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統計への苦手意識は克服できる! 誰でもすぐに取り組める統計リテラシーの高め方とは

羽田野健技能習得コンサルタント/臨床心理士/公認心理師/合同会社ネス

統計を専門としない人でも、「データを用いて説明する力」が広く求められるようになりました。書籍を買ったり、WebサイトやYouTubeをみたり、有料の研修コースを受講したりする人も増えています。

筆者が支援する技能五輪選手の育成においても、育成手法の効果や育成の成果を検証する際に、客観性を重視する観点から統計手法を使った分析が重視されるようになりました。

例えば「5分で・何を・どのくらいの精度でできるか?」というように、時間当たりの作業効率に関するデータを収集・分析し、より効率的な方法を開発するスキルも、最近の指導者には求められるのです。

このように、さまざまな場面で統計を使用する機会は増え、学習ニーズも大きく高まっているのです。

統計に自信がもてない

ところが学んでもいざ統計を仕事に活かそうと思うと、いまいち自信を持てない人も多いように思います。

特に、数学に苦手意識を持っている人はこの傾向が顕著と思われます。文献1によれば、数学の成績に自信がないと、統計に対する自信も低くなる傾向があるようです。

では、数学に苦手意識を持っているけれど仕事で統計を使わなければならない人、使いたい人はどうすればいいのでしょうか。

社会人になってから頑張って数学の苦手を克服するというのは非現実的です。もちろんそれを目指して努力したい人もいるでしょうが、苦手なものには苦手な理由があり、取り組んでも大きな成果につながりにくいものです。

統計リテラシー自己効力感

ヒントは、統計リテラシー自己効力感にあるように思います*文献1。

統計リテラシー自己効力感は、一言でいうと「統計への自信」です。具体的には、平均、確率、グラフ、推論、サンプリングなどの基礎的な統計手法を用いて、統計情報を偏りなく客観的に読み解くことへの自信です。

図1
図1

文献1では、「統計への自信」を測定する9項目の尺度を作り、中高生向けに統計の授業を行いました(図2)。その結果、授業前と比べて8つの項目で小〜中程度、「統計への自信」が向上しました。

図2
図2

「統計への自信」の内容や授業には、実は高度で複雑な統計分析の手法は含まれていません。これは対象が中高生だったからという可能性もありますが、大事なのは、データが適切に集められているか、平均の使い方が適切か、グラフ化の方法は適切か、このデータからこの結論を導き出すのは妥当なのかを見極める力ということになります。

言い換えると、大事なのは「データや結論を偏りなく客観的に見る力」なのです。

極端な話、統計の専門家を目指すのではないなら、高度で複雑な分析方法を知っている必要はなく、データの集め方や、平均を比べる際の注意点、データのまとめ方などにおいて、偏りなく多角的に判断するためのポイントがわかっているなら、それで十分とも言えるかもしれません。

統計への自信は日々の生活の中でも磨ける

そうだとすると、毎日の生活や仕事の中でも、統計リテラシーを高める取り組みは可能と思います。

例えば、以前の記事で紹介したタイムボックスをアプリなどで記録していれば、ある週で何の仕事にどのくらい時間を使ったかの平均を求めて比べることができ、そこから何らかの結論を導くこともできます。それを踏まえ次の週は、「本当にあの結論は適切だったか?」という批判的な視点から、再び検討することもできます。

また、テレビやネットで報じられる様々な統計データを目にした際に、「このデータの取得方法は偏っていないか?(サンプリング)」とか、「この結論に違う見方はないのか?(結論の批判)」などと問いをたて、批判的に読み取ることもできます。

こうした視点や問いの繰り返しが、その人の統計リテラシーを育み、実際に仕事でデータを扱うときに偏りなく客観的に判断することにつながるのではないでしょうか。

まずは気軽で手軽に試せることからスタートし、面白いと思ったら少しずつ専門的な分析方法で遊んでみる、くらいの感覚がちょうどよいのかもしれません。

参考文献

・文献1:伊川美保, & 楠見孝. (2020). 統計リテラシー自己効力感尺度日本語版の作成. 心理学研究, 91, 133-141.

技能習得コンサルタント/臨床心理士/公認心理師/合同会社ネス

技能の習得・継承を支援しています。記憶の働き、特にワーキングメモリと認知負荷に注目して、技能の習得を目指す人が、常に最適な訓練負荷の中で上達を目指せるよう、社内環境作りを支援しています。主なフィールドは、技能五輪、職業技能訓練、若者の就労、社会人の適応スキルです。

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