し、「トーキョー・ノーフィルター」は優秀企画賞に選ばれた。これの他、ピアノを通じて生じた母娘の断絶を息子であり弟でもある元NHKのディレクターが記録する「Piano School, Gift to My Daughter/娘に贈るピアノ教室」D.新田義貴(フリーランス)P.塩原史子(塩原総合事務所)と中国の汚染危機に関する環境規制当局者を追った「Smog Director/スモッグ・ディクレター」D.ハン・メン、踊りを通じて人生を再生しようと格闘するホームレスに密着した「Dancing Homeless/踊るホームレス 路上の表現者たち」D.三浦渉(東京ビデオセンター)P.佐々木伸之(同)も優秀企画賞を受賞した。

「ピッチングセッション」と呼ばれる公開形式の企画提案会議。
「ピッチングセッション」と呼ばれる公開形式の企画提案会議。

Netflix、Hulu、ViceにDAZN、今の顔ぶれが揃う会議

冒頭に「顔ぶれが変わった」と書いたのは、ネット動画配信勢の参加が増えたからだ。昨年から参加したNetflixとHuluが今回も出席し、新たにVice メディアジャパンとDAZNも加わり、海外からは中国のテンセントとビリビリ、オンラインプラットフォームを売り先に持つイギリスのディストリビューターTVFが参加。「ショートドキュメンタリーショーケース」にはYahoo! JAPANも出席した。

これまでは元イギリスBBCで国際共同製作ドキュメンタリー業界の重鎮、ニック・フレイザー氏が会議の中心的存在だった。それが今回、フレイザー氏不在のなか、代わって欧米のディシジョンメーカーと呼ばれる番組購入決定権を持つ責任者やディストリビューター、プロデューサーが特に目立つこともなく、また日本の放送局からはNHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、WOWOWが揃って出席し、国際共同製作企画に積極的なNHKの発言は多かったが、むしろネット勢の発言力が高まった印象が強かった。

なかでも、中国のテンセントとビリビリは「今すぐにでも買いたい」と言わんばかりの勢いがあった。

両社が登壇したTokyo Docsのワークショップでビリビリのレア・チョウ氏は「視聴者の平均年齢は17~20歳。中国経済の成長発展と共に成長してきた若者の多くは、お金にも時間にも余裕があって、趣味を追い求めている。自分の趣味にあったドキュメンタリー番組を見つけて、視聴している傾向が高い」と説明。昨年、中国の国営放送局CCTVが「私は故宮で文化財の修復をしている」というタイトルのドキュメンタリーを放送した後、ビリビリで配信したところ、予想を大きく超えて視聴数が伸び、熱い議論が巻き起こったという。若者が選択しないCCTVでは反響がなかったが、ビリビリでは成功した。これをきっかけに「中国の若者はドキュメンタリーを求めている」と確信し、積極的に配信しているという。NHKからも既に100本ほど購入し、ランキングワードにNHKはベスト15に入るほどの人気ぶりという。

テンセントも「関口知宏の中国鉄道大紀行」をはじめ、NHKの番組人気は高いという。今、関心があるのは「人間模様を描いた」素朴なもの。同社のボッブ・ジン氏は「NHKの『ドキュメント72時間』を早く見たいという声が若い人から寄せられています。なんでもない平凡な人間模様を観察する番組はまだ少ないので、逆にとても人気があります」と話していた。

中国のディレクターと日本の若手ディレクターの台頭

一方、企画提案した中国の制作者も評価を受け、目立った存在だった。先の「スモッグ・ディレクター」のハン・メン氏は昨年の企画に続いて受賞し、番組で追う環境規制当局者に対して「テレビ的に最高なキャラクター」などと、絶賛されていた。また日本在住のディレクター関強氏(オルタスジャパン)の企画「Twinflower/双生花」は「アジアドラマチックTV賞」を受賞。遠く離れた日本から、中国の変化をテーマに作品を続けている若手のディレクターだ。フジテレビの「nonfix」枠で「ボクが見た中国」シリーズが放送されている実績もあり、「普通の生活をしている人が語る想いから、その国のことがみえると思う。今の中国でしか撮れないものを撮りたい」と語る言葉の通り、その確立した独自のスタイルが評価されていた。

今回のTokyo Docsにあった変化に若手ディレクターの台頭もあった。ベストピッチ賞を受賞した先の「テロリストの母たち」の竹岡氏をはじめ、「ショートドキュメンタリーショーケース」でベストピッチ賞だった「Businessman Rap/ビジネスマンラップ」の松井至氏、「TOKYO KURDS/東京クルド」の日向史有氏、『Red Hair and Japanese Dance/赤髪と日本舞踊』の濱地咲季氏など活躍がみられた。

「テロリストの母たち」の竹岡氏は2010年から7年にもわたって、ジョージア(かつての国名はグルジア)共和国で取材を続けている。「17歳の時に9.11アメリカ同時多発テロ事件が起き、衝撃を受けた。テロリストの巣窟が無くなることによって、本当のテロが無くなるんじゃないかと思って、通っています。」それが動機だという。これを聞いて、中東のアルジャジーラチャンネルは「竹岡さんのモノの見方と、登場人物の視点を組み合わせることで、紛争の背景と疑問に対する答えがわかるかもしれない」と、高く評価した。

これまでBSジャパンで番組化されたこともあったが、どの局にもなかなか企画が通らず苦戦続きだったという。取材費は今回得た賞金の100万円を足しても「リクープできない」と話していたが、提案会議の成功によって、国内ではNHKで番組化が検討されることになったようだ。そんな朗報が最後に聞けた。

時代の流れを味方に、ドキュメンタリー制作者のチャンスを得る機会がここから広がる。そんな空気が今年のTokyo Docsの現場で流れていた。

日本をはじめ海外から参加した受賞者と主催関係者ら。
日本をはじめ海外から参加した受賞者と主催関係者ら。