技能教える場面では、教える側が「このやり方を取り入れて欲しい」とか、「こういう課題に取り組んで欲しい」と思うことがあります。

しかし残念ながら、教えられる側にその気がなくて、そういったやり方に取り組まないこともあります。この記事では、フォッグの行動モデルを下敷きにして、難易度と魅力という2つの要因から、「取り組んで欲しいことに取り組まない」現象を分析してみます。

フォッグの行動モデルは、行動を起こすには、モチベーション、能力、きっかけの3つ要素が同時に集結しなければならない、ということを示しています。行動が起こらないなら、少なくとも3つの要素のどれか一つが欠けているとされます(behaviormodel.org)。

このモデルでは能力、モチベーション、きっかけの3つの要素が適切に組み合わさった時、人が行動を起こすと考えます。能力とは、その行動が、それをやる人の能力に対して難しいか簡単かで、難易度とも言えます。モチベーションは、それをやる人にとってモチベーションが高まるような魅力を持つのか、あるいは退屈かです。きっかけは、行動を促す合図や、働きかけなどを指します。

行動モデルで「取り組んで欲しいことに取り組まない」を見てみると、「取り組んで欲しいこと」の難易度や魅力、そのきっかけに、課題があるのかもしれません。この記事では、特に前者2つに注目してみます。

例えば、作業の失敗原因を見つけるための5つの手順があり、それを取り入れて欲しいとします。これを、難易度と魅力という切り口で分析すると、まず、難易度は、その手順を実行することが、教えられる側にとってどれくらい大変かです。もし全く聞いたこともやったこともないものであれば、5つ実行するのは大変かもしれません。しかし、その内1つか2つなら、簡単と感じ、実行する可能性があります。

次にモチベーションは、5つの手順が教えられる側にとってどれくらい魅力的かです。5つの手順を実行すると高い確率で失敗の原因がわかるとか、時間を節約できるとか、考える手間を省けると考えれば魅力は高いでしょう。反対に、言われた通りにやるだけでつまらない、面倒だなどと考えれば、魅力は低く、退屈なものとなるでしょう。

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こう考えると、取り組む行動が教えられる側にとってどれくらい難しいか、あるいはどれくらいモチベーションを引き出すような魅力があるかによって、行動するかどうかが変わるのかもしれません。

したがって、教えられる側にとっての難易度と魅力をどう調整するかが、「取り組んで欲しいこと」を行動に移すカギの一つと言えます。5つの手順が魅力的なら、難易度が高いと感じても取り入れると言えます。また、魅力が低くても、簡単に出来ると感じれば取り入れると言えます。

ただ、何が魅力的かや、難易度をどう捉えるかには、個人差があるでしょう。また、教える側と教えられる側の熟練度によっても、違なりそうです。

例えば、以前、海外で知人に初めてサーフィンに連れて行ってもらったのですが、離岸流に乗って200mほど沖まで行くことになり、魅力を恐怖が上回った経験があります。しかし、サーフィンに慣れた熟練度の高い人にとって、その場所は大きな波に比較的長く乗れるため、とても魅力的なのだそうです。

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これは一例ですが、慣れた人や熟練者にとってやりやすく魅力的な方法が、慣れない人や初心者にとってはやりにくく魅力的ではない場合があります。

また、慣れた人や熟練者は自分の能力を試されるような難しいことにやり甲斐を感じる一方で、簡単なものにはやり甲斐を感じないかもしれません。しかし、慣れない人や初心者はどちらかというと簡単に出来ることに魅力を感じ、反対に難しいことには魅力を感じにくいかもしれません。

ここにミスマッチが存在します。慣れた人にとって「そんなの意味がない」とか「つまらない」と思うことを、慣れない人が「魅力的」「やってみたい」と思うかもしれません。このように慣れた人と慣れない人で適した方法が異なる場合があり、こうした現象は認知負荷理論で「熟達化交互作用」と呼ばれます。

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「このやり方を取り入れて欲しい」とか、「こういう課題に取り組んで欲しい」という状況を考えると、教える側は慣れた人で熟練度が高く、教えられる側は慣れていなくて熟練度が低い場合もあるでしょう。その場合、「やり方」の難易度や魅力には、教える側が思うよりも大きなギャップがあるかもしれません。

そうだとすると、そのやり方自体の魅力を伝えることに加え、手順を減らしたり一つ当たりの時間を減らすなどで、教えられる側の主観的な難易度を調整することも、選択肢の一つと言えます。もちろん、その手間はかかりますし、簡単なことばかりやらせてても上達しないのではないか、限界まで簡単sにしているのにそれでもやらないなどの課題はあるでしょうが、日々実践する試行錯誤の引き出しに、「魅力」と「難易度」も加わると、選択肢の幅が広がるように思います。