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アルコール依存症とは 他人事ではなく自分自身の問題として考えてみませんか

原田隆之筑波大学教授
(写真:アフロ)

アルコール依存症とは

 著名人の酒気帯び運転事件などを機に、アルコール依存症について世間の関心がいつになく高まっています。とはいえ、ニュースやネットを見ると、必ずしも正しいとは言えないような情報が広まっていることもたしかです。

 この機会にアルコール依存症について、ぜひ理解を深めていただきたいと思います。

 アルコール依存症とは、一言で言うと、飲酒行動がコントロールできなくなる病気です。それは、脳のなかの大脳辺縁系にある快楽中枢と呼ばれる部位の機能障害によるものです。

 つまり、乱暴な言い方をすれば、アルコール依存症は脳の病気です。

 意志が弱いとか、反省が足りないとか言っても意味がありません。意志や反省でどうにかなるようならば、アルコール依存症ではないからです。

 アルコール依存症の主な症状は以下のとおりです。1)

  1. 飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感
  2. 飲酒や飲酒量に関して行動をコントロールすることが困難
  3. 禁酒や減酒したときの離脱症状(発汗、手指の振え、不眠、嘔吐、不安など)
  4. 耐性(酩酊するまでの飲酒量の増大)
  5. 飲酒に代わる楽しみや興味を無視
  6. 明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず飲酒

 このうち、3つ以上を満たせばアルコール依存症と診断されます。

 たとえば、飲みたいという気持ちに逆らえず、毎日飲んでしまうような人は1があてはまるかもしれません。ついつい飲みすぎてしまって、あとで後悔するというのは、2があてはまるでしょう。

 また、酒に強くなったからといって、喜んでいてはいけません。実は4があてはまり、依存症に一歩近づいたということかもしれません。

アルコール依存症の実態

 厚生労働省研究班の推計では、わが国には107万人のアルコール依存症者がいると見られていますが、このうち医療につながっているのは5万人程度しかいません。2)

 その理由は、病気への理解や自覚が乏しく、アルコール依存症と思っていない人や、自力でどうにかなると思っている人がたくさんいることが挙げられます。

 あるいは自覚はあっても、病気への社会的な偏見の強さなどから、病院に行くことに二の足を踏んでいる人も少なくないでしょう。

 この病気が進むと、肝硬変や肝がんをはじめとする重篤な病気を引き起こしたり、アルコール誘発性精神障害という精神疾患になったりします。これは、幻覚妄想状態に陥ったり、認知機能が損なわれたりする病気です。

 言うまでもなく、アルコールの影響で事件事故を起こす人も少なくはありません。飲酒の上での暴力沙汰、わいせつ事件、飲酒運転などのニュースを聞かない日がないくらいです。

 実は、アルコールは世界中で最も多くの「害」をもたらしている「薬物」であり、合法・違法問わずあらゆる薬物のなかで、最も危険な薬物だという評価がなされています。それは、アルコールの入手しやすさが大きく影響しています。3)

他人事ではない

 アルコール依存症を他人事と考えてはいけません。先の厚生労働省の調査では、アルコール依存症の予備軍は300万人、危険飲酒者は1,000万人、そして多量飲酒者も1,000万人と見積もられています。つまり、成人の4人に1人は、問題のある飲み方をしているのです。

 厚生労働省が定める1日の適正飲酒量は、純アルコール20gです。これをわかりやすく示すと以下の通りになります。

 

 ビール 中瓶1本

 日本酒 1合

 チューハイ(7%)350mL缶1缶

 ワイン グラス2杯

 ウィスキー ダブル1杯

 日常的にこれを超えた飲み方をしているような人は、多量飲酒者です。

 別に脅かすつもりも、何でもかんでも病気の予備軍扱いするつもりもありません。これは厳然たる事実です。

 このことを講演などで話すと、笑い声が起きたりするのは、毎度のことです。しかし、恐ろしい病気の予備軍だと自覚して、笑い声が起きるということは、考えてみれば異常です。  

 これはまさに、この病気を甘くみていること、そして過度な飲酒に寛容な風潮の表れにほかなりません。

スクリーニングをやってみましょう

 アルコール依存症のスクリーニングとして、WHOが開発したAUDITというものがあります。少し時間を取って、自分の飲酒をチェックしてみませんか。全部で10問あります。問いを読んであてはまる答えをチェックしてみてください。4)

