中国マネーの入口、香港フィルマートで制作資金を集めるドラマ

2017年3月13日~16日まで開催された香港フィルマートを現地取材した。

アジア最大級のエンタメコンテンツマーケット「香港フィルマート(HKFILMART)」(2017年3月13日~16日)を現地取材した。勢いある中国市場の入口となる香港で映画、アニメ、ドラマ、ドキュメンタリーの制作資金の集め方がひとつにテーマにあった。

香港フィルマートはアジア最大級のエンタメマーケット

香港フィルマートは毎年3月にビクトリア湾に面するランドマーク、香港コンベンション&エキシビションセンターで開催される。エンターテイメントコンテンツの国際トレードショーとしてはアジア最大規模と言われ、フィルムやテレビ業界を中心に、アニメーションや動画配信会社から参加を集める。

今年は8000人が参加した。アジアからの参加者は5割近くを占め、地元の香港をはじめ、中国からの参加が最も大きい。出展者は35の国と地域から800以上。日本、韓国、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナム、カンボジア、インド、トルコ、ロシア、アメリカ、カナダ、イギリス、フランスなど幅広く国別パビリオンも展開されていた。

日本のそのパビリオンブースにはジェトロ・ユニジャパンが運営するジャパン・パビリオンに38社、一般財団法人さっぽろ産業振興財団・札幌映像機構が運営するジャパン地域パビリオンに28社が参加し、売りモノのドラマなどのフライヤーやポスターを掲げ、商談を行っていた。

ジャパン・パビリオンブースで商談を行う日本から参加したテレビ局など。
ジャパン・パビリオンブースで商談を行う日本から参加したテレビ局など。

会場を歩くと、香港最大の民放局TVBが番組発表会を派手に行い、賑わいをみせる現場に何度も出くわした。アジア受けするイケメン&美女の大型番組パネルを並べてPR上手な中国ブースにも圧倒されながら、4日間にわたって取材した現地の話題をレポートしたい。

地元の香港のテレビ局TVBが連日会場で番組発表会を行っていた。
地元の香港のテレビ局TVBが連日会場で番組発表会を行っていた。

中国iQIYIは何を語ったか

香港フィルマートを取材するのは今回が初めてだったが、コンテンツの国際トレードの変遷をカンヌで定点観測していることもあり、確認したかったのはアジアに軸足を置いたマーケットのトレンドだ。そのひとつはやはり、動画配信の話題だった。

政府機関の中国インターネット情報センター(CNNIC)が発表している最新データ(2016年6月)では中国のインターネット人口は7億1千万人。中国人口の約半分が使っていることになる。中国最大の動画配信プラットフォーム愛奇芸(読み方:アイチーイー、以下iQIYI)のワン・シャオホ共同社長兼COOは目玉のセッションで現状についてこう話した。

「インターネット人口は年々増えています。ここ7年間で生活習慣が変わり、お金を払って番組コンテンツを視聴するという層が増えています。「90後(90年代生まれ)」がその中心となり、そこに商機があります。」

説明によるとiQIYI は主力のインターネット広告収入と有料会員向けサービスの2本柱で運営し、年間売上額は約100億人民元(約1600億円)、会員数は2000万人(2016年7月現在)に上る。昨年、初の海外進出として台湾版を立ち上げた。

またシャオホ共同社長は「インターネットはショービジネスにとって損か得か」と題したカンファレンスのテーマに対し、このようにコメントした。

「損してもやります。軽いヤケドであれば、そこから成功が見出せます。ネットの台頭により従来のビジネスは多少影響を受けていますが、今はネットショッピングとショッピングセンターの両方が求められているように、コンテンツの市場もトレンドに合わせてネットも従来のビジネスも両方が必要だと思います。」

中国ではテレビ放送されるドラマのネット同時配信が進んでいると聞いた。両立が成立しているのは市場が求めているから、というシンプルな理由だ。

「90後」世代をターゲットに成長する中国動画配信iQIYIのブース。
「90後」世代をターゲットに成長する中国動画配信iQIYIのブース。

中国がリメイクする日本のドラマ

iQIYIヤン・シャンホ副社長は「オリジナルコンテンツの数を増やしている」ことをまた別のカンファレンスで明らかにした。2015年の612本から2016年は1800本にオリジナルコンテンツの本数を増やしたという。今後もオリジナル作品に制作費を投下していく方針だ。

会場で取引されるコンテンツの内容がデータ化されているわけではないので正確さには欠けるが、ブースに並べられているフライヤーやポスター、カタログから連続ドラマの扱いが多いようにみえた。

4月から中国で放送予定の「深夜食堂」リメイク版も取引されていた。セールス担当者によると「40話を予定し、中華料理をエッセンスにしたストーリーになる」という。

上海の制作会社SMGピクチャーズでは杏&長谷川博己「デート~恋とはどんなものかしら」と山下智久&長澤まさみ「プロポーズ大作戦」の2つのリメイク版をイチオシ作品として並べていた。

「デート」は中国で2月21日から放送・配信が開始され、「プロポーズ大作戦」は今年5月から放送・配信予定という。主演に中国出身の歌手で、韓国アイドルグループEXOのメンバー、チャン・イーシンを起用している。

