近年、動画の撮影が手軽になり、知識やスキルを指導する際に動画を撮影し、その映像を見ながら指導することが増加していると感じています。技能五輪の訓練においても、動画を活用した指導は当たり前となっています。

ただ、手軽に行える一方で、必ずしも動画を有効活用できていないケースもあり、試行錯誤の状態です。

この記事では、動画を利用した技能の指導を、ざっくり「見る」と「指導する」に分け、

その効果的な指導のポイントについて考えます。

動画を見る

まず、「見る」について考えてみます。「見る」を視覚情報の処理という観点から捉えた場合、2つのことが影響すると考えられます。

1つ目は映像のどこに注目するかです。これは、注意焦点と呼ばれます。

著者撮影
著者撮影

例えば、写真のヨーグルトで、どちらが「脂肪0」なのか見分けるとします。いつも買い慣れている人は、たとえ小さな画像でも、すぐに「脂肪0」という文字に注意焦点を向けることができます。こうした働きは、選択的注意と言います(「わからないから見ない」渋谷駅の構内図と選択的注意)。

2つ目は、集中力の持続時間です。これは持続的注意と呼ばれます。

文献1では、著者が集中力の持続時間は10~15分程度と見積もり、講義する際は「10分ルール」を設定して、講義が10分毎に話題を切り替え、注意が逸れないよう工夫している例が紹介されています(p119)。

以上の点を考えると、熟練者である指導者が動画を利用して初心者に指導する場合、熟練者が想像するよりも初心者の選択的注意が働きにくい可能性や、集中力の持続時間を超えている可能性があると言えます。

動画で指導する

動画を見ながらの指導は、指導する熟練者が指導を受ける人とコミュニケーションをとりながら行います。そして、どのような目的で、何を伝えるか、あるいは質問するかが重要です。

その例が、アメリカのESPNというスポーツ専門のニュースサイトの記事に掲載されていました。

記事では、NBA(全米バスケットボール協会)のあるチームで、新人選手に対して、監督とコーチが映像を見ながら指導する場面が取り上げられ、監督やコーチが選手に対して、動画のどのような点に注意焦点を当て、どういった言葉で指導していたかが詳細に描写されています。

以下に、やり取りを一部抄訳します。ユタ・ジャズというチームのスナイダー監督とアシスタントコーチが、新人選手ミッチェルと動画分析のセッションを行っている場面です(読みやすさを優先し、主要人物の名字のみ記載し、それ以外は「味方」としています。原文はフルネームで、どのような場面で、選手がどうプレーに関わったかが具体的に記述されています)。

映像が始まるとすぐに、「何があったの?」とスナイダーはミッチェルにたずねた。ミッチェルがウィングにいる味方にパスし、別の味方がレイアップに行くためのスペースを作ったところだった。

スナイダーは映像セッション中に、ちょっとしたクイズを何回も出し、ミッチェルに自分の思考プロセスを説明するよう求める。

ミッチェルは、何気なく見ているファンでは気づかないような目立たないスクリーン・プレーを指差し、「この時味方に、”僕がこの選手を引きつける”と言ったんだと思います」とこたえた。

スナイダーは「その通り。わかってるね」と、映像を見ながら言った。

出典:Inside the film sessions that helped turn Donovan Mitchell into Utah's No. 1 option

記事では他にも、動画でなければ気づかないような些細な要素や、つながりの見えにくい因果関係などを、監督やコーチとの対話を通して、新人選手が共有していく様子が描かれています。

そのコミュニケーションの要点は以下の7つにまとめられます。

  1. 「何が起こったのか」のような事実を確認する簡単な質問をし、思考のプロセスを説明するよう促す。
  2. 結果に間接的な影響を与えるプロセスや要素を指摘する。
  3. それが結果に対してどういう意味を持つか説明する。
  4. 結果的に失敗となったが、正しいプロセスを踏んでいた箇所を指摘する。
  5. 成功した場合、なぜ成功したのか、なぜそう出来たのか説明するよう促す。
  6. たとえ些細なことでも、普段取り組んでいることが発揮されていればそれを指摘する。
  7. 正しい行動を選択しなかった場面では、そこでどんな行動とるべきだったか説明する。

上記の引用は、1、2、6に相当します。

この新人選手は、ドラフトの段階ではそれほど評価が高くなかったものの、みるみる頭角を現し、マイケル・ジョーダンの持つ新人記録を一部更新するなど、大活躍のうちにルーキーシーズンを終えました。

見えないプロセスを共有する

単に動画を見せるだけ、指導者が一方的に解説するだけでは、どの点に注意焦点を当てるべきか、どういう判断でそういう行動を選択したか、共有することが難しいものです。

効果的に指導を行うには、見るべき場所を見られているかや、動画の長さが集中力の持続時間(文献では10~15分)に対して適切かといった情報処理の制約に留意することが、重要です。

しかし、留意しても、指導者が一方的に話すだけでは、初心者の学習は思ったように進みません。スナイダー監督のように対話を通して、思考プロセスや判断基準を共有することもポイントと言えそうです。

それぞれの指導現場には人的、時間的、物理的に様々な制約があるもので、理想的な動画活用は難しい面もあると思います。しかし、認知負荷を適度に抑え、思考プロセスの言語化を一部でも実践できれば、動画をより効果的に活用した指導が可能になると思います。

[文献1]ジョン・メディナ著. 小野木明恵訳. (2009)ブレイン・ルール. NHK出版, 東京.