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朝鮮幼稚園外しか?理念は「すべての子ども」なのに、各種学校認可の外国人幼保施設が除外された幼保無償化

韓東賢日本映画大学教員(社会学)
2日、都内で行われた集会・パレードには5,500人が参加した(写真はすべて筆者)

 10月1日、幼児教育・保育の無償化(以下、幼保無償化)が始まった。各種学校の認可を受けた88の外国人幼保施設が除外され、関係者らは各方面への要請や抗議行動を続けている。11月2日には、そのうち40を占める朝鮮幼稚園の関係者ら約5,500人が都内で大規模な集会を行い、パレードした。

 除外の理由に正当性や合理性は乏しく、外国人の子どもが増加する現状にも即していない。各種学校というカテゴリーによって朝鮮学校差別を合理化してきた歴史や高校無償化・就学支援金制度をめぐる経緯などを考えると、「朝鮮幼稚園外し」の狙いが透けて見える。

■財源の半分は消費税増税による税収

 10月から始まった幼保無償化制度では、3~5歳児は原則全世帯、0~2歳児は低所得の住民税非課税世帯を対象に、幼稚園や認可保育所、認定こども園はすべて無料となる。認可外保育施設やベビーシッターについても共働き家庭などは補助の対象となるが、各種学校の認可を受けた外国人学校に付属する幼保施設は除外された。

 現在、各種学校の認可を受けた外国人幼保施設は88で、そのうち朝鮮学校の幼稚園が40施設、インターナショナルスクールやブラジル人学校などが48施設となる。

 幼児教育の負担軽減を図る少子化対策と、生涯にわたる人格形成の基礎を培う幼児教育の重要性を目的とした幼保無償化。その財源の半分は、同じく10月1日に実施された消費税増税による税収によってまかなわれる。

 これに向け5月、「子ども・子育て支援法」が一部改正された。その直後に開かれた都道府県等説明会で配付された「幼児教育・保育の無償化に関する自治体向けFAQ」によると、各種学校が無償化の対象にならない理由は以下のとおりだ。

(1)幼児教育を含む個別の教育に関する基準とはなっておらず、多種多様な教育を行っており、法律により幼児教育の質が制度的に担保されているとは言えない。

(2)学校教育法に基づく教育施設については、児童福祉法上、認可外保育施設には該当しない。

 だが、いずれも正当性や合理性に欠けると言わざるをえない。

■認可外やシッターが対象で各種学校が除外

 まず1点目。「すべての子どもが健やかに成長することを支援する」同法の理念からしても、様々な背景を持つ外国ルーツの子どもが急増する現状にかんがみても、さらに財源の半分を消費税増税分でまかなうことを考えても、「多種多様な教育」をわざわざ排除することに正当性はあるだろうか。たとえば今回対象となった幼稚園にしても宗教色があったり英語に特化していたりと画一的ではなく、幼児教育とはそもそも多種多様なものだ。

 また「多種多様な教育」を行っているから質を担保できないとしているが、両者は論理的に無関係だ。ベビーシッターや一時預かりも対象となっている今回の制度で、各種学校というしっかりした法的地位を得ていることを理由に「質の担保」ができないとして対象から外すのは、矛盾以外の何ものでもない。

 次に2点目。認可外保育施設とは、児童福祉法にもとづき1日4時間以上、週5日などの保育実態を持つ施設が都道府県に届け出ればその資格を得ることができるもの。児童福祉法およびその施行規則には、学校教育法にもとづく教育施設は届け出対象外であるとの規定はない。

 だとしたらそれが保育施設に該当するかどうかは児童福祉法で判断すればいいのであって、学校教育法にもとづく施設に併設されているかどうかは判断基準になりえない。実際、各種学校資格を持つ外国人学校のなかには、認可外保育施設の資格を持つところも存在していた。

 だが今回、政府が地方自治体にこの方針を周知することによって、いったんは受理された届け出が取り消されたり、各種学校認可の取り下げをすすめられている外国人幼保施設もあるという。つまりこれは、各種学校外しを徹底するための方針としか見ることができない。しかもその理由が、多種多様な教育やそれによって質が担保できないということなのだから、まさにためにする論理、マッチポンプでしかないだろう。

