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歴史的に関係が深く定着しているほど差別されるネットという場――法務省外国人住民調査から

韓東賢日本映画大学教員(社会学)
15日、都内で行われたシンポジウムでも法務省調査の内容が報告された

■廃れないTwitter、私の撤退

新たに登場したSNS「マストドン」が話題を呼ぶなか、ネット達人の知人がFacebookに「気付けば2007年4月にtwitterを始めて10年経っていたわけで、10年持つネットサービスというのもすごい、あとはヘイトスピーチ対策をちゃんとしてこれ以上2ちゃんねる化しないといいのだけど……」と書いていた。「Twitter、意外と廃れないですよね……」と、私はコメントした。

私はこの知人に少し遅れて2009年7月にTwitterを始めた。当初は楽しかったが、東日本大震災が起きた2011年前後から、へイトスピーチが目に余るようになってきた。プロフィールで出自を明らかにし、言いたいことを言ってきた私は粘着してくるヘイトスピーカーに耐えられず、結局、撤退した。アカウントは今も生きているが、2015年1月から用途を仕事の告知だけに限定した。

そんなTwitterが、10年生き残っている。そういうメディアだから生き残るのかな、という思いもよぎり、正直悔しい。社会の縮図ということなのだろうか。

■日本で暮らす外国人の現実

3月末、法務省の委託によって行われた外国人住民調査の結果が公表された。今回の調査の最大の特徴は、外国人を対象にその被差別の実態に関する、国による初めての包括的な調査だということだ。

まんべんなく偏りのないサンプルとなっており、差別を取り扱ううえで必要な「日本社会への定着度」に関する設問もあることから、差別のみならず在日外国人の実態を認識するうえでも有用な資料になっていると思う。

たとえば日本語での会話力を見ると、「日本人と同程度に会話できる」が29.1%、「仕事や学業に差し支えない程度会話できる」が23.4%、「日常生活に困らない程度会話できる」が29.7%で、これらを合わせると82.2%となる。

また「日本人の知り合いはいなし、つき合ったこともない」が1.6%とかなり低い一方で、「日本人と一緒に働いている(働いていた)」は74.3%と高く、「友人としてつき合っている(つき合っていた)」も59.1%を占めている。

さて読者の皆さんはどう思うだろうか。これが「日本で暮らす外国人」の現実だ。

■利用を控えたり出自明かさず

こうした実情とも関係してくるが、今回の調査のなかで私にとって大変目を引くデータがあった。インターネット利用における差別実態に関するものである。

報告書によると、普段インターネットを利用すると答えた3,396人のうち、「(1)日本に住む外国を排除するなどの差別的記事、書き込みを見た」は41.5 %にのぼった。また「(2)上記のような記事、書き込みが目に入るのが嫌で、そのようなインターネットサイトの利用を控えた」は19.8%、「(3)自分のインターネット上の投稿に、差別的なコメントを付けられた」は4.3%、「(4)差別を受けるかもしれないので、インターネット上に自分のプロフィールを掲載するときも、国籍、民族は明らかにしなかった」は14.8%だった。

まずここで重要なのは(2)や(4)のように、利用を控えたり利用方法を変えるなど、外国人でなければ不要な対応を取らざるをえなかったということ、つまり「実害」が生じているということだ。

さらに、報告書にはここまでしか書かれていないのだが、同時に公表された集計表の詳細な内訳を見ると(Excelデータのパーセンテージは無回答を除いた数値を母数にしているので、以下は実数をもとに再計算)、このようなインターネット上の「実害」を受けている被害者が、日本生まれであったり日本への定着度の高い、旧植民地にルーツを持つ人々――いわゆる「オールドカマー」に偏っている傾向にあることがよくわかる。

■平均を大きく上回る「日本生まれ」

「(1)日本に住む外国を排除するなどの差別的記事、書き込みを見た」は全体では41.6 %だが、国籍・地域別にみると中国が47.6%、韓国が67.7%、朝鮮が78.3%となる。在留資格別でも特別永住者が64.7%、日本での在留期間も「生まれてからずっと」が71.6%、「40年以上」が58.9%となる。

次に、「(2)上記のような記事、書き込みが目に入るのが嫌で、そのようなインターネットサイトの利用を控えた」は全体では19.8%だが、国籍・地域別で中国が21.9%、台湾が27.5%、韓国が37%、朝鮮が47.8%となる。在留資格別では特別永住者が31.9%、日本での在留期間も「生まれてからずっと」が36%となっている。

また、「(3)自分のインターネット上の投稿に、差別的なコメントを付けられた」は全体では4.3%だが、国籍・地域別にみると中国4.8%、韓国6.4%、朝鮮8.7%、在留資格別では特別永住者が5.8%、日本での在留期間も「生まれてからずっと」が7.2%だ。

さらに、「(4)差別を受けるかもしれないので、インターネット上に自分のプロフィールを掲載するときも、国籍、民族は明らかにしなかった」は全体では14.9%だが、国籍・地域別で中国17.5%、韓国27.4%、朝鮮52.2%、在留資格別で特別永住者29.5%、日本での在留期間も「生まれてからずっと」が39.0%にのぼる。

こうした数字は、「朝鮮籍」で日本生まれの特別永住者である私の実感とも完全に合致する。

ヘイトスピーチ解消法の成立から来月で1年となる。私は、マストドンのアカウントを作るかどうかまだ決めていない。

日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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