いま、人と対面しやり取りする機会には厳しい制約があり、人材育成の場面でもその影響は顕著です。筆者が支援する技能五輪をはじめとした技能者の育成訓練でも、今年は訓練時間や使える予算などが例年と比べて大きく減少しているというお話をうかがいます。

そのような中で技能の習熟度を高めるには、いかに学ぶ効率を上げられるか、が重要なテーマとなります。その中でも特に注目されるのが、学ぶ人同士がお互いに「教えあう」効果についてです。

本記事では、専門論文誌「心理学研究」に報告された最新の「教えあい」に関する研究を参考にしながら、解説していきます。

教えあいとは

教えあいとは「何かを学ぶ人同士が、お互いに教えあう」行為のことです。

これは技能訓練に当てはめると、訓練を受ける人同士が、互いに教えあうこととなります。

例えば、企業の訓練では先輩が後輩に教えるとか同期が互いに教えあうとかの場面に相当し、公的機関での訓練なら受講者同士が教えあうことなどが相当します。

でも、指導者からすれば未習熟な人同士がお互いに教えあっても意味があるのでしょうか?

成績上位の企業ほど、教えあいが組み込まれている

教えあいに関する研究では、教えあうことで教え手と聞き手の双方が、学んでいることについての理解をより深める効果があることが示されています*文献1。

筆者の経験ベースとなりますが、技能五輪において成績が上位の企業ほど何らかの形で「教えあい」の仕組みが訓練に組み込まれていると感じます。そこには、後輩の育成やお互いに切磋琢磨しあう文化の醸成はもちろん、学ぶ効率の向上という効果も潜在していると考えられます。

一方、成績中位以降の企業ほど一人ひとりが独立して訓練する傾向があるように思われます。

この背景には、教えあいが表面的には非効率に見えてしまう点があると考えられます。

そもそも選手が1人しかおらず学習者同士の教えあいが難しいケースもあるものの、「人に教えている時間があったら自分の訓練をした方がよい」「聞き手にとってはプラスでも教え手にとってはプラスにならない、無駄である」などの考え方が根強いのだと推察されます。

教える側にも実は大きなメリットがある

実は教えあいは、聞き手にだけでなく教え手にとってもプラスの効果があります。

例えば、教え手は教えるプロセスの中で、「いま自分が何をわかっているか」、「相手はどのくらいわかっていそうか」、「自分と相手の違いはどういうところにありそうか、」について確認しながら教えていきます。この確認を、モニタリングといいます。

図1.文献3を参考に著者が作成
図1.文献3を参考に著者が作成

教え手はモニタリングを通し、新たな課題を発見したり、自分の成長を実感して自信を得たり、「あれ、自分のやり方ってこうした方がもっと良くなるんじゃないの?」と改善や向上の気づきを得たりすることができます。つまり、教え手の学習効率が高まっていると言えます。

なお教え手がモニタリングを意識的にやらないと、一方的に説明することになってしまい*文献2、教えあいの効果が高まりにくいようです。

効果の高い教えあいでは、聞き手側も「説明」する

もちろん聞き手の側のモニタリングによっても、教えあいの効果は高まります。

日本大学の篠ヶ谷先生の研究では、教え手の意図や考えを理解しようしている聞き手は、教えあいの中で自分から説明することが多くなるという分析結果が示されています*文献3。

この理由として、「説明を自分ですることで、理解を補ったり深めたりしているのでは?」と考察されています。

教え手ではなく聞き手が説明するというのは変に感じられるかもしれませんが、これは筆者自身、非常に思い当たるものです。筆者は学ぶ立場、理解する立場にあるとき、相手から聞いた説明に対し必ず自分の言葉で「こう理解しました」と説明するクセがあります。念押ししているみたいで相手に悪いなと思いなが、そうしないと腑に落ちにくいので、相手に付き合ってもらっていたのです。

そういう行動にも、学習の効率を高める効果があったかもしれないというのは、個人的に嬉しい発見でした。

誰かと教えあうことで、人の学習効率は高まるのかもしれない

一人で学ぶことは大切ですし、独力での学習にももちろん効果はあります。でも、一人で学ぶ力がある人が、もし教えあいの方法の効果も利用できるとしたら、学ぶ効率はもっと高まる可能性があります。

とりわけ教える側にはメリットが見えづらいかもしれませんが、わかりやすく説明したり、質問にこたえりすることによって、記憶が整理されたり、新しい視点に気づいたりすることはよくあります。

以前、ある技能五輪選手に、自分の訓練時間を割いて後輩に教えることは大変ではないかときいたことがあります。彼のこたえは「自分も後輩の反応から学ぶつもりでやっているし、後輩の考え方から逆に気づかされることもあるので、お互いにメリットしかありません」というものでした。

つまり、自身の技能をバージョンアップさせる機会につながっているのです。

以前に燕市の包丁メーカー「藤次郎」でお話を伺った際、オープンファクトリーを導入したことで社員の学ぶ効率も上がったというお話も印象的でした。

藤次郎株式会社のオープンファクトリーの様子。著者撮影
藤次郎株式会社のオープンファクトリーの様子。著者撮影

オープンファクトリーは典型的な「教えあい」ではありませんが、それを作るプロセスは、効果的な教えあいのプロセスと似ているように感じます。熟練者が「自分たちは何を理解しているか?」を整理し、「来てくれる人(聞き手=初心者である来訪者)は何を知っているか?」を理解しようとし、「両者にどんな違いがあるか?」を確認しながら作るからです。そこからの副産物として学ぶ効率が上がったのかもしれません。

参考文献

  • 文献1:Bloom, B. S. (1984). The 2 sigma problem: The search for methods of group instruction as effective as one-to-one tutoring. Educational researcher, 13(6), 4-16.
  • 文献2:深谷達史, 植阪友理, 田中瑛津子, 篠ヶ谷圭太, 西尾信一, & 市川伸一. (2016). 高等学校における教えあい講座の実践. 教育心理学研究, 64(1), 88-104.
  • 文献3:篠ヶ谷圭太. (2020). 教えあいにおけるモニタリングと発話の関連.心理学研究, 91-19212.