中国リメイク版がCSフジテレビTWOとFODで放送・配信される計画だ。
中国リメイク版がCSフジテレビTWOとFODで放送・配信される計画だ。

同社はフジテレビと取引契約を結び、ドラマリメイクを積極的に進めているところだ。ラン・シー部長代理にその理由を聞くと、

「中国では現代的な恋愛ストーリーが人気です。特にアイドル出演作品が流行っています。日本のドラマにはアジア受けするストーリーも多い。若い人に向けた内容を探していたので、フジテレビのリメイク作品を増やしています」と答えてくれた。

ドラマの内容に対して、中国政府による規制もあり、“精神的にポジティブなもの”が必須だという。そんな事情からも「月9」ブランドがマッチする。

同じ部屋に住む5人の独身女性の生き方を描く中国の人気ドラマ。
同じ部屋に住む5人の独身女性の生き方を描く中国の人気ドラマ。

中国から出展した制作会社各社にドラマ事情を聞くと、トレンドは「歴史や戦争ものといったジャンルは根強い人気」「恋愛ものの他に独身女性の恋愛や仕事、友情などを描いたものも人気上昇」という。

テレビ局とネット配信会社から制作費をリクープできることもあり制作費は高騰中だ。中国ではフリーで活動する俳優が多く、キャスト陣の出演料が値上がっていることも制作費高騰の背景にある。もはや日本の地上波ドラマよりも抜いたとも言われている。

Netflixドラマもフィルムコミッション

中国勢の動きは目立ったが、会場では第89回アカデミー賞作品賞を受賞した「ムーンライト」共同プロデューサーのアンドリュー・ウェバー氏や、アニメーション映画『君の名は』東宝プロデューサー・川村元気氏の特別登壇もあった。

また日本から参加した事業者がフォーカスされたカンファレンスもあり、札幌市、北九州市、沖縄県のフィルムコミッション団体が登壇、日本での撮影誘致を紹介する場が初日(3月13日)に設けられた。

北九州市のプレゼンテーションでは「空港を使って日本で初のハイジャックシーンも撮影可能」「日本のハリウッドを目指そうと頑張っている」とった力強いメッセージが投げかけられた。市内中心に撮影が行われた公開中の「相棒―劇場版4」を例に説明が行われ、3000人の市民エキストラが参加、12時間にわたる道路封鎖によって実現した撮影の様子が語られた。山口県下関市との連携も始められ、「2つの都市を併せて海、山、歴史あり。あらゆる日本のシーンがここで撮影完了する」と説明し、海外作品の誘致もPRしていた。

また札幌市はネットフリックスのドラマ撮影を支援したことを事例のひとつに挙げた。人気マンガ「僕だけがいない街」を原作に古川雄輝主演でネットフリックスがオリジナルドラマとして年内に世界配信するものだ。

登壇したそれぞれの市で助成金なども用意されている。「制作資金のどのように集めるのか」という話題に関心が集められているマーケットで今回、日本の自治体の海外活用を知ってもらう良い機会になったのではないかと思う。

日本のセッションにゲスト出演したぜんじろうによるスタンダップコメディ。
日本のセッションにゲスト出演したぜんじろうによるスタンダップコメディ。

河瀬直美監督がHAFアワード受賞

ドキュメンタリーが公開ピッチング(プレゼンテーション)の方式で制作資金を集めるケースが高まっていることから、ドキュメンタリーをフォーカスしたセッションもあった。日本からはこれまで30もの国際共同制作作品を手掛けているNHKプロデューサー浜野高宏氏が登壇し、中国の財団CNEX共同設立者兼CEOのルビー・チェン氏と共に、TokyoDocsなど世界各地で開催されているドキュメンタリー企画提案会議について説明した。

香港フィルマートは、エンターテイメントエキスポの一環として開催され、香港国際映画祭(HKIFF)、香港電影金像奨(HKFA)と同時開催される。また香港アジア映画投資フォーラム(HAF)や香港アジアポップミュージックフェスティバル(HKAMF)など7つのコアイベントも併設されている。

HAFはアジアの映画製作者が製作資金の調達を目的に、世界各地の金融関係者、投資家、配給会社、販売代理店に対して映画プロジェクトをプレゼンテーションするイベントになる。iQIYIがスポンサーを務めていた。イベント会場には選ばれたプロジェクトごとにテーブルが並べられ、ひっきりなしに商談が行われている様子だった。選ばれたプロジェクトの数は24本に上り、その内日本からは4本。第一回目のTokyo Docsで最優秀企画賞を受賞した三宅響子監督作品や、「ジョゼと虎と魚たち」「ハチミツとクローバー」など数多くの映画作品を手掛ける小川真司プロデューサーが新進気鋭の中野量太監督に声をかけ、仕掛ける「浅田家」プロジェクトなどがあった。紙ベースの企画書にも関わらず浅田家プロジェクトは1日20件近くもの商談が組まれるほど注目されていた。

HAFアワードの非香港部門では河瀬直美監督の「NARAtive Film 2017-2018」プロジェクトが受賞する快挙を果たした。

香港は中国マネーの入口として機能している。だからこそ、ここではいかにして制作費を集めて良いキャストを揃え、良い作品を作るかに話題が集中していたのだろう。何かとせっかち気味な香港人の気質もそこに加わり、今すぐ買いたい”ファストコンテンツ”を求めるアジアマーケットのスピード感も感じた取材になった。

制作資金集めが支援されるHAFの商談会場。
制作資金集めが支援されるHAFの商談会場。