コロナ禍におけるエンタメの是非が問われる昨今ですが、こんな時だからこそ映画、演劇、お笑いなど、心を動かすエンタメの力が必要なのではないかとも思います。女優の夏子さんは、5月2日から1ヵ月間、「東京ゴッドファーザーズ」で新国立劇場の舞台に立つ予定でしたが、東京都の緊急事態宣言発令により、初日から11日までの公演が中止になりました。コロナ禍でエンタメを届ける側の気持ち、共演の「TOKIO」松岡昌宏さんから学んだこと、演出家・野田秀樹さんと出会って目覚めたことなど、今の彼女を作る“要素”を語ってもらいました。

-舞台「東京ゴッドファーザーズ」東京公演、無事に千秋楽を迎えることができましたね。

 まずは初日を迎えられるのか、毎日ハラハラしていた日がきのうのことのようです。無事に幕が開いてからもその気持ちは変わらずでしたが、東京の千秋楽を迎えることができました。ただ、これから地方公演を終えて大千秋楽を迎えるまで、この気持ちは変わらないのかなと思います。

 コロナの感染対策は、物理的に気をつけることはもちろんですが、カンパニー1人1人の心が健康で、お芝居ができることへの感謝にあふれていることが一番大切なことだと今回、深く感じました。そして、たくさんのお客様と出会えたことは、どんな言葉にも変えがたい財産になりました。

-緊急事態宣言で一部公演が中止になった時の気持ちはどうでしたか?

 稽古段階から、幕が上がるのか上がらないのか分からない状況ではあったのですが、稽古場の雰囲気はそんなに重たく暗いものではありませんでした。それは演出家の藤田俊太郎さんの作ってくれる空気感と、座長の松岡さんが「もし公演ができなかったとしても、今、貴重な時間を過ごせていることが自分たちの財産だから」と話してくれたから。

 もちろん、“きょう緊急事態宣言が出されるかもしれない”という時には、みんなソワソワしていましたけど。でも、どうなろうと、どうしようもないので、あきらめではないですけど、あえてそれを口にする人はいませんでした。

 悔しいとか、やるせない気持ちが全くなかったわけではありませんが、「この先どうなるんだろう」とかは考えず、「とにかく一生懸命稽古しよう!」という空気をみんなで作っていました。結果、公演前半は中止になってしまいましたが、劇場を使って稽古するというすごくぜいたくな充実した時間を過ごせて、逆にお芝居を万全の状態に持っていけたと思います。

-座長の松岡さんからアドバイスなどはありましたか。

 松岡さんって、自分のことだけじゃなく、演出家のようにお芝居の全体が見えていて。たとえば、今回は、舞台を客席が前後で挟む形で作られていたので、立ち位置がすごく難しくて。前からも後ろからも見える位置でお芝居しなくてはいけないのですが、私はまだ舞台経験が浅いので、松岡さんが被(かぶ)らない位置に動いてくださったり、「もうちょっとこっちに行った方がいいんじゃない」とか教えてくださったり。そういう面でも、すごくサポートしていただきました。

 松岡さんは、元ドラァグクイーンのハナさんという役で、私の演じる家出少女のミユキからすると母のような存在なんですが、あらゆる意味でみんなの面倒を見てくださっていました。もう私のお母さん、いや、カンパニー全体のお母さんです(笑)。

 先日、松岡さんが司会をされている「二軒目どうする?~ツマミのハナシ~」(テレビ東京系)に出させていただいた時、「私生活でも女性っぽい仕草が出ちゃう」とおっしゃっていたんです。それくらい役作りでずっと観察されていたんでしょうし、(日常的に)役のことを考えているからこそ出ちゃうんだろうなと思っていました。

-間もなく地方公演が始まりますね。コロナ禍でエンタメの必要性が議論されることもありますが、どう感じていますか?

 すごく難しい問題ですけど、幕が開いて、お客さんの前に立てるって、本当に幸せなこと。隣の劇場では、作品が上演できなくなったスタッフさん、役者さん、ダンサーの方を目の当たりにしたので…。今どうしたらいいとか断言はできないのですが、自分たちがやらせていただける状況にあるのだったら、精いっぱいやるしかないなと思います。カーテンコールで観ていただけた方の笑顔を見るとうれしいです。

-女優デビューは2016年。きっかけは何だったのでしょうか?

