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Step Backされるのはどっちだ?GOT the beat『Step Back』の残念すぎる歌詞

韓東賢日本映画大学教員(社会学)
YouTube公式動画より筆者がキャプチャ

BoAのもとに少女時代、Red Velvet、aespaから7人が結集

K-popファンにとって昨年から元日といえば、少女時代や東方神起を擁する韓国の大手芸能事務所、SMエンタテインメントによるオンラインコンサート、SMTOWNだろう。かつて日本ではドームツアー、世界各国でもツアーをしていた大型ライブ企画だが、コロナ禍のもと、昨年からは元日にオンラインを通じてなんと無料で行われており、今年は「SMTOWN LIVE 2022 : SMCU EXPRESS@KWANGYA」として、日本時間で1月1日の13時から4時間+DJタイム2時間の長丁場で世界中の視聴者を楽しませてくれた。

かつてSuper Junior、SHINee、EXO、そして今ではNCTと同事務所のアーティストのファンであり、ライブの現場にも足を運んでいた筆者にとっても楽しみなオンラインコンサートだったが、今年の何よりの目玉は、ここで初公開された新プロジェクト「Girls On Top」だった(個人的にはBoAの『Only One』でカップルダンスのパートナーがNCTのショウタロウだった、ということもあったが)。その第1弾ユニットとして、BoA、少女時代のテヨンとヒョヨン、Red Velvetのスルギとウェンディ、aespaのカリナとウィンターによるGOT the beatの新曲『Step Back』のパフォーマンスが披露されたのだ。

BoAといえば2000年にデビュー、翌年には日本でデビューして大成功を収め、K-popの日本進出の道を切り拓いた先駆者だ。また2007年デビューの少女時代が2010年に鮮烈な日本デビューを飾って大人気となり、第2次韓流ブームの中心的存在となったことを記憶している人は多いだろう。2014年デビューのRed Velvetは第3次、2020年デビューのaespaは第4次韓流ブームを代表する女性グループで、いずれも人気、実力を兼ね備えた現在のK-pop界でトップクラスの存在だ。

「がっかり」「時代遅れ」「ダサい」、歌詞に落胆や戸惑いの声

アイドルの「寿命」――とくに女性の場合――が短い韓国で、1986年生まれのBoAから2001年生まれのウィンター(aespa)まで、K-pop興隆後の歴史を彩ってきた各世代の女性アーティストの層の厚みを持つ事務所は、SMエンタ以外には存在しないと言っていいだろう。しかもBoAは、現役でアーティスト活動を続けながら同社の社外理事も務めている唯一無二の存在だ。その地位にいる女性アーティストがデビュー22年目で初めてグループで活動する。しかも所属グループと世代を超えて先輩・後輩が参加する「シスターフッド」なユニットで……。だからこそ筆者は大きな期待を抱き、軽い感動すら覚えていた。

だからやはり、元日のSMTOWN LIVEで初披露されたパフォーマンスを見たときの感想は、「カッコいい!さすが!」だった。だが、その日の夜あたりからネット上では歌詞に対する落胆や戸惑いの声が広がり始める。韓国を中心に、世界各国の主に女性たちによる「がっかりした」「時代遅れ」「ダサい」「歌詞を修正したうえで配信してほしい」といった数多くの書き込みに、「えっ、どんな歌詞だっけ……?」とまずは驚いた。筆者は韓国語を理解するが、英語混じりの韓国語の歌詞とリリックを、1回パフォーマンスを見ただけではほぼ聞き取れてはいなかったからだ。それどころかタイトルが『Step Back』で「男、男」と言っているのは聞こえていたため、見た目とコンセプトからくるイメージによって、「男は引き下がってろ!」という歌だと完全に思い込んでいた。

だが歌詞を調べてみて、正直、筆者もがっかりした。もちろん歌詞だけがすべてはないが、期待が大きかったし実際にパフォーマンスがカッコよかっただけに、裏切られたような気持ちにすらなった。要は、おそらく自分の彼氏に好意を向けてくる女性に、色目を使っただの駆け引きなんて気持ちが軽いだのと散々揶揄し、バカな女は身を引けと挑発して、自分の彼氏は、そんなことをしなくても男たちの視線が集まる「世界レベル」の私を手に入れた「レベルの違う男」で、あんたなんか生まれ変わっても振り向いてもらえない、といった内容だ(文末に全訳紹介)。1月3日、配信が始まったが、作詞作曲は「SMP」(SMミュージック・パフォーマンス)と呼ばれる独自のスタイルを生み出し、数々の名曲を手がけてきたプロデューサーでBoA同様、同社社外理事のユ・ヨンジンだった。