すべての子どもに幼保無償化をと訴える朝鮮幼稚園の保護者たち(2日、東京・日比谷野外音楽堂)
すべての子どもに幼保無償化をと訴える朝鮮幼稚園の保護者たち(2日、東京・日比谷野外音楽堂)

■周到に排除されるたった0.16%の各種学校

 日本政府が消費税の10%への増税と同時に幼保無償化措置の導入を決めたのは2017年末のこと。当初は幼稚園と認定こども園、認可保育所の「認可施設」だけが対象だったが、認可施設に入れない子どもが対象外になるのは不公平だという声に応え2018年12月、「認可外」も含めるとした関係閣僚合意を決定した。だがこの決定は、「各種学校については、幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため、無償化の対象外」と明らかにするものでもあった。

 表向き「すべての子ども」を対象にした政策で、今回、対象になった施設総数の0.16%程度にすぎないにもかかわらず、わざわざ周到に排除される「各種学校」カテゴリーとはどのようなものか。

 日本の学校は、学校教育法により一条校(学校教育法第1条で定められた小、中、高校、大学、幼稚園および特別支援学校など)、専修学校(専門学校と高等専修学校など)、各種学校(その他)の3種に分類され、それぞれの地位に応じた処遇を受けている。

 小中高の場合、文科省の学習指導要領に従ったカリキュラムで検定教科書を使用し、国の定めた教員資格を持つ者が教えるのが「一条校」だ。要は一般的に言う学校のことで、設置のハードルも地位ももっとも高い。

 「専修学校」は、同法によって「職業もしくは実際生活に必要な能力を育成し、または教養の向上を図る」ことが目的とされ、細かく設置基準が定められている。進学や編入学などとくに資格面において一条校との連携も進んでいるが、同法が「わが国に居住する外国人をもっぱら対象とするものを除く」とわざわざ規定しているため、朝鮮学校をはじめとする外国人学校、インターナショナルスクールのほとんどは、一番低い法的地位の「各種学校」となっている。

 「各種学校」は、同法によって単に「学校教育に類するもの」とされ、制度上とくに積極的な意義づけがされていない。設置基準は比較的緩やかで、国の規制がほとんど加えられないことから、普通学校ではない自動車学校や洋裁学校、料理学校などが主に属している。もともとは国庫補助も大学をはじめ上級学校に入学する資格もなかったが、近年、各種学校のなかでも高校相当と認められた朝鮮学校以外の外国人学校、インターナショナルスクールには、大学受験資格が付与されたり、高校無償化・就学支援金制度が適用されるなど、分断がはかられている。

 では、その経緯を見て行こう。

■60~70年代、外国人学校規制強化の企図

 このような現行制度がつくられたのは1975年である。それまでは、現行とほぼ同様の制度化された全日制の普通の学校としての「一条校」と、それ以外の、明確な規定のない制度化されていない学校としての「各種学校」の2種だった。

 1966年、日本政府は外国人学校の恣意的な統制権を国の下におき規制強化をはかる、新たな外国人学校制度の創設を打ち出した。外国人学校の教育は日本の国益に反してはならないとしたうえで、許認可権を文部大臣が直接持つこととし、認可条件に合致しなくなった場合は文部大臣が直接立ち入り調査や変更命令、中止命令、閉鎖命令をくだすことができ、これに違反した場合には罰則を設けることもできるというものだ。

 こうした内容を盛り込んだ学校教育法一部改正案は、「一条校」と「各種学校」という2種の分類だった当時の学校制度を、「一条校」「専修学校」「外国人学校」の3種に改編するかたちになっていた。ここで「専修学校」の新設は多様な教育の振興策として位置づけられていたが、「外国人学校」の新設は、前述したとおり外国人学校――事実上はその9割を占めていた朝鮮学校――の規制強化をはかるという政治的な狙いを持っていた。