 大学在学中の2015年に、今は休刊となってしまったファッション誌「SEDA」の編集長から専属モデルに誘っていただいて。「やるやる!」って言ったのがきっかけではあったのですが、実は私、写真に写るとか、人前に出るのがすごく苦手なんです。

 その雑誌を見て、事務所の方が声をかけてくれたのですが、昔から将来の夢とかがあまりなくて、とりあえず大学に行って…みたいな感じだったので。もし声をかけてもらっていなかったら、自分から(女優の道に)進むことはなかったと思うので、どうなっていたか全く想像がつきません。普通に就職していたかもしれないです。

 それなのに一歩踏み出して、私が今こういう状況にあるのは、すごい縁に恵まれ、人に恵まれていたからで。声をかけてくれた編集長も、マネジャーさんも、そういう人に出会えたから、今、私が「これで生きていきたい」と思えるものに出合えたのだと思います。

-舞台は今回が4作目ですね。

 2年前に出演した舞台が初めてだったのですが、当たり前ですが何もできず…。当時の自分なりに最善は尽くしましたが、全くダメだったんです。千秋楽の帰り道にフツフツと悔しくなってきて。全く楽しめなかった自分とか、「もっとああできたんじゃないか」と。とにかく悔しくなって「あっ、また舞台に立ちたい」と思いました。私にとってはターニングポイントになった夜でした。

 その後、野田秀樹さんのワークショップに参加させていただいて、なんだろう…大人がすごく真剣に楽しそうにしているのを目の当たりにして。その中でも特に野田さんが、お芝居を作る時もやる時も一番楽しそうにしていたんです。「こんなに大人が楽しそうにしているんだから、自分たちが楽しまないでどうする!」「演劇って楽しむことができる場所なんだ!」「とにかくまず自分が楽しむことが大切なんだ!」ということを、野田さんから学びました。

-miletさんの『us』のMVでは、ダンスも披露していましたね。

 はい。子供の頃、クラッシックバレエを15年ほど習っていたんですけど、やめてしまったんです。でもそれこそ、野田さんのワークショップで、身体と心は繋(つな)がっているのだと痛感して。それなのに、自分の身体の使えなさが情けなくなって。それがきっかけで再びダンスを始めました。今はコンテンポラリーダンスをやっています。

 私は本を読むのも好きで、それは食べることや寝ることよりも幸せな時間です。ストーリーに入り込んでしまって、一度入ってしまうと抜けられないので、もったいないと思いながら、1日で読んでしまいます。実は、三島由紀夫さんの「夏子の冒険」の夏子がすごく魅力的な女性で、いつか夏子を演じられたらいいなと思っているんです。こうやって話していれば、かなうかもしれないので、言っておきます(笑)。

-“女優・夏子”の魅力とは何だと思いますか。

 自分では分からないのですが、必ず初対面やお芝居で言われるのは、目ヂカラの強さです。あまりに言われるので、人に不愉快な思いをさせてないといいなと思いますが、でもせっかくなので、お芝居に活かせたらと思います。

 まだ本当に何者でもないというか、今まで出合わせてもらった作品、演出家や監督の方との出会いもあり、経験も少しは積んできましたけど、まだまだ何にでもなれると思います。自分の可能性も自分で分からないので、可能性は無限大なんじゃないかと。

 そもそも今、こういう仕事をしていること自体が、昔の自分には想像できないことなので、人生何があるか分からないなと思っています。もちろん、稽古の時は必死ですけど、今回も本当に素敵なカンパニーなので、毎日楽しくてしょうがないです。現場なり、稽古場なり、劇場に行きたいと思う毎日です。

 これからもいろんな人、作品に出会っていきたいです。そして吸収していきます。そして誰よりも楽しんでいきます!

■インタビュー後記

「東京ゴッドファーザーズ」を鑑賞して印象的だったのが、やはり目ヂカラ。吸い込まれるというよりは、間もなくビームが出てくるのではないかという発信力のある目。まさに“目は口ほどに物を言う”で、表情から気持ちが読み取れました。「人生は出会いによって変わっていく」と言いますが、夏子さんのお話を聞いていると、その出会いをご縁に変えることができる人だからこそ、今の彼女があるんだなと思います。

■夏子(なつこ)

1996年9月3日生まれ、東京都出身。2016年にフジテレビ系「世にも奇妙な物語 秋の特別編」で女優デビュー。その後、「偽装不倫」、「私の家政夫ナギサさん」など話題のドラマのほか、「King Gnu」の『The hole』やmiletの『us』のMVにも出演。