プライドではなくミソジニー、マッチョ反転の傲慢で卑屈な女性像

ルックスも実力も選りすぐりの「アベンジャーズ」が2022年の元日にこんな歌を歌うなんて、バブル時代じゃあるまいし、ミソジニーと言われても仕方ないだろう。おそらくプレスリリースにもとづいた記事には、「恋愛におけるプライドの高い女性の姿をストレートな表現で込めた」歌詞と書かれていた。うーん……、これってプライドの高い女性なのだろうか?単なる傲慢というか嫌な女、痛い女、むしろ卑屈な女ではないか。プライドの話だとしてもそのプライドの源は「自分を手に入れた男」……。近年ブームのガールクラッシュの最先端の強くカッコいい女を表現したかったのだろうが、古臭いマッチョなヒップホップの歌詞を男女反転させただけになっているように見える。

マイノリティとしての女性の異議申し立てであったMeToo、その流れのもとにあるフェミニズムの主張と連帯への志向も反映されていたかのようなガールクラッシュの、おそらくその先を目指したはずが、またさらにひねりを加えたはずが、かつての男たちの姿を反転させただけになってしまったのだろうか。「女の敵は女」とにやつく男たちの姿が透けて見えるような誰も幸せにしない歌詞ではあるが、倫理的な問題があるとまでは思わない。また他のアーティストだったらこんなものだとして流されていただろう。

にもかかわらず落胆と戸惑いが広がったのは、それが今ここで彼女たちに期待されていたものとは真逆のものだったからだ。今回のプロジェクト名、略して「GOT」は、おそらくBoAの『Girls On Top』(2005)に由来している。同じユ・ヨンジン作詞作曲であってもこちらは、押しつけられる女らしさではなく、お金重視の男のルールに従うのでもなく、それらをはねのけ自分は自分として堂々と前に進むという、女性の「プライド」を歌ったいわばフェミニズムど真ん中の楽曲で、近年、再評価もされている。

若い女性たちのエンパワメント、権力ある年長女性の義務と責任

カッコいいメンバーのカッコいいユニットにこんな歌を歌わせないで、という声も多く目にした。とはいえBoAはSMエンタの社外理事である。アイドル出身のアーティストとはいえある程度の権力、つまり裁量権や発言力は持っているはずだろう。こういう思い込みを含めて、ファンタジー抱きすぎ?ナイーブすぎ?なのかもしれないが、でもだからこそよりがっかりしたのだ。いやナイーブすぎでもないだろう。くどいようだが2022年の元日に初披露されたこんなプロジェクトなわけで、フェミニズム風味を商売に取り入れてくれて全然いいんですよ……、こちらそのつもりだったんですけど……、っていうのが率直なところだ。

最後に、恥を忍んで改めてナイーブさ全開、あえて大真面目に書いておけば、歳を重ね力を持った女性には若い女性たちをエンパワメントする義務と責任があると思う。そのようなシスターフッドなユニットだと思って期待したから、ギャップと台無し感が大きくてがっかりした。すべてはファンタジーでこちらの勝手な勘違いだったのかもしれないが、権力を持つ女性が率いる選りすぐりの女性たちのメッセージが、たとえ恋敵という設定であったとしてもそうではない女性への嘲笑や攻撃と受け取られかねないものであるのは残念だ(そもそもベタな恋愛の歌自体、このメンツにお呼びでないのだが)。歌詞が「強い」と形容されているようだが、それは強さではなく傲慢さ、そして卑屈さの裏返しにすぎないように見える。

もしこれが、このような反応も見越したうえでの偽悪的な「炎上商法」なのだとしたら、(たとえナイーブだと言われようが)やはり不誠実だと言いたくなる(エンタメなめんなよ)。アイドルは時代を映す鏡だし、ファンは推しの姿に自分を投影する。筆者の周囲の反応を見る限り、この歌詞によるイメージダウンは小さくないように感じているが、さてどうだろうか。Step Backされるのはいったいどっちだ――?

【1月10日に追記】歌詞を再検討し、文中ではもとからそう書いていましたが、改めて「私の彼氏がすごいのはすごい私を手に入れたから」となっていることがクリアになるように、文中の要約部を少し修正しました。最後の方に「男なんてみんな同じ/私が登場したら視線集中」って歌詞もあって(実はここの受け取り方ずっと考えていました)、うちの彼がすごいのも私のおかげだし、まあ男なんてどうせこんなんだからあんたなんかは無理して恋愛しなくていいわよーって歌なのかな、と思ったりもしつつ、でもねぇ、という。

「Step Back」 *()内の日本語訳は筆者

작곡:유영진, Dwayne Abernathy Jr., Taylor Monet Parks, 라이언 전

작사:유영진

편곡:유영진, Dem Jointz, 라이언 전

You must step back

어델 어델 봐(どこ見てるの)

너 감히 누구라고 날 제껴(いったい誰だと思って私の前に)

이쯤에서 물러나고(そろそろ引き下がって)

입 닫는게 좋을걸(黙った方がいい)

아님 어디 한번(それか一度)

기어 올라와 보던가(這いあがってくる?)