 その背景には、韓国政府による朝鮮学校閉鎖要求もあったと言われている。実際、日韓基本条約が締結された1965年12月、「朝鮮人としての民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校」は、一条校どころか各種学校としても認可すべきではないという文部次官通達が各都道府県に出されていた。

■各種学校という法的地位で差別を合理化

 法案は、単独の「外国人学校法案」などにかたちを変えながら1972年まで7回にわたり国会に提出されたが、世論の反対ですべて廃案となった。その後、専修学校新設案だけが生き残って1975 年に制度化され、「一条校」「専修学校」「各種学校」という3種による現行体制となった。ところが、専修学校新設にともない改定された学校教育法は、専修学校を「わが国に居住する外国人をもっぱら対象とするものを除く」とわざわざ規定した。

 前述したように、文部省が1965年の事務次官通達で朝鮮学校を各種学校としても認めないよう指示していたにもかかわらず、1975年までにはすべての朝鮮学校が独自の判断をした各都道府県から各種学校としての認可を得ていた。つまり、外国人学校法を成立させられなかった政府は、各種学校から分離するかたちで格上の専修学校を新設することで、各種学校としての地位を築きつつあった朝鮮学校を相対的に格下げし、排除することを狙ったのだ。

 1975年の専修学校制度新設によって、規定を満たすほとんどの各種学校が翌1976年に専修学校に移行した。その後、とくに一条校との連携面で専修学校の格上げが進み、いいずれも条件付きだが1985年度から高等課程に大学入学資格が付与されるようになり、1999年度からは専門課程修了者の大学編入学も可能になった。

 こうして生まれた制度のもと90年代まで、朝鮮学校を「普通の学校」と認めず資格や助成その他の面で著しく不利な状況に留め置く日本政府の差別政策は、各種学校という法的地位によって合理化されてきた。

■大学受験資格、朝鮮学校だけ個別認定

 その後、こうした各種学校カテゴリーの矛盾があらわになった出来事が、2003年に起きた大学入学資格弾力化問題だ。

 これは当初、英米3つの学校評価機関に認定されたインターナショナルスクール16校(1校は無認可校)の卒業生には無条件で大学の受験資格を与える一方で、朝鮮学校や韓国学校、中華学校などは除外されるという決定だった。背景には対日投資の増加にともない、在日外国人の子どもたちの便宜をはかるよう求める政財界の声があった。しかし、そのほとんどが同じ各種学校の法的地位にあるインターナショナルスクールと他の外国人学校を区別できる合理的な根拠はない。

 実は、2002年夏まではすべての外国人学校を対象とするかたちで検討されていた。だが、省内と当時の与党自民党の一部の抵抗により、朝鮮学校の扱いをめぐって決定が先延ばしされているうちに、同年9月の日朝首脳会談で拉致問題が表面化。文科省は、英米の評価機関の認定という基準を持ち出すことで、政治問題化した朝鮮学校だけでなく、いったんはその他の外国人学校も一緒に切り捨てた。

 その後結局は、当事者らの異議申し立てや世論の強い批判もあって、「本国認定」という新たな基準を立てて朝鮮学校以外の各種学校、欧米系以外の外国人学校を取り込む一方、日朝に国交がないため「公的に確認できない」という理由で朝鮮学校のみは大学ごとの個別認定とし、2004年4月から弾力化はスタートした。だが、個別認定の審査は各大学にゆだねられており、朝鮮学校の卒業が大学受験の資格になるわけではない。つまり各種学校のなかで、朝鮮学校「だけ」が排除されたかたちだ。

■朝鮮学校だけ除外、高校就学支援金制度

 また記憶に新しいのが、当時の民主党政権が2010年4月から実施した高校無償化・就学支援金制度から朝鮮学校だけが除外された問題である。

 この制度は、家庭の教育費の負担を軽減して教育の機会均等をはかることを目的に、公立高校の生徒からは授業料を取らず、私立高校および各種学校の資格を持つ外国人学校・インターナショナルスクールに通う生徒には、学校を通じて公立高の授業料相当分の就学支援金を支給するというものだ。

