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日本ブームのタイでジャニヲタの心中は複雑?

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
「ずっとスキ」と想いを書く一途なタイのジャニーズファン

日本ブームのタイで、日本のドラマをPRするイベント「Jシリーズ・フェスティバル in Thailand」が6月18日に行われた。日本のジャニヲタさながらに現地のジャニーズファンが盛り上がりをみせる一方で、日本のエンターテイメントを受け入れるタイ人の複雑な思いも現地で聞いた。

一度好きになったジャニーズタレントを忘れることができないファンは多い

日本の放送局が中心となって、海外の視聴者にも日本のドラマを知ってもらいたい、見てもらいたいという趣旨で「Jシリーズ・フェスティバル」(主催:国際ドラマフェスティバルin Tokyo 実行委員会)というイベントが2013年からアジア各地で開催されている。特に日本ブームが起こっているタイは重要視されている国のひとつ。日本食レストランが多く進出する首都バンコクの大型商業施設「サイアム・パラゴン」を会場に、これまで4回にわたり企画されている。

そこに毎回、ジャニーズタレントが参加している。今回はドラマ「視覚探偵 日暮旅人」(日本テレビ系)に出演した上田竜也(KAT-TUN)さんが訪タイした。「タイはジャニーズ人気が高い。ジャニーズタレントが集客力となって、約1000人の観覧希望枠に応募が殺到します」と主催者は説明する。Jシリーズの“J”はジャパンを意味するが、ファンの間ではジャニーズの“J”として認識され、お揃いのTシャツや似顔絵が書かれたうちわや横断幕を用意し、恒例イベントを楽しむ姿がそこにはあった。

タイで50万人を集客する「ジャパン・エキスポ・タイランド」をはじめとする日本関連イベントを10年以上にわたって主催し、「Jシリーズ・フェスティバル」の運営にも当初から携わるユパレット・エトラパカルさん(ジーユークリエイティヴ社長兼CEO)に、タイ人にとって、このイベントはどのような価値があるものか、聞いてみた。

「日本食や車など、タイ人は日本製に囲まれて生活していますが、日本のエンターテイメントを楽しむ機会は本当に少ない。だから、タイ人にとって『Jシリーズ・フェスティバル』はトップイベントです。タイ人は一途ですから、一度好きになったジャニーズタレントを忘れることができないファンは多い。やっと会えるという想いでイベントに来てくれています。」

来場者の女の子らに声を掛けると、中には好きが高じて日本語を学び、流暢に日本語でインタビューに応えてくれるファンもいた。24歳の女性は「ジャニーズの方々が出演するドラマをいつも探してみています。このイベントにはファンネットワークで知り合った友だちとみんなで来ています。今日のこの日を心の中にしっかり焼き付けて楽しみます。」と話していた。

タイの若いジェネレーションの大半は韓流の影響を受けている

海外で日本贔屓の声を聞いて、くすぐったくもなったが、せっかくなので本音も聞いてみたい。ユパレットさんが告白する。

「例えば1000人の日本のエンターテイメント好きがいたら、その1000人のうち8割はおそらく10年後も20年後もファンで居続けるでしょう。けれども、なかなかその1000人から広がらないことが悩みです。」

どういうことなのか。

「1万人に拡大できるはずなのに、日本のエンターテイメント業界は海外に魅力を感じているのか疑問に思うことがあります。自国のマーケットだけで十分だということが大きいでしょうが、日本人の完璧主義が海外進出にネックになっていると思ってしまう。かたちを作らない限り始めないところがありますよね。タイ人は後先考えずにまずは売る。それはそれで問題がありますが、対象的です。」

鋭い指摘だ。タイで人気が浸透している韓国との比較も聞いた。

「韓国も“とりあえず、好きになってもらいたい”というスタンスで、次から次へと情報を提供し、毎月何かしらの韓国関連のエンタメイベントが開催されています。Jシリーズが開催された日は韓国イベントが2件も企画されていました。韓国はマーケティング上手ですよ。SNSへの写真投稿も自由で、タレントとの距離感の近さが売り。それに比べて日本は知ってもらうチャンスがあまりにも少ない。だから、日本に興味を持つ人の数が広がらないのだと思います。」

一方、日本側からは「ここ10年は韓流ブームに押されてアジアにおける日本のエンターテイメント人気が落ち込んだが、ここにきて日本が巻き返しを図りつつある。」「韓流が飽きられ始めているから攻め時」といった鼻息荒い話を聞く。

状況は好転しつつあるのか。ユパレットさんに再び疑問を投げかけると答えてくれた。

「少なくとも若いジェネレーションの大半は韓流の影響を受けています。それでも、できることを継続していくしかない。2月に開催したジャパン・エキスポ・タイランドではピコ太郎さんなど50組のアーティストを日本からお呼びしました。タイ以外で今年はマレーシアで初開催を予定しています。アジアの国々でそれぞれ求めているかたちに合わせて、とにかく日本好きを増やしていきたい。日本が好きなので。」

奇しくも筆者と同世代だったユパレットさんに日本への原体験を聞くと、1985年の「つくば科学万博」が憧れを抱くきっかけだったというから、幼少の頃にインパクトに残る話題が同じだったことで思わずその場で盛り上がったが、ふと思った。タイの今の若いジェネレーションにとってそれは、スマホ画面から手軽に得ることができる韓国や各国のエンターテイメント情報なのかもしれない。日本流を追いかける一途なファンは受け継がれずにこのまま衰退していくのか。そう考えると、複雑だ。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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