널 짝사랑을 했었니(昔された片思いなんて)

소꿉장난처럼 어릴 때(たかがおままごと)

엔간히 끼를 좀 끼를 좀 끼를 좀(どうせ色目ばっか)

네가 부렸겠니(使ってたんでしょ)

소싯적 추억 팔이(過去の思い出にひたって)

그리 재밌니(そんなに面白い?)

내 남잔 지금(私の男は今) Another level

너 따윈 꿈도 못 꿀(あんたには想像もできないそんな) Level

날 가진 그런(私を手中にしたそんな) Next level

보다시피(見ての通り) Another level

Don't bring it to me 꺼져줘(消えて)

내 거에서 손 떼 너(私のものから手を引いて)

Step back Step back

다시 태어나도 안될걸(生まれ変わったって無理だから)

Step back Step back

착한 남자들에게(優しい男たちには)

너는 독배 같은 것(あんたなんて毒薬)

마실수록 외로워(飲むほどに孤独で)

He's sick and tired everyday

넘지 말아(超えるな) Border line

Step back Step back

네가 비빌 곳이 아니야(あんたの出る幕はない)

Step back Step back

저울질로 가린 건(天秤にかけられたのは)

참지 못할 가벼운(耐えられない軽さ)

네 마음일걸(それはあんたの心)

He's sick and tired everyday

그런다고 네게 되나 들어봐(それでモノになるのか聞いてみて)

상상보다 너 같은 애들이 많긴 많아(あんたみたいな子、意外とよくいるけど)

그러거나 말거나(どっちにしても)

세상은 너를 빼고 돌아가 돌아가(世の中はあんた抜きでまわってる)

You gotta get a good mind

Are you looking for fun

재미를 또 찾니(楽しいことまた探して)

호의로 다가와(好意で近づいても)

이미 계산 끝나(もう精算終了)

공해상의 보물선을 보기라도 한 듯(大海で宝船を見つけたように)

막 들이대(狙いを定め)

시작해(始めて) Transaction

넌 좀 감당 못할(あんたには手の届かない) Level

세계가 무대인(世界が舞台の) Our Level

내 곁에서야 가능(私と一緒だから可能な) Level

보다시피(見ての通り) Another level

Don't bring it to me 꺼져줘(消えて)

내 거에서 손 떼 너(私のものから手を引いて)

Step back Step back

다시 태어나도 안될걸(生まれ変わったって無理だから)

Step back Step back

착한 남자들에게

너는 독배 같은 것

마실수록 외로워

He's sick and tired everyday

넘지 말아 Border line

Step back Step back

네가 비빌 곳이 아니야

Step back Step back

저울질로 가린 건

참지 못할 가벼운

네 마음일걸

He's sick and tired everyday

그와 함께했던 수많은 날들(彼と一緒の日々)

네 장난 같은 유혹에(あんたの遊びじみた誘惑に)

흔들리지 않아(揺らぎもしない)

사랑이란 감정을(愛という感情を)

거래하는 건(取引なんて) Too much

이제 그만 꺼져(消えて、もういい加減)

돌아가 네 세계(自分の世界に帰って)

다시는 착각은 말고(二度と錯覚はしないで)

남자들 다 똑같아(男なんてみんな同じ)

내가 뜨면 시선집중(私が登場したら視線集中)

여기저기 Flash 터져(あちこちでフラッシュ)

찍어라 찍어라 찍어라(撮りな、撮りな、撮りな)

상상은 너의(想像はあんたの) Freedom 

가지가지 하기 전에(あれこれやる前に)

속부터(中から) Build up 

더 나가면 넌 좀 다쳐(これ以上は痛い目にあうよ)

Girls Bring it on

Step back Step back Step back

Silly girl!

The only girl who live in a dream

Step back Step back Step back

Silly girl!

내 앞에서 좀 비켜줘(私の前からちょっとどいて) Yeah

Don't bring it to me 꺼져줘(消えて)

내 거에서 손 떼 너

Step back Step back

다시 태어나도 안될걸

Step back Step back

착한 남자들에게

너는 독배 같은 것

마실수록 외로워

He's sick and tired everyday

넘지 말아 Border line

Step back Step back

네가 비빌 곳이 아니야

Step back Step back

저울질로 가린 건

참지 못할 가벼운

네 마음일걸

He's sick and tired everyday

日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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