 朝鮮学校も他の各種学校カテゴリーの外国人学校同様、外形的に判断され対象になる見込みで予算も組まれていた。それまでの自民党政権が戦後一貫して朝鮮学校については政治的外交的な問題とみなして教育問題として扱わず、可能な限り排除するというスタンスを各種学校という枠組によって合理化してきたことを考えると、民主党政権が、一条校だけでなく各種学校の地位にある高校相当の外国人学校に通う生徒まで国からの経済的支援の対象にしたことは、画期的だった。

 だが、2010年3月の法案成立を前にして、当時の中井洽拉致担当相が北朝鮮との外交問題を理由に朝鮮学校を除外するよう文科相に要請したことをきっかけに、政府、与野党内外から異論が出始め、4月の制度開始において、各種学校カテゴリーの外国人学校のなかで朝鮮学校のみが法・制度的な根拠なく適用留保とされた。

 その後、専門家会議が発足し、個々の教育内容は基準とせず、外交上の配慮ではなく教育上の観点から客観的に判断すべきとの適用基準が示され、朝鮮学校の審査が始まったが、11月、当時の菅直人首相が北朝鮮による韓国への砲撃事件を理由に審査の中止を指示した。翌2011年8月に手続きは再開されたが、審査はずるずると引き延ばされたまま、2012年12月に民主党政権が終わりを迎えた。

 3年ぶりに返り咲いた自民党政権は2013年2月、ただちに省令改定によって朝鮮学校を念頭に設けられていた根拠規定そのものを削除したうえで、朝鮮学校に不指定処分を下した。ルールにもとづいて受理した適用申請について、まだ審査中であったにもかかわらず後出しじゃんけんでルールを変更して却下したのだ。

集会・パレードでは、子ども連れの参加者の姿が目についた(2日、東京・日比谷野外音楽堂)
集会・パレードでは、子ども連れの参加者の姿が目についた(2日、東京・日比谷野外音楽堂)

■今この社会に生きる子どもたちを直視せよ

 これを不当で不法だとした学校側が大阪、愛知、広島、福岡、東京で国賠訴訟を起こした。東京、大阪では原告敗訴が確定しているが、司法による政権への忖度をにおわせる判決で、展開された国側のロジックは苦しまぎれの詐術に近いものだった。

 おそらく政府は、当時の民主党政権による各種学校を含む制度設計が発端となった一連の経緯を踏まえて、いわば現政権としてはその「教訓」から、今回の幼保無償化にあたっては朝鮮学校への差別を合理化する狙いで、再び「各種学校」という強固な法的枠組を持ち出したのだろう。

 朝鮮幼稚園保護者たちによる要請の席で日本政府側は、「各種学校を取り下げ、認可外保育施設になれば無償化の対象になる」との主張を繰り返しているという。関係者の間からは、1970年代までに勝ち取ってきた各種学校認可そのものの切り崩しを狙っているのではないかという疑念の声もあがる。

 とはいえ、現行の制度的枠組みがつくられた1975年から44年が経っている。この間、在日外国人は5倍近くに増加した。また当時はその80%以上を在日コリアンが占めていたが、今では10%台だ。こうしたなか、様々な背景を持つ外国ルーツの子どもたちの増加と教育ニーズの多様化にともない、公教育での対応の遅れもあって外国人教育施設も増えている。

 今回の幼保無償化における各種学校除外は、朝鮮学校差別に固執するあまり、政府がこのような現状に目を閉ざしていると言われても仕方ないだろう。朝鮮学校差別への固執も、現実を見ないことも、つまり政府は二重に間違っている。外国人施設に通っていようが今この社会に生きる子どもたちを直視し、制度の趣旨にある「すべての子ども」として扱うべきだ。

 幼保無償化制度は、各種学校以外にも無認可のいわゆる幼稚園類似施設も除外されるなど取りこぼしの欠陥が多く、批判が相次いでいることから、来年4月に向けて制度の見直しが進められているという。まずはその見直しにおいて、どのようなロジックであっても朝鮮幼稚園を含む外国人学校幼保施設を再び除外することがないよう注視したい。

2日、都内で行われた集会・パレードで
2日、都内で行われた集会・パレードで
日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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