1 あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか

(0)飲まない (1)1か月に1度以下(2)1か月に2-4度

(3)1週間に2-3度 (4)1週間に4度以上

2 飲酒するときは通常、純アルコール換算でどのくらいの量を飲みますか

(0)10-20g (1)30-40g (2)50-60g

(3)70-90g (4)100g以上

3 一度に純アルコール換算で60g以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか

(0)ない (1)1か月に1度未満 (2)1か月に1度

(3)1週間に1度 (4)(ほとんど)毎日

4 過去1年間に、飲み始めると止められなかったことがどのくらいの頻度でありましたか

(0)ない (1)1か月に1度未満 (2)1か月に1度

(3)1週間に1度 (4)(ほとんど)毎日

5 過去1年間に、普通だと行えることを飲酒をしていたためにできなかったことがどのくらいの頻度でありましたか(外出を含む)

(0)ない (1)1か月に1度未満 (2)1か月に1度

(3)1週間に1度 (4)(ほとんど)毎日

6 過去1年間に、深酒の後、体調を整えるために、朝の迎え酒をせねばならなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか

(0)ない (1)1か月に1度未満 (2)1か月に1度

(3)1週間に1度 (4)(ほとんど)毎日

7 過去1年間に、飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか

(0)ない (1)1か月に1度未満 (2)1か月に1度

(3)1週間に1度 (4)(ほとんど)毎日   

8 過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか

(0)ない (1)1か月に1度未満 (2)1か月に1度

(3)1週間に1度 (4)(ほとんど)毎日

9 飲酒のために、あなた自身がけがをしたり、あるいは他の誰かにけがを負わせたりしたことがありますか

(0)ない (2)あるが、過去1年間はなし

(4)過去1年間にあり

10 肉親や親戚、友人、医師、あるいは他の健康管理に携わる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすように勧めたりしたことがありますか

(0)ない (2)あるが、過去1年間はなし

(4)過去1年間にあり

 回答の番号を合計したものが、あなたの得点です。

 20点以上だとアルコール依存症が疑われます。10点から19点が危険飲酒群です。

 たとえば、15点というのはアルコール肝障害に至った人の平均得点です。現在は身体に異常がなくても、15点前後だった人は今のような飲み方を続けていると、いずれ肝障害になるリスクが高くなります。

 また、10点以上の人は、家族が困っていたり、周りから「あの人は飲みすぎだ」と思われている可能性が高い飲み方をしています。

日本社会とアルコール

 日本はアルコールに寛容すぎる社会です。酒の上での失敗が大目に見られるだけでなく、武勇伝のように自慢する人さえいます。

 酒に酔って大声を出して暴れてもニュースにはなりませんが、覚醒剤で同じことをすると世間は大騒ぎになるでしょう。

 こうした社会の空気もまた、アルコール依存症のリスクを高めます。

 アルコール依存症の人は病院に行ったほうがいいと考える人は増えてきましたが、もっと大事なことがあります。

 それは、まず自分の飲み方を振り返ることです。そして、危険な飲み方をしていることを自覚したら、アルコール依存症になってしまう前に、それに気づいた時点で受診することです。そのうえで、リスクの少ない飲み方ができるように行動変容をすることです。

 2013年に「アルコール健康障害対策総合基本法」が成立しました。この法律によって、アルコールによる健康障害の予防啓発に多くの対策が行われることになりました。

 なかでも危険飲酒者への相談支援、医療の充実は重要な課題の1つです。それを受けて、減酒外来というものが、全国の総合病院や診療所などにでき始めています。

 また、全国の保健所や精神保健福祉センターなどでも、お酒の問題への相談を受け付けてくれます。

 どんな病気でも、早期発見早期治療が鉄則です。コントロールができなくなるまで放っておいては、遅いのです。

 アルコール依存症は、特殊な人がなる特殊な病気ではありません。

文献

1) WHO ICD-10 1993

2) Osaki et al. Alcohol Alcohol 2016

3) Nutt et al. Lancet 2007

4) Saunders et al. Addiction 1993

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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